表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/61

#-1 Ledasの諸事情

Ledas王国のお話です。



  Ledas国の歴史は古く、かつてのSteigmaやRyhtaiと並ぶ強国だ。

だが、その国力が担保されてきたのは、この国が地政学的に優位な位置にあるからに他ならない。 東西に長い国土を持つLedasは、北のドワーフや東のセリアンスロープと人界の橋渡しで経済を回してきた。

  しかし、移動手段が技術的に制限されていた時代ならまだしも、時間と距離を短縮できる技術が開発されて確立されつつある現代では、立地条件など意味をなさなくなりつつある。

  加えてLedasは、急速に台頭してきたSauresを中心とした国々の作る経済圏に反発していて、その経済摩擦の影響で内需の景気も冷え込み始めている。


  この国は、移民に対して寛大だ。

税金を納めるなどの他に、社会貢献をする意思を示す者には、移民のみならず難民であっても、一定の実績が伴えば市民権が認められる。 それどころか、条件さえ整えば、衣食住を市や国が保証することでさえあり得る。

  しかし、その一方で、社会的秩序や伝統文化を重んじすぎるあまり、行き過ぎた厳罰が敷かれたりする傾向もあり、極端に保守的な一面もある。

  移民を受け入れることと保守的な政治社会体制は、一見すると矛盾するものを混在させているようにも思えるが、それには訳がある。

  この国は必要に迫られ、国策として移民を誘致する政策を進めているのだ。


  Ledasの純国民の少子高齢化率は非常に高い。

一つに、Ledasには北と東の強国に裏打ちされた強力な経済力があったお陰で、1世紀以上も戦争は無く、皮肉にも平和と安定が続いているせいで、国民の平均寿命が延びてしまったこともある。

  現国王が91歳でそれに次ぐ皇太子が67歳と、この国の現状を象徴している。


  そんなLedasでは、政権を握る大多数の年寄りが、老人を優遇する政策をひた走らせて半世紀が過ぎた。

未来への投資を怠りながらも、増え続ける老人を手厚く養護することを至高善とした政策は、数多の弊害を引き起こしつつもその進路を変えることはなかった。

  ひっ迫する財政と減り続ける出生率を目の当たりにしても、老人優遇政策が宗教的・観念的に続けられ、人口の大多数が高齢者という段階まで来て、ようやく、歯止めがかかった。 これが、15年ほど昔の話だ。

  だが、時すでに遅い。 1人の若者に対して3人の高齢者がのしかかった状態は、“おんぶに抱っこに肩車”。

重圧を背負わされた若者たちが子供を産めるまでに支援しようにも、国に残る余力は寄生的な老人たちばかり。

  小手先の(はかりごと)では何も変えられず、悪循環は加速度的に進んでいった。


  そして、Sauresの台頭でそんな数少ない人的資源にも流出が起こってしまう。

若者は自由を求めて、Sauresとその周辺国へ飛び出して行ってしまった。

  このことも、LedasとSauresの仲が険悪になっている要因の一つだ。


  若者が減ってLedasの直面した一番大きな問題は、正常な社会の運営において重要な役割を担っていた奴隷制度の維持が困難になったことだった。

通説として、一般市民の総数に対して1/4の奴隷の数が理想的な数とされているが、高齢者だらけのLedasはこの限りではなくなってしまった。

  奴隷を支配し制度を維持するには、“力”にモノを言わせる必要がある。

だが、国民が年寄りだらけではその数に足らなくなる。

そこで、保守的なこの国も背に腹は代えられず、移民の受け入れという苦渋の選択をすることになったのだ。

  こうしてLedasには、政治的な大転換が起こされた経緯がある。


  幸いにもLedasにはまだ、政治学に聡明な者たちがいた。

異文化の流入で社会的・宗教的秩序が乱れるのを見込んで異民族のための特区を作り、自国の伝統文化圏と分けて共生させることでこの問題を不時着させたのだ。



  しかし、そんなLedasも決して安定しているとは、とても言えない。

寧ろ、国際情勢だけを見るなら、絶望的だろう。

“数少ない若者”という資源を奪われた憎きSauresに飲み込まれる危険性も多分にある。

  Sauresは大陸の西側の海洋資源を持つRyhtaiをすでに取り込んでいる。

次にSteigmaの持つ広大な穀倉地帯を完全に手中に収めたら、Sauresは人界の歴史において、かつてないほどの帝国となる。


  故にLedasの運命は、ドワーフ族の治めるPramones帝国が、このSauresの台頭をどう捉えているかに懸かっていると言って過言ではない。


  例えばもし、両帝国の外交がこじれてドワーフと人の種族間戦争にでもなれば、Ledasは両国に挟まれて焦土となる。 滅亡だ。


  だが、反対に、PramonesがSauresと直に国交を結んだとしても、Ledasに未来はない。

その場合、Steigmaのように攻め滅ぼされるか、Ryhtaiのように吸収されるかのどちらかになる可能性が高い。

  仮に、緩衝地帯として残されたとしても、Pramonesの支援が望めなければ、どのみちLedas王国はなくなる…


  だがしかし、PramonesがSauresを牽制するのなら、望みはある。

Ledasは両帝国の間の緩衝地帯としてPramonesの支援を受け続け、今のままで存命し続けられる可能性が出て来る。


  これが、Ledasにとっての最良のシナリオだ。

だが、そのためには、Ledasは国の若返りを図り、緩衝地帯となり得るだけの“弾力”を取り戻さなければならない。 さもなくば、Pramonesは交渉にすら応じることはないだろう。

  LedasがPramonesの傘下に入れてもらうための最低条件が、国の若返りだ。


  だから今、国の存続を賭けてLedasの王政は、移民優遇措置を取り、異文化特区に移民を受け入れる政策を積極的に押し進めている。


  ダンテたちが苦慮していた移住先に、Ledasが候補に挙がっていたのはこのためだ。




次回から、ジーナとサテラです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ