526 リモート飲みで垣間見えたのは
最初はゆかりさん、次はモブ男さん、最後は和樹さん目線です。
ゆかりはご機嫌な鼻歌まじりにツマミを作る。
今日は高校の同級生とプチ同窓会的な感じでリモートで飲み会をするのだ。
仕事で別地方に行ってしまった子とか、結婚して海外に住んでいる子とか、なかなか会えない皆と画面越しでも会えるのがとても楽しみなのだ。
ツマミをいくつも並べ、冷蔵庫から出したお気に入りのフルーツ系チューハイをその横に揃えて満足げな表情で大きく頷くと、いそいそとノートパソコンの前に座り、友人たちに繋ぐ。
「久しぶりー。もう皆揃ってる? え、わたしが最後? お待たせしてごめんねぇ」
◇ ◇ ◇
数年ぶりに見られた想い人の笑顔にドキッとする。やっぱり可愛いよなぁ。
想い人の名は、石川ゆかり。昔からあの娘の笑顔はひだまりみたいで視線を向けずにはいられなかった。でも欠片も思いを伝えることはできず、じっと見つめるだけで。それでも良いと思っていたんだ。でも……今日こそは彼女に想いを伝えたい。二人きりじゃないから難しいかもしれないが、せめてきっかけは作りたい。
リモート飲みに参加する顔ぶれを確認すると、彼女に想いを寄せていた男が数人いる。俺が知らないだけで他にもいるかもな。
お酒が入って上機嫌な彼女は口元を缶チューハイで隠すようにしながらころころと笑っている。酔った彼女は笑い上戸になるのか。可愛いな。彼女に惚れてた男どもの顔をチラリと確認すると、どれもこれも脂下がっている。俺も似たような表情をしてそうだ。まぁいいか。どうせ一人ひとりは小さなワイプ状態だし本人にはバレないだろう。
ふにゃりと表情を弛ませる彼女が映る小さな画面を見ていると、ふと大きな手が画面に映った。俺を含め参加者全員が息を飲む。
「……!?」
「あっ、ありがとうございます」
水が入ったコップを手渡されてふにゃりと笑いながらお礼を言う彼女が小さく頷きそのままコクリと一口、水を飲む。
「ふぅ。あ、うわぁ! おつまみ作ってくれたんですか? もちろん食べます!」
はしゃぎながら目をキラキラさせ、期待たっぷりの目を画面の上に向ける。そのままぱかりと口を開けると向かいにいるであろう人物につまみを食べさせてもらって、ほっぺを抑えながらさらに上機嫌になった。
「ぅむふううぅんっ、やっぱり最高に美味しいです♡ ほっぺが落っこちないように押さえておかなきゃ!」
俺たちは今、何を見せられているんだろう?
参加者は皆、いや石川ゆかり以外は同じ気持ちだと思う。
あまりの衝撃に固唾を飲んで見守ってしまう。
誰かが何か操作したらしく、石川ゆかりの画面が大映しになる。
「やーん、これもおいしー♪ お酒が進んじゃうよーぅ♡ やだぁこれ前に作ってもらったのより美味しい! んふふふふ」
最初の衝撃が冷めやらぬうちに、次々とつまみを口に運ばれている姿はさながら着々と進む餌付けを見ているようで、なんだか落ち着かない。
しばらくレモンだライチだピーチだと缶チューハイを味変しながら(全部甘いから味変になっているかは微妙だが)一口サイズで作られたつまみをひょいひょいと口に運ばれては頬を押さえ「美味ひぃれすぅ」と笑顔を振り撒き、ふにゃりと崩れそうなくらい喜び続けていた石川ゆかりが急に。
「ん? なぁに?」
こてりと首を傾げる。うわ、これもあざと可愛い。
「え? なに? んもう、口パクじゃ分かりませんよ。喋っていいのに」
キスを強請るようにちょっぴり唇を尖らせた彼女がそんなことを言うから、思わず音量を上げてしまう。きっと全員、俺と同様に音量を上げたりスピーカーに耳寄せたりしてんだろうな。
「──飲みすぎ」
甘く低いテノールが聞こえて色々察して悶絶する参加者。小さな悲鳴がいくつも上がった後、思わずであろう参加者の呟きが大きな音で聞こえる。
「ヤバい、何これ」
「声だけでイケメン認定できる」
「これが“耳が妊娠する”ってやつか」
「どんなイケボにも負けないエロボイス」
「てか、ゆかりはなんで無事なの?」
「むぅぅ……まだ飲めます!」
「だーめ。明日辛くなるよ」
「はぁい……」
渋々というのを隠さずに水を飲むゆかりはおそらく、この後参加者(女子)に問い詰められることに気付いていないだろう。
俺ら男性陣はやけ酒が確定した。
◇ ◇ ◇
ゆかりの向かいに座ってる和樹には「そこ、もっと詳しく!」と馴れ初めを喋らされている様子が聞こえている。
いくら飲み過ぎなゆかりが心配だったとはいえ、やっぱり喋らない方がよかったかなと思いながら苦笑してしまう。
問い詰められてるはずのゆかりは、なんだか嬉しそうで、ふにゃふにゃしながらも
「私にはもったいないくらいとっても、とーっても素敵な恋人なの。大好きなんだぁ」
なんて言うもんだから、真っ赤になってしまった顔をなんとか隠したくて机に突っ伏す。なんだこの可愛い生き物。ノートパソコンからも何かがどこかにぶつかる音がいくつも聞こえてきたから、今のゆかりにノックアウトされた男が何人もいそうだ。
しばらくテンション高い尋問が続いていたのが少しだけ落ち着いてきたと思ったら。
「和樹さん、和樹さん! ちょっとこっち来て。チラッとでいいから顔出ししましょ」
「僕はいいから」
「いいなら映りましょうよ。ほらほら」
和樹の腕を抱きしめながら引き寄せるゆかり。元よりゆかりのおねだりを拒める道理など和樹にはないのだ。仕方ないなと素直に従う。
「じゃーん! 和樹さんでーっす!」
どよめきと悲鳴が上がる。
「えーと、こんばんは皆さん。同級生で楽しく飲んでいらしたところにお邪魔して申し訳ない。ゆかりさん、もう時間も遅いし、明日は早番でしょう? お友達と楽しい飲み会なのはわかりますが、そろそろ切り上げましょう。ね?」
「まだ大丈夫ですよぅ」
「ダーメ。これ以上は明日に障りますから」
「えー? でもまだ和樹さんの自慢してない……」
「ぐっ……と、とにかく今日は引き上げましょう。リモート飲み会ならまたいつでもできるでしょう?」
「あ、さては今日の和樹さんはかまってちゃんですね」
ゆかりが和樹の頭をなでなでし始めた。
「仕方ありませんねぇ。んふふ。和樹さんを優先してあげます。それじゃ皆、飲み会決まったらまた誘ってね。バイバーイ!」
にこにこと手を振るゆかりと、それをいなしながらカメラを切る和樹。
後日、参加者らは
「なんか……なんか凄かった。色々と」
と言っていたらしい。
通信が切れると、和樹は小さく息を吐く。
「ゆかりさん、今日は随分とらしくなかったようですが……」
わずかでも自覚があるらしいゆかりがびくりとする。少し気まずそうに口を開く。
「酔った勢いというのは否定できませんけど、その……皆にちょっと和樹さんを自慢したくなっちゃって、喋ってくれないかなって。飲みすぎって聞こえないふりしたのはわざとです。ごめんなさい」
しゅんとしたゆかりの独白が可愛すぎて、思わず抱きしめる。
「嬉しいです。僕、ゆかりさんが自慢できる彼氏でい続けますからね。でも今は、早番で欠伸を噛み殺さず済むように寝ましょう。僕、ゆかりさんをハグして寝たいです。いいですか?」
「うん。わたしもハグされたいです。和樹さんにぎゅってされるとあったかいの」
「じゃあ……」
「うん……」
翌朝、喫茶いしかわ開店時は少し寝不足気味なふたりが接客していたという。
時系列書いてないのですが、ゆかりさんが和樹さんを彼氏呼びしてるので……あとはお察し。
と言いつつ、リモート飲み会に使った部屋はゆかりさんの部屋じゃなく和樹さんの部屋という設定があったりします。
男性参加者がいるのにゆかりさんの部屋を見せるなんて、和樹さんが許せるわけありませんから。ふふふ。




