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徒然とはいかない喫茶いしかわの日常  作者: 多部 好香


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50 運動会(中編)

 和樹さんと二人で並んでいると、事情を知っているはずの常連さんたちから散々冷やかされ、背筋が凍る思いをした。

 すれ違う多くの女性たちは、最初は和樹さんに見とれているのに、横にいる私を見て思いっきり眉をひそめる。いや、身の程知らずは重々承知していますよ!? でも仕方ないじゃないか!!


「ゆかりさん、飛鳥ちゃん入場しますよ」

「え? あ、本当だ! 写真写真っ!」

 和樹さんに声をかけられて、慌ててズボンのポケットからスマホを取り出して構える。ちなみに私は写真担当で、和樹さんは動画担当だ。周りにいる大人たちも、一斉にカメラや録画機器の準備をして我が子の勇姿を収めようとしている。


 私はとにかく写真を撮るのが下手くそなので、下手な鉄砲も数打ちゃ当たる戦法でとにかく撮りまくる。正直言って動画撮影には全くもって自信がなかったので、和樹さんが来てくれて本当に助かった。……運動会後の私はおそらく大炎上で重症だろうけど。


 開会式と準備運動がわりのラジオ体操が終わり、最初の競技に参加しない園児は各地区のテントに戻って来る。

「あー! やっぱりゆかり姉ちゃんと和樹兄ちゃんだー!」

「ね! 桃香の言った通りでしょ!」

「桃香ちゃんすごいですね! ぼく全然見えませんでしたよ!」

 飛鳥ちゃんのお友達の孝志くん、桃香ちゃん、拓実くんが大興奮でこちらに駆け寄って来る。三人の後ろから飛鳥ちゃんがゆっくりとした足取りで帰って来た。


「えっと、今日は飛鳥ちゃんのご両親の代理で飛鳥ちゃんの応援に来たの」

「そうなんだ! なんだか本当のお父さんとお母さんみたい!」

 大人たちのニヤニヤと意地の悪いからかいを含んだ言葉ではなく、純粋なキラキラとした目を向けられて言われたら、真っ向から否定できずにうっ、と言葉に詰まった。

「いやー、私では荷が重いというかなんというか……」

「えー! でもすっごくお似合いなのにー!」

 おませな桃香ちゃんにタジタジになってしまう。和樹さんに助けを求めるために視線を送っても、ニコニコと笑っているだけだ。


「静かにしてないとそろそろ怒られちゃうよ? 先生がこっち見てる」

 私が困っているのを察してくれたのか、飛鳥ちゃんが助け舟を出してくれた。三人は飛鳥ちゃんの言葉にハッとした表情を浮かべて自分の手で口をふさぐ。

「今日は来てくれてありがとう、ゆかりお姉ちゃん、和樹さん」

「いえいえ。今日はいっぱい写真と動画を撮って、飛鳥ちゃんの勇姿をご両親に送るからね!」

「ハハハ……」

 まるでさっき選手宣誓をしていた子達のように右手を挙げて、飛鳥ちゃんに宣言する。

 私は今日重大任務を担っているのだ。和樹さんに振り回されている場合じゃない。



「飛鳥ちゃーん! 頑張れー!」

「飛鳥ちゃん頑張れ!」

 クラス対抗リレーでは飛鳥ちゃんが大活躍だった。飛鳥ちゃんのクラスは全クラス中最下位だったのだが、アンカーの飛鳥ちゃんにバトンが渡った瞬間、飛鳥ちゃんがごぼう抜きして一気に最下位からトップまで躍り出た。

「きゃーっ! 行けーっ!」

 手に汗握る劇的展開に、私の方が興奮してしまった。


「すごいすごい! 飛鳥ちゃん一番ですよ和樹さん! すごい!」

「飛鳥ちゃん速かったですね」

「ですね! って、あああああ! 写真めっちゃブレてる!」

 自分の手元が疎かになっていたので、ブレブレの写真ばかりが残っていて悲鳴をあげる。

「これとかこれとか大丈夫なんじゃないですか?」

「本当だ! よかったー!!」

 和樹さんが横から私のスマホを覗き込んで良さそうな写真を選んでくれる。本当無差別に撮っておいて良かった……。私が動画担当だったら完全にアウトだっただろう。


 午前の部はこの学級対抗リレーで終わりだ。

 この後はみんな大好きお弁当タイムである。

 叔母さんはお弁当は作ります! と言っていたが、私と和樹さんの分も作らなきゃいけないし、ついでだからとお弁当作りも買って出た。


「うわぁ! すっごいねゆかり姉ちゃん!」

 大学の時、仲のいい子たちでお花見行っていた時に使っていたお重箱をぱかりと開けると、飛鳥ちゃんが中を覗き込んではしゃいだ声をあげた。

「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいな。叔母さんのお弁当には敵わないけど」

 定番の唐揚げ、甘い卵焼き、アスパラのベーコン巻きにかまぼこの飾り切り。海苔を切ってサッカーボールに仕立てたおにぎりに、タコさんウィンナーなどなど。

 今時のキャラ弁に挑戦しようともしたけど、練習した時になんだか絶妙にブサイクになってしまったので断念した。

 ちなみにその時の成果を和樹さんに見せたところ、私から顔を背けて肩を震わせていた。


「おいしい!」

「本当? 良かったぁ」

 飛鳥ちゃんが唐揚げを頬張って嬉しそうに笑ってくれるので、ほっとした。

「ゆかりさんの卵焼きは甘い派なんですね」

 和樹さんはおしゃれなパスタとかピザとかを食べていそうなのに、ありふれた卵焼きを食べている姿はなんだかちぐはぐでかわいいなと思ってしまった。

「はい! 和樹さんはしょっぱい派ですか?」

「どちらかといえばそうですが、でも甘い卵焼きも美味しいです」

 お世辞とわかっていても嬉しくって、顔が無意識に笑ってしまう。


 足りなかったらいけないと思って多めに作って、ちょっと作りすぎたかもと思っていた。でもその心配をよそに、飛鳥ちゃんと和樹さんはパクパクとテンポよく箸を口へ運び、あっという間にお重箱を空っぽにしてしまった。作り手冥利に尽きるというものだ。

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした」

 二人が手を合わせて深々と私に頭を下げてくるので、私も美味しく食べてくれた二人に深々と頭を下げる。


「じゃあ、次は僕の番ですね」

 和樹さんはいそいそと小さなクーラーボックスを取り出した。

「お弁当担当はゆかりさんにお願いしたので、僕はデザート担当ということで」

 そう言って取り出したのは宝石のようなオレンジのゼリーだった。器は本物のオレンジを使っていて、写真映えもバッチリなキラキラスイーツだ。

「うわあああー! すっごくかわいー! さっすが和樹さんですね!」

「すごっ……」

 運動会のデザートとは思えないほどの豪華さに、思わず声が大きくなる。


 渡されたオレンジの器はひんやりと良く冷えていた。ゼリーを口に入れれば爽やかな甘さと冷たさが口いっぱいに広がって、一瞬で疲れが吹き飛んでいく気がする。

「んんー! これで午後からも頑張れそうです!」

「それは良かった」

 イケメンフェイスとモデル体型、料理の腕前、そして頭の良さ。天は二物も三物も和樹さんに与えすぎではなかろうか?


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