479 遅れてきたプレゼント
いつもなら正気に戻るのよゆかり、と自分に言い聞かせたくなるような代物がラッピングされた袋から見えていた。
もしもの話、隣にいた友人が聡美ちゃんだったら自分を止めてくれたかもしれない。
遥ちゃんだったら面白がって「買ってみたら?」って言うのかもね。
ゆかりは、愛しい人とは年末年始もろくに会えないまま一月中旬を迎えていた。
電話越しに疲れた声で君に会いたいと言われれば、私も和樹さんに会いたいです、と素直に返してそのまま自室のベットにダイブした寂しくも甘い夜。
今日の夜、久々に会えると決まり、少しでも和樹にお正月気分を味わってほしいなとお雑煮を出汁から作ったし二、三日前から舞い上がっていたのかもしれない。
ラッピングの袋から見えているのは白い帽子とそれに合わせた衣装。覚悟を決めてラッピングを開き、姿見の前で今着ている洋服を脱いでいく。
数分のうちに鏡に映ったのは見慣れない自分の姿。
ああ恥ずかしい。とってもすっごく床にゴロゴロしたくなるぐらい。
福袋とは名ばかりで鬱袋を買ってしまった気分のゆかりは聞こえた玄関のチャイムに頬を染めたまま出迎えに行った。
誰か分かるまで絶対に開けないで、と言い含められているのでドアスコープを覗けば疲れた顔の愛しい彼。
スマホが鳴り、甘く聞き心地の良い声が合い言葉と愛の言葉をふたつ。
耳が溶けそうと思いながらドアを開けると溢れ落ちそうな大きく見開いた彼。
「サンタ!?」
一歩踏み込むと玄関のドアは少し大きな音を出して閉まり、ゆかりから視線を外さない和樹は後ろ手でガチャリと鍵とチェーンを掛ける。
じわじわと熱を増す瞳に頭の先から爪先まで穴が開くほど見つめられ、またじわじわと恥ずかしい気持ちになり、自宅だけど逃亡したくなってくる。
「和樹さん、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」
「明けましておめでとうございます。ゆかりさん。今年もよろしくお願いいたします」
玄関先で草臥れたスーツ姿の男と全身真っ白なミニスカサンタの女性がお互い丁寧に頭を下げあって挨拶するおかしな状況。
「なるほどそうか! 遅れてきたクリスマスプレゼントですね? 有り難くいただきます」
「あのっ、お雑煮が先です!」
慌てて靴を脱ぎ散らかした和樹に玄関で担ぎ上げられたサンタは慌てて両足をバタバタさせるけれど、彼にとってはたいした抵抗にもならない。
パタン、と閉められた寝室に繋がる扉の奥からは男の上機嫌な鼻歌が小さく聞こえていた。
ホワイトなミニスカサンタさん、しれっとうさ耳つけられたりしそうだなぁ、なんて……気のせいかしら。




