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#03 枯渇

Retuoseへ



  筒状の隔離防壁の直径は100mほどで長さは280㎞。 Retuoseという小さな田舎町までつながっている。 平常時ならこの中を旅行者が歩くことはない。 ディデリスという線路上を移動する大型の乗り物が滑走していて、その所要時間は2時間弱だ。

  Steigmaには、これと同じものがここから南側を回って西側までの間に一定間隔で9本もあり、出入国を管理するための国防の重要なインフラになっている。

Steigmaは防衛力だけは高かった。 かつて大陸最大の守りと言わしめたほどだ。

  しかし、それも昔の話だ。


  宿場町を抜けたジーナは、筒状に伸びた物理障壁の中の道をひたすら走ってきた。

だが、今はもう、そのスピードは常人のそれと大差がない。

  息も上がり始めている。 走るジーナの影は後ろに長く伸びている。


  肩で息をしながらスピードを緩め、ジーナは走るのをやめた。 だが、足は止めない。

サテラはほとんどの魔力をジーナに渡していて、余力はもうない。 ジーナの魔力も残り少ないことは、身体がつながっているサテラには分かっている。


  『ジーナ... 少し休んで...』 サテラが歩き続けるジーナに言う。 その声も消えそうなほどに小さい。


ジーナ 「ええ、サテラ。 でも、あと50㎞くらいなの」


サテラ 「...ごめ... ...も...う ......」


蚊の鳴くようなサテラの声に、ジーナは『わかった』と答えた。


  道の脇の草むらにジーナが両手をつくと、サテラはジーナの身体から剥がれ落ちた。

そして、あられもない姿で草むらに横たわった。

サテラの魔力は完全に底を突いてしまい、液体の状態を維持できなくなったのだろう。

ジーナは、『ごめんね、無茶させて』そう、サテラに優しく声をかけた。

そして、サテラに服を着せると、サテラを背負ってまた歩き出した。



◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇ 


  日が暮れて、辺りが暗くなる。

時々、サテラがうわ言のように、『ジーナ... 休んで...』と繰り返す。

辺りには、それ以外にほとんど音がない。 あるのはジーナの足音くらい。


  宿場町から200㎞以上も移動してきて、ジーナたちは誰にも会わなかった。

幸い、宿場町の方からの追ってもなかったし、Retuoseからの国防軍と鉢合わせることもなかった。

だが冷静に考えれば、これは、間違いなく異常事態だということがわかる。

開戦の知らせがないまま、すでに戦争は始まっていて、王都が攻撃を受けているかもしれない。 Sauresが宣戦布告をしないで奇襲を仕掛けてきた可能性だってある。 しかし、300㎞も離れた隔離防壁の中では、王都の様子など分かるはずもない。

ジーナは駆けだしたい気持ちを抑えているようだった。


  ジーナを悩ませているものはもう1つある。

何にしても、向かっている先のRetuoseには、間違いなく軍部が敷く検問があるはずだ。

ジーナたちは入国手続きをしていない。 いわば、不法帰国者だ。

そして、ディデリスの運行を止めているのも、国境を閉鎖していたのも、軍部の指令だろう。

普通にいっても、検問を通してもらえるはずがない。 力ずくで検問を突破しようにも、体力がもうない。

どんな風に話を持ち掛けたらそこを抜けられるか、ジーナはいろいろ思案しているようだった。



◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇   ◇◇◇ 


  日暮れから夜通し歩いて10時間。

残り20㎞くらいだろう。 あと数時間で夜が明ける。


  『!?』 前方にたき火らしきものを見つけた。

『ツいてる!』 ジーナは思わず声に出してしまったが、サテラの反応はなかった。

ジーナも、サテラの意識が落ちていることは分かっている。

そっと、サテラを背負いなおすと、ジーナは声を上げた。



ジーナ 「すみません」


老人 「おっ! お、おぉ。 驚いた」


ジーナはなるべく気を使って遠くから声をかけながら来たのだが、老人の耳は遠いらしく、気付いてもらえないので、結局で大きな声を出して驚かせてしまうことになった。


ジーナ 「申し訳ありません。 驚かせてしまって」


ジーナが言うと、老人は耳まで深く被っていたフードを脱いだ。 聞こえなかったのは、どうやらそれのせいらしい。


老人 「いやいや、わしの方こそすまなんだ。 旅人さんかいのう? しかし、なんでまた、こんなところに? まさか女の足で歩いてきたわけじゃないろう?」


ジーナは少し笑顔を作ると、不審がる老人に体のいい作り話を聞かせた。

知人の馬車に乗せてもらって王都に帰る途中だったが、数キロ向こうでその馬車が壊れてしまった。

しかし、相方の具合があまりよくないので、宿に連れて行き、医者に見せたいと。


老人 「おっ! おお、それは…」


  老人のリアクションは、ジーナが思っていた以上のものだった。

老人は、ジーナがサテラを背負っているのに気が付くと、


老人 「これは、いかん」


といきなり持っていたポットの湯でたき火の火を消した。

寝ていたジルガスをたたき起し、慌ただしく出発の準備を済ませる。


ジーナは気の良い老人に言われるまま、サテラと馬車の荷台に乗り込んだ。



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