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#01 地平線

優とハンナ



  玄武岩は朝の陽ざしを受けて温かい。

午後の陽ざしは木々に阻まれて届かないが、冷えた体には岩肌は心地よかった。


  優はなかなか上がってこないナトを寝そべって待っていたのだが、いつの間にか寝入ってしまっていた。

ふと目を開けると、薄緑の髪の毛がみえた。 そして、白い手がナトの頭をタオルでゴシゴシゴシっと拭いていた。


  ナトが濡れたタオルを首から下げて、バケツを振り回しながら馬車の方へかけて行く。 

ハンナは脇に置いてあった籠をとって優の方に向き直った。

『あら、起きちゃった』 そう言って覗き込んでくる。 


「ああっ! 勝手に包帯取ってる。 取らないでって言ったのにー」




  馬車の方ではダンテたちが、ゆっくりと片づけを始めていて、そこにナトが駆けてくる。


ナト 「見て、これ! 変な虫」


ダンテ 「ん? あぁ、ラウムの幼虫だな」


ナト 「連れて行っていい?」


ダンテが笑いながらナトにOKを出すと、ナトはさっさと一人で荷台によじ登る。

隣で 『ふふッ』 とアリスが笑う。


アリス 「ナト君は、かわいいですね」


ダンテ 「ハハハ、そうだな」


アリス 「ダンテさん。 そして、あっちの2人。 仲がいいです。 ちょっと、妬けてきません?」


ダンテは、アリスから目を反らすと、いつもの調子で頭を掻いてはぐらかした。

アリスは、それを面白がるようににこにこしている。




  ハンナは、摘んできた白い花を優の黒い髪にさして、『うん!』と何かに納得している。

少し伸びてきたハンナの髪の毛先が優の顔に触れて、くすぐったくて優は起き上がろうとした。


「動かないで! もう少し――」 「ゔっ!」


ハンナの手が優の胸を抑えた。

筋肉痛と脇腹の痛みに喘ぐ優は、容易くハンナに制されて『痛いよ』と弱々しく言った。

もちろん、ハンナも分かってやっている。  『フフッ、 もう、ちょっとだけ』 そう言って悪戯っぽく笑った。

目の焦点を優の黒髪に合わせてハンナは花を挿してく。

『起きてもいいよ』 そう言ったハンナの髪にも、白い小さな花がたくさん連なっている。


「どう?」 


優も意地悪くハンナの質問に答えないでいると、優のお腹に左のブローが入った。

  マウントを取られていて、手負いの優には、はじめから勝ち目はない。



  ハンナは優と並んで寝転がる。


  雲が風に乗って、 地平線の彼方に流れていく。

王都の隔離防壁の中で育った優たちにとって、こんなに間近に見る空は、 初めて見る光景だった。


  王都でも雲は見えた。 でも、比べ物にならない。


  ここでは空が近くて広い。

呆気にとられた優にハンナも気付いて 『キレイね』 とつぶやいた。  


『うん、でも、 ――世界はもっと広いんだろうね』 優はそう言うと、大きく息を吸った。


ハンナは、遠くを見つめる優の手をとって起き上がると、ハンナは、急にか細い声を出した。

  『優の行くとこに一緒に行ってもいい?』 


  優はまた、直ぐに答えなかった。

さっきまでのハンナの悪戯モードからのギャップが可笑しいらしく、優は少し意地悪をしてやろうかと思ったのだろう。

そんな優の顔を覗き込んだ弱々しいハンナの顔は、プーっとふくれた。

少し間をおいて優が『いいよ』と答えると同時くらいに、また優のお腹にハンナの左ブローが入った。


木陰でじゃれあっている優とハンナを、ナトが呼びに来た。


出発の時間だ。



優たちの方は、一旦お休みです。


次回からしばらくの間、国外に出ているジーナとサテラの方に視点が変わります。

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