表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
徒然とはいかない喫茶いしかわの日常  作者: 多部 好香


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

659/758

473 思い出のアイスクリーム

 その日和樹は、二人の子供を連れて車で出掛けていた。たまたまもぎ取ったオフの日だったがゆかりに頼まれ、とあるお店に向かっている。


「ねーえーおとーさーん、きょうはどこにつれてってくれるの?」

「どこだろうね? 真弓も進もわからない?」

「ええ! わかんないよ~」

「おねえちゃんにわからないならぼくにもわからない」

 クエスチョンマークをいっぱい浮かべる二人の子供を見て、和樹は思わず笑みをこぼす。かわいいさかりの子供たちだ。


「正解はね、二人とも大好きなものが食べられるあのお店です」

「「あのおみせ?」」

 愛車を運転し、ようやくたどり着いたのは郊外にある隠れ家的名店だった。シックな装いの看板に書かれていたのは……。


「アイスクリーム……なんとかみせ?」

「せんもんてん、って読むんだよ。今日五月九日はアイスクリームの日なんだよ。だから今日は二人の大好きなアイスクリームをたくさん食べていいよ」

 真弓と進は顔を見合わせるとにっこり笑った。

「ありがとうおとうさん!」

 和樹の両手にそれぞれがぎゅっとしがみついた。


 店内に入ると白髪の似合うお爺さんオーナーが三人を出迎えてくれた。

「いらっしゃい。当店は初めてかい?」

「いえ、僕は妻と一緒に若い頃に何度か……子供たちは初めてです」

「ん? もしかしてゆかりちゃんの旦那さんとお子さんかい? お嬢ちゃん、ゆかりちゃんにそっくりだ」

「こんにちはおじいさん! いしかわまゆみです。ゆかりはおかあさんのおなまえです」

「真弓ちゃんか……いい名前だねぇ。ボクの方は? お名前言えるかな?」

「いしかわすすむです。よろしくおねがいします」

「進くんか……君はお父さんにそっくりだねぇ」


 お爺さんは三人を奥の窓際の席へと案内した。

「グラス・ア・ラ・ヴァニーユへようこそ」

「ぐらすあ……?」

「glace à la vanille……フランス語でバニラアイスって意味だ」

「お父さんが紹介してくれた通りだけどね、ウチはバニラアイスクリームの専門店なんだ。日本全国津々浦々、いろんなバニラアイスを取り揃えているのが自慢のお店だよ」

「バニラアイス! わたしだいすきです!」

「ぼくも!」

 子供たちの顔がぱあっと喜びに満ちていく。


「オーナー、この店自慢のアレを子供たちに食べさせてやりたいのですが」

「そうかい、ちょっと待っててね」

 そう言って店内に戻ったオーナーが三人分用意してきたのは、見た目はソフトクリームのような『生アイス』だった。

「特選生乳の成分無調整牛乳をそのままアイスにしたこだわりの逸品でね。ソフトクリームに見えてもまったく違う『生アイス』だよ。堪能してね」


 真弓と進はいただきますをするとおそるおそる、そっと生アイスを口へと運んだ。もぐもぐしていた顔はすぐに緩み、満面の笑みが広がった。

「「おいしーっ!」」

「はは、そうだろう? ゆっくり味わって食べてね」


 夢中で生アイスを頬張る子供たちをよそに、和樹はオーナーと話をしていた。

「変わらずみたいですねこのお店は」

「お陰様でね。ゆかりちゃんはお元気?」

「はい、今日は所用で来られませんでしたが、元気にやっております」


 グラス・ア・ラ・ヴァニーユは和樹とゆかりのデートスポットの一つだった。

 最初はなんとかデートに持ち込みたかった和樹が他店の商品を研究しましょうと言って連れてきたのだが、全種類制覇しようと意気込むほど気に入ったゆかりと折りに触れ訪れていた。特にゆかりはこの店のオーナーに気に入られていた。


「君たちがデートにここに訪れて来てくれていた日々のことは忘れないよ。時は流れてしまったけれど、お子さんができてからも当店に立ち寄ってくれて嬉しく思う。アイスクリームの日だから今日は来てくれたのかもしれないけれど、またいつでも来てくれていいから」

「もちろんです、今度は子供たちと妻も一緒に」

「おとうさん! このアイスすっごい! ソフトクリームなのにアイスクリームなんだよ! とってもふしぎ!」

 目を輝かせて生アイスを食べる娘を見て、和樹はかつてのゆかりを思い出していた。


『和樹さん! このアイスクリームすごいですね! 見た目は完全にソフトクリームなのにアイスクリームなんですよ! 不思議です!』


「ふふっ」

「あ、おとうさんわらってる」

「どうしてわらうの? まゆみ、おかしいこといった?」

 真弓コテンと首を傾げ、少し困ったような顔をしている。

「ううん言ってない言ってない。ただ真弓の反応が初めてこの店に来たときのお母さんにそっくりで……思わず笑っちゃっただけ」

「そうなんだ」

「ほら、せっかくのアイスが溶けちゃうから二人とも食べて食べて」

「「はーい」」


 和樹自身も久しぶりに思い出の生アイスに口をつけた。濃厚なバニラアイスクリームの味がふわりと口の中に広がる。この味を愛する妻とだけでなく、その子供たちと一緒に味わう日が来るなんてなんとも不思議な気分だった。


「さてさて。せっかくだからバニラアイスの食べ比べクイズでもやろうか、真弓ちゃん、進くん」

「たべくらべクイズ! やります!」

「ぼくも!」

 オーナーの提案に子供たちがはしゃいで飛びつく。


 なんてことのないアイスクリーム専門店での昼下がりを和樹はゆっくりと子供たちとオーナーと過ごし、ただそこにあるだけの幸せを噛み締めるのであった。


 五月九日とは約半年ずれの真逆の季節なのでしばらく熟成しようかなとも思ったのですが、バニラアイスの話だし、『ヴァニラな雪女』完結記念てことで、載せてもいいかなと。

 はい、自己満足です。


 生アイス、商品自体はあるんです。

 けど調べてみたらいろんな定義があるみたいで……コレって断言できなくて難しい。

 美味しいのは間違いなさそうですけどね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ