表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/757

3 こぶたぬきつねこ(真弓視点)

 今回は娘ちゃん視点です。

 放課後、喫茶いしかわで宿題をしている私、石川真弓。

 たまたま隣の席に座った、常連になりつつあるお姉さんから話しかけられた。


 「もしかして、真弓ちゃんもお料理好きだったり、上手だったりする?」

 「うーん。嫌いじゃないよ。でも上手なのかは……お父さんやお母さんは何作っても美味しいとしか言ってくれないもの」

 叱るときはムチャクチャ怖いけど、基本的には溺愛で甘めなのがうちの両親だ。


 「そっか」

 「お姉さん、どうしたの? 急にそんなこと聞いてきて」

 「あのね、私、お料理あんまり得意じゃなくて。それで、どういう人が上手かなって考えて。もしかしたらレストランとか喫茶店でお仕事してる人のお子さんなら、英才教育とかされてるのかなぁって思ったのよ」

 少し困ったように笑いながら答えてくれた。


 「お母さんはお料理上手だと思う。私ね、あの、他の人に言っちゃダメだよ?」

 そっとお姉さんに体を寄せると、お姉さんもこちらに耳を近付けようとしてくれた。

 「私、ちっちゃいときはお母さんみたいに上手なのが普通だと思ってたの。お父さんもすごく上手だから、大人はみんな美味しい料理が作れるんだって。小学校に入って給食を食べて、初めてお母さんもお父さんもすっごくお料理が上手なんだって気付いたの。なんでお母さんのお弁当じゃないんだろうってガッカリしながら給食食べてたわ」

 唇に人差し指をあてて、「絶対内緒ね!」と念を押す。

 お姉さんもくすくす笑って唇に人差し指をあてて、うふふと笑う。


 「あ、でも、私がお料理始めたのは早かったかも。幼稚園のときにね、自分でごはん作ってみようってやらせてくれて」

 「え!? 難しくなかった?」

 「あのね、料理って言っても材料が揃ってるサラダの盛り付けとか、順番通りに材料を入れてレンジでチンするとか、そういうのだからね。包丁使うのとか、難しいのはお母さんが一緒じゃないと作らせてもらえなかったの」

 「ああ、なるほどね。ひとりでも危なくないようになってたのね」

 「うん。材料が全部切ったり量ったりしてあって、順番に入れて、レンジでチンするようになってたの。トマト入れます、ベーコンと玉葱入れます、コンソメ入れます、レンジのボタンピッ、みたいな感じ」

 「へぇ。ゆかりさんに詳しく聞いてみようかな。幼稚園児の真弓ちゃんにできたなら、私も作れそうな気がする」

 「うん、お揃いのごはんだね。きっと美味しいよ」


 「お母さんすごいのがね、順番がわからなくならないように、おうたの順番にしてくれてたのよ」

 「ん? おうたの順って、どういうこと?」

 「あのね、『ぱんだうさぎこあら』と『こぶたぬきつねこ』って知ってる?」

 「ええ。ぱんだうさぎこあら~♪ ってやつでしょ」

 お姉さんは見事に振りつきで歌ってくれた。

 「ふふっ、そうそれ。お姉さん上手だね」

 ちょっと恥ずかしそうにしているお姉さんがなんだか可愛い。


 「それでね、幼稚園に入ったばかりのころは私、1・2・3……って数字で考えるのが難しかったの。だから幼稚園で習った『ぱんだうさぎこあら』の順とか、『こぶたぬきつねこ』の順に入れてね、ってマークが書いてあったの」

 「ああ、そっか。歌は覚えてるから、その順番に入れればいいようにしてあったんだね」

 「うん。お父さんとふたりで考えたんだって。ふふふ」


 「最近は私もコンロ使っていいことになったから、フライパンの料理もちょっとだけ作れるようになったの」

 軽く胸を張る。お姉さんもおおすごいと小さい拍手で応えてくれる。

 「お姉さんにも絶対できる料理、ひとつ知ってるよ。包丁も使わない」

 「え、ちょっと待って! メモさせて!」

 慌ててごそごそと鞄から手帳を出したお姉さんの前で、作り方を思い出す。

 「あのね、テフロンっていう焦げないフライパンにもやしをどばーって入れて、もやしの上に薄い豚肉を並べるの。豚肉の上から塩コショウをパラパラってして、アルミホイルを軽くのせて蓋をして、弱火でじっくり火を通すの。豚肉は生焼けで食べたらダメだから。食べてみてもし味が薄かったら塩コショウ追加したらいいし、お父さんは七味唐辛子かけて食べてる」

 「ふうん。えっと、分量とかは?」

 「ないよ。適当。食べながら塩コショウ足してもいいくらい自由!」

 おぉぉ……と救世主を見つけたような顔になっているお姉さん。


 「ちなみにこれもお母さんが教えてくれたレシピだよ。うちのモットーは“美味しいは正義”なの。お母さんは手の込んだのも作るけど、普段はすごく簡単なはずなのに美味しい料理が多いんだよ」

 ぱちりとウインク。あらやだ、お父さんの癖がうつっちゃった。


 「真弓ちゃん、宿題終わったの?」

 「あ、お母さん。あのね、このお姉さんにもやしと豚肉のやつ教えちゃった」

 「え? ああ、あれね。あれ簡単でいいわよねぇ」

 お母さんはくすっと笑ってから、お姉さんに笑顔を向ける。

 「最近は真弓ちゃんがお夕飯にそれを作ってくれることも増えて、美味しいし、私も助かってるんですよ」

 お母さんに褒められた。嬉しい!

 「作ってみたら、感想教えてくださいね」

 お水の交換をしながらお姉さんに話しかけるお母さん。お姉さんの目線はお母さんにロックオンしたままで、なんかキラキラしてる。

 「ありがとうございます! 師匠!」

 「……へ?」

 きょとんとする私たちをよそに、すごくご機嫌になったお姉さんは、そそくさとお会計をしながら「困ったらまたお知恵を拝借しに来てもよろしいでしょうか?」と聞いていた。

 「え? ええ」

 「ありがとうございます! また来ますね!」

 それはそれはいい笑顔で店を出て行ったお姉さん。

 帰り道でご機嫌すぎる鼻歌を歌いながらスキップして、うっかり途中で転びそうな気がするくらいのご機嫌具合なんだけど……大丈夫かなぁ?



 その後、数か月に1度はメニューに困ったお姉さんが「師匠~っ!」と駆け込んでくる姿を見かけることになった。


 真弓ちゃんがお姉さんに教えてたレシピは、私も手抜きしたい時というかほったらかしておきたい時に作ります。10分くらいかけてじりじり蒸し焼きで火を通すのが私は好きです。

 下敷きにしてるもやしから水分が出るので、焦げ付きの心配はほぼありません。

 ちなみに薄切り豚肉は、バラとか、少しくらい脂があるお肉のほうがこのメニューでは美味しいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ