表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
徒然とはいかない喫茶いしかわの日常  作者: 多部 好香


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

752/758

550-2 if~勇者ユカリの大ぼうけ……ん? 2~

 集中して召喚の呪文を再び唱える。


(可愛い魔獣ちゃんとか……あ、ブランくんに似てる子とか良いかも)

 初めて生物の召喚が上手くいくなら可愛い生物が良いといつも思い描いていた。

 そんなゆかりの目の前に魔法陣が錬成されていく。ここまではいつも通りだ。


 しかし今回は違った。

 魔法陣はいつもより一回り二回り大きくなり大きな光を生み出している。

「ま、まさか……成功!?」

 一際大きく輝き出した魔法陣の中央に生物の気配がする。眩しくて目を開けられないが、それでも初めての成功にゆかりは小踊りしたくなる気分になった。


 強烈な光が徐々に薄れていくと魔法陣の中央の生物が姿を現し始める。

 そこにいたのは現代日本でもよく見かけるスーツ姿の人。

「え?」

 グレーのスーツに深緑のネクタイ、長身の男性と思わしき人物。


 やがて顔が顕になるとゆかりは驚愕し目を見開く。背が高くスタイル抜群で顔の造形が整いすぎている見目麗しい男性。

 かつて喫茶いしかわに来る女性客を虜にし、大量のファンを量産した美丈夫。海外で仕事することになったと喫茶いしかわを辞めてしまった元看板息子。


「か、和樹さん!?」

 その元同僚が目の前にいる。

 和樹は一瞬辺りを見渡して驚いたような顔をしていたが、ゆかりの姿を確認すると安心したかのように顔を綻ばせ、こう言った。

「探しましたよ、ゆかりさん」



「か、和樹さん! なんで? どうしてここに!?」

 開いた口が塞がらない状態ではあったが、ゆかりは何とか発言するために口を動かした。

「どうしてここに? は、僕のセリフですよ、ゆかりさん。海外赴任から戻って真っ先に会いに行ったら、あなたは二日間居所が知れず……心配しました。ここはどこですか? 何やら中世ヨーロッパのような雰囲気ですが……」

 建物の作りなどで状況を整理しはじめる元同僚を前に、ゆかりは和樹から与えられる情報にいっぱいになっていた。


(二日間居所が知れず? つまり二日間行方不明ということだろうか。なんということでしょう! ここは異世界トリップのお約束で、現代では時間が数十分しか流れていないとかそういう救済処置はないというのか。まあ、三ヶ月間行方不明よりはマシだけど……)


 そこまで考えていたところでゆかりは重大なことに気付く。

「ハッ! ブランくん! ブランくんは大丈夫でしょうか!?」

 異世界トリップのお約束が働いているだろうと呑気に構えていたが、実際には二日間愛犬が放置されたままという事態にゆかりは顔を青くさせる。

「ブランは無事でしたよ。自動給水器と餌やり器のおかげでね」

 和樹がそう言ってゆかりを安心させると、彼女は胸を撫で下ろした。


 安心させたところで和樹は質問を繰り返す。

「それよりもゆかりさん、なぜあなたはこんな所にいるんですか?」

「えっと、そうですね……。話は長くなるんですけど……」

 そしてゆかりはこの世界に来ることになった経緯を和樹に話した。


「なるほど。つまり先程僕がここに来たような状況であなたも来たと言うことですね。しかも勇者とかいうのになってしまったと……」

 顎に指を当てて考える人を思わせるポーズで和樹は頷いた。

「そうなんです。そう考えると、私……和樹さんを召喚しちゃったということに……」

 ゆかりはガックリと肩を落とした。


「私は可愛い魔獣ちゃんを呼び出そうとしたんですけど……和樹さん、ご迷惑かけてすいません」

 まさかこんなことになるとは思わなかったが、ゆかりは深々と和樹に謝罪した。


 和樹は手を振って謝罪を否定する。

「いえ、迷惑など微塵も思ってないです。それに半分無理やりここに来たような感じなので」

「へ? 無理やり?」

 ゆかりが聞くと和樹はここに来た経緯を語り始めた。




 辞めてから久しぶりに喫茶いしかわを訪れた和樹は、マスターからゆかりが今朝から連絡がつかないと聞かされた。

 無断欠勤などしない彼女が何も連絡してこないのはおかしい、と。

 マスターは念のため、ゆかりの母である梢や兄であるリョウに連絡を取ってみたが、どちらもゆかりから何も聞いていないとのこと。


 昨日は棚卸しと設備点検のため喫茶いしかわを臨時休業にしていたので、もしかしたら実際は昨日もしくは一昨日の夜から連絡がつかなかったのかもしれないとも言われた。

 一人暮らしの彼女が自宅で連絡もできないほどの体調不良に見舞われているのか、それとも……。


 そんな考えが頭を過ぎって、和樹はマスターの話を聞いてすぐに喫茶いしかわを辞し、真っ先にゆかりのマンションに向かった。

 インターホンを鳴らしてもゆかりは出てこない。

 仕方なく和樹はゆかりの部屋に入って……。


「ちょっと待って」

 そこまで聞いてゆかりは一度待ったをかけた。

「和樹さん、どうやって私の部屋に……」

「……マスターにスペアキーを借りたんですよ。とにかく続きを話します」

 借りたと言うか圧をかけて強奪したというか、ついでに梢さんには泣き落としを使ったような気もするが、そのあたりは上手く誤魔化して和樹は続きを再開した。


 和樹はゆかりの部屋に入ってブランを発見した。

 思いの外元気なブランだったが、部屋の中はブランだけで肝心の家主は見当たらなかった。

 ブランを置いて彼女が連日どこかに行ってしまうなんて有り得ない。

 犬の気配のみでまったく人の気配がない部屋の中央で、ゆかりはどこに行ったのかと和樹は焦り出す。


 その時、急にブランの下に光る丸い円形が出てきた。

 意味が分からない状況だが、その円形からゆかりの声が聞こえてくる。何を言っているのか分からないが、確かにゆかりの声で間違いなかった。

 和樹は考えるより先に、ブランをそこからソッと退かして自分が円形の中心に立つ。


「ま、待って? 自分からブランくんを退かして?」

 またもやゆかりは話しを遮って和樹に驚きながら問い掛けた。

「はい。ゆかりさんの声が聞こえたので」

 つまり、本来はブランが召喚されるはずだった。

 しかし和樹はその法則を無視して無理やりこちらの世界に来たということになる。


「まさか召喚というものだとは思いもしなかったですけどね」

 あっけらかんとしている和樹だが、ゆかりの声が聞こえたと言うだけでよく分からない円形に飛び込むだなんてどういうことなのだろう。


「そんな……訳が分からないものに近付いて、危険な目にあったらどうするんですか!?」

 ゆかりが抗議をすると、和樹はニコリと笑顔を向ける。


「でもこうしてゆかりさんに会えたんですから、結果オーライというやつですね」

 和樹はこちらの心配など他所に嬉しそうにしている。

 何が結果オーライだ。


 まあ、確かに無事だったのだから良しとするべきなのかもしれない。

 ゆかりは大きすぎるため息をついた。


「そう言えばゆかりさん。ブランのことは心配しないで大丈夫ですよ。この世界に来る前に念のため、マスターに連絡をしてブランを預かるように伝えておきましたから」

 異世界召喚される直前にスマホでマスター夫妻に連絡をしておいたらしい。

 優秀な元同僚はアフターケアもバッチリだった……。



「それにしても勝手にここの世界に連れてこられたのに危険極まりない魔王討伐を引き受けるだなんて……一体何を考えているんですか?」

 中庭から王の間に続く廊下を歩きながら、和樹はゆかりに説教をする。


 ゆかりは現在お城に居候の身。ゆかりが召喚したことで単純に居候になる人物が増えたので王様に挨拶に行くところであった。


「まあ、そうなんですけど……ここの人たち私に随分親切にしてくれて、放っておけなくなっちゃったんですよ」

「勇者だ、魔王を倒す者だ、となれば誰だって親切にするでしょう。お人好しが過ぎますよ」

「うぅぅ、和樹さんが厳しい……」


 すっかり項垂れてしまったゆかりの隣で、和樹はさらにゆかりの服装に注目する。

「それにその服装はなんです? スカート短すぎませんか?」


 ゆかりの格好はお城から支給された服だ。

 上着の上に鞣した皮の胸当てを装着し、短いプリーツスカートがヒラヒラと揺れている。極めつけはニーハイブーツだ。ニーハイブーツとスカートの間の見えそうで見えない太腿が艶かしい。


「そうですか? 結構可愛くて気に入ってるんですけど」

 スカートの裾を摘んで少し持ち上げるような仕草に和樹は、グッと喉を詰まらせる。

「もう少し長いスカートの方が……まあ、可愛い……ですけど」

 最後の方はブツブツと小声でゆかりはよく聞き取れなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ