#02 Sauresの刺客
冒険者ギルド
バーには静かな音楽が流れていて、落ち着いた雰囲気が創られている。
ジーナたち4人の他に、2組のカップルが居たが、座る席は十二分に空いていた。 ジーナたちは一番角の入り口が見える席に付いて腰を下ろした。
ここへ来て親子はようやく安心したのだろう。 ウイスキーを受け取ると、再度ジーナたちに礼を言ってしゃべり始めた。
彼ら曰く。
親子はSauresの国境の商業都市で道に迷い、運悪く目的地だった商業者ギルドと間違えて、冒険者ギルドに踏み入ってしまった。
そのまま、ギルドの食堂で休息を取っていると、突然、ギルドの全ての出入り口が閉じられ、窓にはカーテンが引かれた。
そして、政府の役人風の男が付き人を連れて現れ、『冒険者諸君!』と大声であいさつをした時にようやく、自分たちが場所を間違えていたことに気が付いたのだと言う…
何所からともなく現れた50人ほどの冒険者たちが参列し、2人はピリピリとした雰囲気にのまれてしまい、行商であることを言い出せずにいた。 それどころか流れに乗って、守秘義務を謳った書類にサインまでしてしまったと言う。
そして、そこで聞かされた話は行商人の彼らにとっては驚愕するものだった。
本来、冒険者とは、アウトフィールドで資源の散策や要人の護衛などの依頼を受けて、人外のモノたちを相手にすることをなりわいとしている。
だが、そこで政府機関から彼らに依頼された仕事は“人狩り”だった。
内容はSteigmaの民の口封じ。 戦争の混乱に乗じて逃げ出してくる人間を狩ること。
役人は、西から南側を回り北東までのラインは、Sauresがすでに包囲網を敷いてあると、地図でポイントを示しながら説明した。
しかし役人は、それでも万が一にも、Steigmaから逃げ延びる者があってはならないとして、残るアウトフィールドの西から北側のラインに冒険者たちに網を張ってもらい、一人残らず出て来る者を“刈り取る”ことを依頼するために来たと話した。
しかも、条件はたった3つ。
Steigma領土の防壁ラインから中へは踏み込まないことと、“獲物”の止めは必ず刺すこと、そして、Sauresの派遣する人員1人をチームに受け入れること。
報酬として、事前に遠征の準備金に金貨1枚をチームに支給すると役人が言うと、会場にはざわめきが起こった。 そして、獲物の右手腕一本と金貨1枚を交換すると言い放った時には、冒険者たちから獣のような歓声が上がったらしい。
超法外な値段だが、そのことからも徹底した攻勢の姿勢が伺えて、“Sauresらしい”とサテラはジーナを見て言った。
冒険者たちには、チーム同士の争いを避けるためにとギルドが音頭を取り、西側から順にくじ引きでエリアが割り当てられていったという。
行商人の2人は、会場の冒険者たちがくじ引きに夢中になっている透きに、裏口からなんとか抜け出すことができたらしいのだが、通りに出たところを門番に見つかってしまい、商売道具の馬車をおとりに使って命からがらLedasまで逃げ帰って来たのだと言った。
行商人たちは、思い出しながら震えあがっていた。
ジーナはそこまで聞くと早口に礼を言って、十枚ほどの銀貨をテーブルに置いて席を立った。 Sauresほどの太っ腹ではないが、商売道具を失くした彼らが当面を暮らしていくには十分な額だ。
ジーナは行商人たちに同情するような表情は見せてはいるが、もう営業スマイルはない。
中年の男は、再度ジーナに礼を言う。
そして、行商の男がジーナたちの行く末を憂いて声をかけた時には、ジーナの姿はそこにはなかった。
サテラは代わりにジーナの分まで頭を下げ、『こちらも、お二人の幸運をお祈りします』と男に言い残し、ジーナの後を急いで追った。