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徒然とはいかない喫茶いしかわの日常  作者: 多部 好香


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490 いろどり

 今年の喫茶いしかわのクリスマスでは、ゆかりさんがサンタ、和樹さんがトナカイのコスプレで接客しようという話が出たものの。

「ミニスカサンタは絶対禁止ですからね!」

「んもぅ、そう何度も言わなくてもわかってますってば」

 結局コスプレは、コスプレと言えないほどの、サンタ帽子とトナカイ角カチューシャを着けるのみに落ち着くこととなった。


 そして当日。

「「いらっしゃいませー」」

 元気な挨拶でお出迎え。


 少し落ち着いた時間帯、食後のコーヒーを楽しもうとする若い男性客からの軽口がゆかりに飛ぶ。

「看板娘からのクリスマスプレゼントはないの?」

「はい、これどうぞ。ジンジャークッキーのサービスです」

「お、もしかしてこれ手作り?」

「はい、そうですよ。お客様のために心をこめて作ったんです」

「俺のために?」

「はい! 和樹さんが」

「……え?」

「え……? ああ、和樹さんはあの店員さんです。何を作ってもとーっても美味しいんですよ」

 和樹の方を向いて話すゆかりに気付き、寄ってくる和樹。


「どうしました?」

(さりげなく肩を抱く和樹と気にしてないゆかりと気になって仕方ない男性客)

「このお客さまに和樹さんがクッキー作ってくれたんですよって説明してたんです」

「ああ! そうです、そうです。お客さまに配る分は()()()()()心をこめて作らせていただきました」

 店内で今の一言を聞いていた男性客はずんと落ち込み、女性客は華やいだとかなんとか。




 閉店作業をして、しっかりと戸締まりを確認して。

「ふう。お疲れさまでした和樹さん」

「ゆかりさんもお疲れさまでした」

「ふふ。さ、帰りましょう」

「はい。では……」

 ひょい。

「ひゃあっ。なんで抱き上げるんですか和樹さん!?」

「今日の僕はゆかりサンタさんのトナカイですから。トナカイはサンタとサンタが運びたいものを運ぶのが仕事ですから、僕がゆかりさんを運ぶのは当然ですよね(にっこり)」

「なんですかその屁理屈」

「ああ、もしかしてお姫様抱っこよりおんぶで運ばれたいですか? いいですよ。よいしょ」

「うひゃあっ。放り投げて体勢変えないでください! というか、あの、ちなみにですが『自分で歩いて帰る』という選択肢は……?」

「もちろん却下です」

「ハ……ハハッ……」

「本当は、大きな靴下も用意したかったんですよ。そこに僕が入って、ゆかりさんに僕をプレゼントしたかったのに間に合わなくて」

「いやあの、そういうのはぜひご遠慮申し上げたく」

「ははは。遠慮しないで。ああ、もしかしてゆかりさんが僕へのプレゼントになってくれるつもりでしたか?」

「んなっ!」

「ははは。可愛いリボン巻いてラッピングしてあげますよ」



 そして朝。



「んふふ。和樹さんの作るごはんはとっても美味しいですねぇ」

「お褒めに預かり光栄です」

 優雅に一礼する和樹。

「ふふふ。和樹さんってそういう仕草とっても似合いますよね。さすがです。それにしても本当に美味しい」

 にこにことごはんを食べるゆかりの口元にごはん粒。

 和樹はそんなゆかりも大層可愛らしいとは思うが、はっきり口にして指摘してしまったら、恥ずかしがって拗ねてしまいそうな気がしたので。

「ねぇ、ゆかりさん」

 和樹は自分の頬を、ちょうどゆかりのごはん粒がついているあたりを指でトン、トンと意味ありげに叩く。


 ゆかりはぱちくりと大きく瞬きをひとつ。それからおもむろに和樹の隣に来て、ちゅっ。

 和樹は思わず目を見開いて、まじまじとゆかりを見る。

 和樹のその反応に、何か間違ったらしいと気付いたゆかり。


「あれ? 違いましたか? うちではお父さんがこうトントンするとお母さんがほっぺにキスするのがお約束だったんですけど……」

 何それ。石川家のお約束、最&高!

 素晴らしい教育です、お義父さん(マスター)


 あれぇ? おかしいなぁとぶつぶつ言い始めたゆかりをとりあえず抱き締めた和樹は、いまだゆかりの頬の可愛いいろどりになっているごはん粒を除きがてら頬にキスを落とした。


 一週間前のイベントやんけーってツッコミは甘んじて受けましょう。


 今年の更新はひとまずこれでおしまいです。

 ここまで楽しんでいただいた皆さま、ありがとうございました。


 今後もよろしくお願い申し上げます。

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