#02 Vakaru到着
待ち人
ジーナたちがLedasの西の商業都市に着いたのは、王都を出発してから4日目の夕刻になってしまった。
予定よりも1日をここまでにロスしてしまい、ジーナは苛立ちを積もらせていた。
Ledas第3の商業都市Vakaruには、4年ほど前に洋服の買い付けに訪れたことがある。
ジーナたちは、まだ着いたばかりで感覚的な感想でしかないのだろうが、以前と比べて幾らか活気がなくなっているように見えると話していた。
ジーナとサテラは、ターミナルからタクシーで予約していたホテルに直行する。
よほど時間が惜しいのだろう。 チェックインを済ませて、部屋に荷物を置いてシャワーだけ浴びると、そのまま情報収集のために街へ出かけた。
国境の宿場町と違ってVakaruは情報が多い。
酒場も定食屋も、何処もRyhtaiとSteigmaの再戦のうわさ話でもちきりだった。
しかし、話の中身は、この街から一番近い戦後のSteigmaに何が売れるかという話くらいで、特に真新しい情報も、役に立ちそうな話もなかった。
ジーナたちがほしいのは、LedasとPramonesに関する情報だ。 獣人国のZeverieの情報もほしい。 なぜなら、最悪、Ledasがダメな場合には、人界の外側に出ようとジーナたちは考えているからだ。
夜も深まってくると、盛り場に女性2人はさすがに目立つ。
男たちから、話を聞くのには困らないが、それだけでは終わらない。 必死でおとしにかかってくる男たちをあしらいながら、ジーナとサテラは情報収集を続けた。
そうして、街に出てから5時間がたって22時。 成果は得られそうにないと2人は諦めて席を立った。 情報収集を日中に変更し、明日、商業者ギルドに行くことにして切り上げた。
ホテルに戻ってきたジーナたち。
エントランスのカウンターで、あくびをしながら部屋のキーを受け取ったジーナに、サテラが耳打ちした。
客の中に様子がおかしい者たちがいるのに気付いたのはサテラだった。
言われた方を見ると、植木の隅のソファに腰を掛けた行商人風の親子が2人して、隠れるように座っている。
ジーナはサテラにうなずくと、真っすぐに2人の方に向けて歩き出した。
先に顔を上げたのは、若い男の方だった。
男は向かってくるジーナとサテラを見て、ごくりっと唾をのんだ。 だがそれは、盛り場の男たちのそれとは違って、若い男の目には不安と恐怖しかなかった。
先にサテラが若い男の隣にトンと座り、驚いて顔を上げた中年の男の前に、ジーナが立った。
逃げ道をふさがれたと分かった親子の顔は、血の気を失った。
だが、そんな親子とは反対に、ジーナたちは明るくそろって一礼した。
ジーナたちの感は、『待ち人が来た』と確信をもって告げていたのだろう。
にっこり笑って自己紹介を始めたジーナとサテラの営業スマイルは、今日見せた中で最高のものだった。
そして、ハッキリと2人の口から、『危害を加えるつもりはないので、話しを聞かせてください』と親子に柔らかく伝えられ、それを聞いてから、親子の緊張は半分くらい溶けた。
サテラが手を上げてカウンターに4人分の飲み物を注文した。
中年の男は、危険はないと判断したのか、ポツリポツリと話し始めた。
男は追われていると話した。 逃げる途中で追手は何とかまいたのだが、セキュリティのことを考え、身分に不相応なこのホテルに宿泊することにしたらしい。
男が運ばれてきた果実酒の入ったジュースを口にしながら、『Sauresから逃げ帰ってきた―』と話したところで、ジーナとサテラが反応した。
サテラが慌て、『チェックインはもう澄ませたのですか?』と聞くと、男は首を振って答えた。
ジーナとサテラが崩れるように息をつく。
追われているのなら実名でのチェックインは危険だと話すと、中年の男もちょうどそのことで迷っていたところだったと言った。
男たちは、犯罪を行うような風体にはとても見えない。 そこへ来て、Sauresに追われているとなれば、ただ事でないのは確かだ。
ジーナは辺りに気を張って安全を確認すると、エントランスのアテンダントに2人はジーナたちの客だと話し、2階のバーの席へ移動した。