550-3 if~勇者ユカリの大ぼうけ……ん? 3~
その時、廊下の反対方向から三人の若い男がこちらの方に駆け付けてくるのが見えた。
「ユカリさーん」
「あ、ジャンさん、ジョージさん、ジェフさん」
こちらの世界に来てからお世話になっている三人の男たちの登場にゆかりは看板娘らしい笑顔で応える。
三人はゆかりに会った途端、目に見えてデレデレしており、和樹はその様子に眉をひそめた。
三人のうちの一人、修道服の男がゆかりに話し掛ける。
「ユカリさん、今日もひとりで訓練を?」
「はい、そんなところです」
「訓練ならいくらでも付き合うのに……」
今度は黒いローブに身を包み杖を持った男が話し掛けてきた。
「ありがとうございます。でも私の力じゃ足でまといなので皆さんの手を煩わせる訳にはいきませんよ」
ゆかりが丁寧にやんわりと断った横からすぐに、鎧を装着した男が拳を握って力強く語る。
「何を言いますか! 我らは仲間ではないですか!」
その言葉に和樹はこめかみをピクっとさせた。
「仲間?」
声に出してそう言うと、ゆかりが和樹の言葉を拾って彼等を紹介する。
「和樹さん。この方たちは魔王を討伐する際に一緒に付いてきてくださる人たちです。魔王討伐の仲間なんですよ」
ゆかりは一人ずつ名前を教えてくれた。
修道服の男がジャン。
黒いローブの男がジョージ。
鎧の男がジェフ。
和樹はその男達を値踏みするように観察すると、「ほう……」とだけ呟いた。
三人の男達も、ゆかりの隣の見慣れない男が気になるようだった。
「あの、ユカリさん。この方は?」
「ご紹介しますね。私の世界から来た和樹さんです」
ゆかりは和樹を紹介してから
「実は召喚しちゃったんですよねぇ」
と照れながら和樹がこの世界に来た経緯を簡潔に説明した。
「ユカリさんと同じ世界から……」
三人それぞれ言いたいことがありそうに言葉を濁すが、和樹に対して良い感情を持っているとは言い難い視線を寄越すところは共通していた。
そういう視線を受ければ否が応でも気付くというもの。
(やれやれ。こちらの世界でも彼女はモテるのか)
どこにいってもライバルが多いという現実にため息が出そうになる。
だがこちらは異世界まで追いかけてくる程の強い感情をゆかりに抱いているのだ。
(……ライバルならば、蹴落とすまで)
和樹は意識して表情に笑みを作る。
敵意がないように見せて安い挑発を仕掛けることにする。
「そうですか、お仲間の方ですか。……しかしながら、ゆかりさんの魔王討伐の仲間として少々不安が残るというか……」
「な!?」
「和樹さん!?」
和樹の言葉に三人の男たちとゆかりの驚きの声が重なる。
和樹は続けて自論を述べた。
「いや、言わせて頂きますと、ジャンさんとジョージさん、でしたか? 明らかに鍛えていない体つきですし、ジェフさんは体躯に合っていない重装備だ。廊下を走ってくるだけで少し息切れしてましたよね?」
ゆかりの世界から来たという男の的確な指摘に、三人はワナワナと身体を震わせる。
「ちょっと和樹さん!」
黙っている男らのかわりにゆかりが和樹に言い返した。
「ジャンさんとジョージさんは回復と攻撃魔法の使い手で肉体派よりも頭脳派なんですっ。そしてジェフさんは厚い鎧で皆を守る重騎士さんなんですよっ」
ゆかりが一生懸命フォローに回ってくれたことに感激したのか三人共目を潤ませていた。
和樹はその三人を呆れた様子で見遣る。
「でも僕の指摘は間違ってないですよね」
その言葉にジェフは怒りを和樹に向けた。
「愚弄するのもいい加減にしろ! 俺達はいざとなったら盾になってでもユカリさんを守るという覚悟を決めて……」
「は? やめてくださいよ、そんな死に方」
和樹はシワが何本もできるぐらい眉間を狭めて不愉快を顕にした。
(そんな死に方をされたらゆかりさんの心に一生深く残ることになる。他の男が彼女の心に住まうなど許せるか)
「そんな死に方を企んでいるのなら安全な所にでもいてください。魔王討伐は僕がお供しますので」
いけしゃあしゃあと和樹はそう宣言する。
「えーーーっ!」
大きな声を上げたのはゆかりだ。
「か、和樹さんが!?」
「当然でしょう。僕は君に召喚されたんですからついて行くのは当たり前です」
(さっきは無理やり来たようなものとか言ってたのに)
ゆかりは一瞬そう思ったけど、懸命にも言葉にはしなかった。
「そんな、危険ですよ。和樹さん」
「危険ならばなおのことついていきます。少なくともこの御三方よりは役に立ちますよ」
「な、何を!」
今度は三人が大きな声をあげた。
和樹は口の端をあげてニヤリと笑い彼等を挑発する。
「試してみますか?」
(ゆかりさんを他の男とずっと一緒にいさせてたまるか。それに上手くいけば誰にも邪魔されないゆかりさんとの二人旅が実現できる)
独占欲と邪な考えを胸に秘めている和樹。
ゆかりは彼がそんな考えを持っているなど夢にも思わず、事の成り行きを唖然とした顔で見守るしかなかった。




