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徒然とはいかない喫茶いしかわの日常  作者: 多部 好香


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521 まおーつかい

 真弓と進は、今日は祖父母宅にお邪魔している。

 祖父母とはしょっちゅう会っているとはいえ、その場所は喫茶いしかわで。

 よそのおうちにお呼ばれしたとなると、孫として大歓迎されているとはいえ少しは緊張するのだ。


 お昼ごはんにカレーライスとサラダ、ミネストローネをお腹いっぱいになるまで食べて、にこにこしている子供たち。

「おばあちゃんのカレー、とってもおいしかった!」

「うん、おいしかった! わたしはこっちのスープがいちばん好きー!」

「あらぁ。ふふふ。そのスープはね、ミネストローネっていうのよ」

 こちらも笑み崩れた顔で子供たちの口周りのカレーを拭い取る祖母。


「さ、ごちそうさましたし、お皿片付けちゃいましょ」

「わたし、おてつだいする」

「ぼくも」

 皆で皿を運ぶと真弓が洗い、進が拭いてくれた。ふたりが奇麗にしてくれた食器を食器棚に片付けながらおしゃべりする。


 そこに、電話がかかってきたため席を外していた祖父が戻ってきた。

「あ、おじいちゃん! おかえりなさーい」

「おかえりなさい。あれ? 何持ってるの?」

「これ? 昔ビデオカメラで撮影したフィルムをDVDに焼き直したものだよ」

 言われてることがよくわからず、こてんと首を傾げる子供たち。タイミングも角度もそっくりで、思わずクスッと笑ってしまう。


「うーん、つまりね。二人のお母さんや伯父さんが小さかった頃の映像だよ」

「えぇっ、見たい!」

「見たい見たい! お父さんとお母さんが帰ってくる前に見ようよ!」


 今日は父の懇願により両親ふたりきりでデートしているので、夜までは戻らないはずだ。

 母を溺愛するあの父がこのDVDの存在を知れば、あの手この手で手に入れる……どころか独り占めしようとするのは目に見えている。門外不出の秘蔵品などという怪しい代物にされる前に見ておきたい。


「ははっ。いいよ。皆で見よう」

 DVDをデッキにセットし再生を始める。

 ワクワクを隠しきれず前に乗り出している子供たちの目がキラキラしていて、ふくふくほっぺは赤くなっている。その様子がごはんを楽しみに待っているゆかりの幼少期に似てて、切なくも微笑ましく愛おしい。


 再生が始まると、リョウが運動会でリレーに出ているところと弁当を広げているところ、ゆかりがおゆうぎ会で大きな栗の木の下でを歌っているところ、ゆかりが誕生日ケーキの蝋燭を吹き消そうとしてなかなかうまくいかず前髪がピロピロ揺れているところなどが流れた。


「わぁ、リョウおじちゃん、ちっちゃーい!」

「おかあさんかわいい!」

「おじいちゃんもおばあちゃんも髪まっくろ」

「おべんとおいしそー」


 キャッキャとはしゃぎながら見ていると、また映像が切り替わる。お気に入りの猫のぬいぐるみと小さなステッキを抱えた二歳くらいのゆかりがぽてぽてと近付いてきてカメラを見上げてニコッとした。


「ゆかりちゃんは大きくなったら何になりたい?」

「ゆかりねぇ、おっちくなったらまおーちゅかいになる! いっぱいへんちんするの!」


 映像を見ていれば、この時のゆかりが当時放送していた魔法少女ものにハマっていたことも、それに引きずられて魔法使いになりたかったこともわかる。

 でも……。


 ゆかりの夫が部下から魔王と呼ばれるほど恐いところを見せる姿も、結婚後もゆかりを日々熱心に口説き溺愛しおねだりは何でも叶えようとする姿も知る和樹の義両親は改めて思う。


 魔法使いにはなれなかったけど、魔王使いにはなってるのでは? ある意味これ言霊?



 ふたりはチラリと考えてしまったそれを慌てて頭の片隅に封印し、ぬるくなった煎茶と一緒に奥底まで流し込んだ。

 魔王使いゆかり。おバカ話でした。


 魔王を従えるゆかりの肩書きは大魔王になるのかしら?(笑)

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