#02 ジーナとサテラ
開戦前に国外に出ていたジーナとサテラです。
王都から東のLedasに向かっていました。
入国審査
優たちの居る時間から6日前――
ジーナたちが王都をたってから2日目の午後のこと――
アナウンスが、数分の内にLedas側の宿場町に着くことを告げる。
降りるための荷支度する旅人たちが立ち上がっていて、ディデリスの車内はにわかに雑音が増えた。
ディデリスの車窓には、殺伐とした風景が流れていく。
どこまでも続くような薄黒い大地には、1本の草も生えていない。
ジーナたちはそんな景色の中に、物理障壁が配備されていることを確認した。
国境線には10㎞ほどの緩衝地帯が設けられている。 “何か”が地中に埋められた跡のような3本のラインは、Ledas側の緩衝地帯にあった。
Steigmaを包囲するための密約が、RyhtaiとLedasの間でもすでに結ばれているのだろう。
これはダンテが予想していた通りだ。
開戦と同時に、人も物も、そして、情報すらも外界から遮断され、Steigmaは封じ込められる。
Sauresからしてみれば、終戦後の歴史に残されるSteigmaについての情報は、『滅亡した』の一言だけでいいのだろう。
ただ事でないことだけは何も知らない他の旅人たちも察知したようで、下車する前のわずかな時間で、互いに結論の出ない疑問を投げかけ合っていた。
手荷物しか持たないジーナたちは、中型のキャリーバッグ引きながら誰よりも早くターミナルを出た。
そして、Ledasの入国管理センターへ急ぐ。
Ledas側の国境の宿場町は、ジーナたちが思っていた以上に混雑していた。
この場所はLedasとSteigma、そして、Ryhtaiの属国になることを受け入れた小国が国境を連ねている。
Yの字に両国からLedasに流入する旅人たちで賑わっているのは普通だが、この混雑具合は普段とは違っていた。
案の定、入局管理センターのゲートには、長蛇の列ができていた。
荷物の持ち込みには制限がかかっているらしく、その大半が大きな荷物を積み上げて立ち往生している。
見たところ入国審査に弾かれたのは、主にSteigmaからの旅人たちがほとんどで、税関の入っている建物の前で居座って抗議している。 それが原因と思われるが、他にもいろいろとゴタついているようにも見える。
「――これは、大変ね… サテラはどう思う?」
「おおかた、上流階級の引っ越し荷物が止められているだけじゃないでしょうか? 貴族たちが“引っ越し”の前に荷物をLedasに送ってきたのが止められているだけのように見受けられますが…」
「そうね… それだけであってほしいわね…」
長い列に多少の苛立ちと不安を覚えながら並んだジーナたちだった。
そうでなくても遅れていた。 Steigmaの出国手続きに時間がかかってしまい、予定よりも6時間ほど時間が押していた。
そして、ジーナたちの順番がきて、審査官から身分証の提出を求められた時には、もう外は暗くなっていた。
軽装だったジーナたちは割合とすぐに旅券に判を押され、通路へ進むように審査官から言われた。
だが、進んだ先の案内係に、『1次審査を通過された旅行者様はこちらです』と案内された。 そこは、昼間と通った宿場町への出口で、見覚えのある街並みに明かりがともっていた。
顔を見合わせたジーナたちが、何のことかと恐るおそると聞き返すと、2次審査がまだあるので、その結果が出るのを待つように言われた。
最近審査規定が見直されたばかりらしく、1次審査は従来の証書確認と荷物チェックで、2次審査で身分証のチェックと犯罪歴や職業履歴などを詳しく審査されると説明された。
そして、2次審査は別の審査室がやるので2人は待っていればいいだけとのことなのだが、しかし、審査には半日ほどかかるから宿をとるようにと勧められた。
つまり、今はもう夜なので、2次審査の結果が出るのは、明日の午後ということになる。
案内係は、明日の正午以降にここの通路の窓口に来るように言うと、一礼して去っていった。
思わぬ処でまた時間を取られることになって面食らったジーナたちだったが、“笑って”受け入れるより他になかった。
「これが、この宿場町が賑わっている訳ね...」
「そのようですね… ここへ来て、このタイムロスは痛いですね。 どうしますか? このまま王都に引き返すのも賢明かと思いますが?」
「いいえ、ここで引き返したら1ヵ月は出国の許可が下りないわ。 得られるだけの情報は収集するわよ」
2人は宿をとると、宿場町を出歩いた。
行商人たちの話を聞いてわかったことは、Ledasは以前と比べて特に変わりなく、Ryhtaiの景気もSteigmaと同じで良くないという事ぐらいだった。
宿場町では特に有益な情報は得られず、ジーナたちに入国の許可が下りたのは、あくる日の15時のことだった。