529-2 クリスマスデートにお誘いすれば(中編)
書いたはいいけど肝心の投稿を忘れておりました。
「「ただいまー!」」
子供たちのはずむ声が揃う。ほっぺも鼻の頭も真っ赤にした二人がゆかりを見上げる。
「お帰りなさい。クリスマスマーケットは楽しかった?」
「うん! いっぱいたのしかった!」
「これつくったの! おみせにかざるまえに、おかあさんはさきにみせてあげる。とくべつ!」
「ふふ……ありがと。どれどれ~? おーっ、上手! 真弓ちゃんが持ってるリース、綺麗! 進くんの持ってるリースも素敵! これをお店に飾ってくれるの?」
「うんっそうっ! いまからおみせにかざって、それからおとまり!」
「そっかー。お店に飾った姿は明日のお楽しみにとっておこうかな」
「たのしみにしてね」
ゆかりはにっこりして頷いてみせる。
「おかあさんはいまから、おとうさんがよろこぶおめかしするんでしょ」
「ぅ……そう、ね」
子供に真っ直ぐ言われると、さすがにゆかりもちょっと照れる。
「おとうさん、すっごくよろこぶよ。きっとあしたはあさからとってもごきげんさん」
「そうね。そうなったらいいな」
ご機嫌全開な和樹の姿は簡単に想像できた。ゆかりはゆるりと表情を弛める。
「じゃ、お泊りセットを準備しましょう」
「「は~いっ」」
自作のリースをそーっと床に置いて、出かける前に玄関先に用意してあったお泊りセットの入ったリュックを、ゆかりに手伝われながらそれぞれ背負う子供たち。もたつきながらもリュックを背負うと、あらためて手にした自作のクリスマスリースを抱きしめる。
すっと立ち上がったゆかりは、子供たちの後ろから一連のやりとりを見守ってくれていた両親をまっすぐ見つめてふにゃりと笑う。
「お父さん、お母さん、ありがとう。今夜も、子供たちをよろしくお願いします」
「僕らも楽しいし嬉しいから。ゆかりもこれから和樹くんとデートだろ? 楽しんできて」
「そうそう。私なんか嬉しすぎて昨日から張り切っちゃって、冷蔵庫が子供たちの好きなメニューでぎっしりなの! せっかくだし、明日の朝は二人もうちにごはん食べに来たら?」
「そうさせてもらおうかしら。たぶんそうなると思うけど、一応和樹さんにも聞いてからメッセージ入れるね。お邪魔する時間も相談させてください」
「ええ。メッセージ、楽しみに待ってるわ」
「うん。じゃあ、真弓ちゃん、進くん、いってらっしゃい」
ぶんぶんと手を振りながら、いってきまーす! と元気な声で出かけていった。
ゆかりは慌てて身支度を整え始める。おろしたてのワンピースに厚手のタイツを穿く。
昨夜念入りにスキンケアしたしトリートメントもバッチリだから大丈夫大丈夫……と心の中で唱え続けながらいつもよりキュートさを出したメイクをして髪型をセットし始めたところでピロン♪ と和樹からのメッセージが届く。
「ふむ。六時半か……」
すぐに了解のスタンプと先程の梢からの提案をメッセージにのせる。和樹からも間を置かず、梢宛の返事を自分がすると追記した了承の返事が届いた。
「ふふっ。和樹さん、相当嬉しいんだなぁ。きっと電話して、ついでに子供たちの声も聞く気だ。……よしっ。気合入れて準備するぞー! おー!」
ゆかりはふんすっ! ともう一度集中してヘアアイロンを手に取った。
隣駅前。クリスマスマーケット入口。
ゆかりはゲートの脇に立っていた。和樹と一緒に購入したベージュのコートに同色のベレー帽。ユキエと行ったバーゲンで手に入れたキャメル色のブーツ。両親にプレゼントされたボルドーのマフラー。和樹とお揃いの手袋。それから子供たちがいる時には選べないミルクキャラメル色の小さめのバッグを両手で持って。
はぁっと吐く息がほんのりと白い。
少しがやがやした団体が入口に近付いてきた。どうやらテレビの撮影クルーのようだ。
「こちらのクリスマスマーケットはですねぇ……」
と、甲高い女性リポーターの声が聞こえる。
ゆかりは万が一にもぶつからないようにと二歩、さらに脇に避けてリポーター一行からは視線を逸らした。
「クリスマスマーケットにいらしてるお客さんの話も聞いてみましょうか。えーと、そこのお姉さん」
ぱっと目の前に回り込んできたリポーターの姿に思わず目をぱちぱちしてしまう。
「えっ、私!?」
「はい。こちらに来られたのは初めてですか?」
「クリスマスマーケットは、そうですね」
「何を楽しみにされてました?」
「えっ、えーと……夫と久しぶりのデートなので、クリスマスらしい雰囲気や食べ物を楽しめたらと」
「わぁ、旦那様とデート! いいですねぇ。じゃあ今は待ち合わせ中ですか?」
「はい。そろそろ時間なので……」
「ご主人はどんな方ですか?」
「……私には勿体ないくらい素敵な人です(なんでクリスマスマーケットに関係ない質問するんだろう?)」
「いいなぁ。そんな素敵な旦那様、ワタシも欲しーい! えーと、今、実はですねぇ。スタジオに俳優の蓮城暁弥さんがいらしてるんです」
「暁弥さん? わぁ、お兄ちゃん久しぶりー。お元気?」
カメラに向かってにこにこ手を振るゆかりに大きく目を見開くリポーター。
「……え? お兄ちゃん?」
「あ、兄のクラスメイトで昔から家族ぐるみのお付き合いがあったので」
「あ、そうなんですね。はー、びっくりした」
「そうなんです。お兄ちゃん、お時間できたらお店でも家でも顔出してね」
リポーターの耳にはイヤホンを通じて「ははっ、あの子も相変わらずだなぁ」という蓮城の声が聞こえている。
ここできょろりと周りを確認したゆかりは一点に目を留める。
「あっ……すみません。主人が来ましたのでこれで失礼させていただきますね」
にこりと笑って抜け出すゆかり。するすると人垣の間を抜けてぽすりと背の高い男性に抱きついた。
「えっ……あっ……えぇ……うわっ」
慌ててパニックになるリポーターはゆかりを目で追うと、抱きついた相手を見て固まった。
「えー何あの超ド級イケメン……ひゃあっ、奥さん見てる表情が蕩けきった蜂蜜! あんな見るからに溺愛なご夫婦、初めて見たぁ……」
スタジオは、ぽかんとするリポーターをスクリーンに映しつつ、何かを察して「あー」と言いながら吹き出し「相変わらずなんだな」と言いながらくつくつと笑う暁弥の姿を映している。
「えー、中継のタイムリミットが来てしまいました。我々、何を中継してたんでしょう? なんかすいません」
「ははっ、あれ以上は馬に蹴られるよ。二人とも、ラブラブデート楽しんで!」
動揺しまくりながらもコメントを捻り出すアナウンサーと、笑顔でひらひらと手を振る暁弥。
いまだ動揺を隠しきれないアナウンサーがなんとか言葉を発する。
「えー、本来なら蓮城さんにクリスマスマーケットどうでした? と聞くところなんですが、全然中継になってなくてコメント振るのも申し訳ない……あ、あの女性はお兄ちゃんと言ってましたけど」
「はい、そうですね。彼女のお兄さんがクラスメイトで今も家族ぐるみの付き合いで。旦那さんは彼女を愛し抜いてるし、子供たちも可愛いんですよね。ちなみに今回の映画では家族を溺愛するパパ役なんですが、彼女の旦那さんの溺愛ぶりを参考にして役作りしたところもあります」
「へえ。そうなんですね。私も先に観させていただきましたが、なんかこう、溺愛しすぎて空回っちゃうパパを中心に巻き起こるコメディが微笑ましくて、でもキリッと決めるところは決めるカッコ良さがたまらなくて、ぐんぐん引き込まれちゃうんですよね。最後には家族の絆が……ああ、これ以上はネタバレしかできないから言えない!」
「そうですね。笑ってほっこりして、なんとなく家族っていいなと思ってもらえれば嬉しいです。ぜひ劇場でご覧ください。お待ちしております」
「蓮城さん主演の映画『ベントー・パパ』は今週金曜日公開です。皆さまぜひ劇場の大スクリーンでお楽しみください」




