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徒然とはいかない喫茶いしかわの日常  作者: 多部 好香


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471 友達のパパがとんでもイケメンだった話

 今回は進くんに気がある同級生モブちゃん目線のお話を。

 私のクラスメートにはまるで漫画の中から飛び出してきたような、理想をそのまま映し出したような、いや、理想を遥かに超えたような友達がいた。

 今も学校中からモテまくっている彼は入学当日からものすごく有名だった。

 天界から舞い降りたのではないかと噂されるほどカッコ良い彼は石川進。

 石川は容姿だけでなく成績のすべてにおいてトップだった。体育の時はいろいろとやばかった。ドッヂボールとかする時はいつも争奪戦である。


 でも全校にモテる最大の理由は彼の性格にある。と思う。


 あれはたしか五歳の時だったかな?


「ぅ……ぐす……ひっく……」

 私は少しずつオレンジから薄紫色に染まっていく公園で一人泣いていた。友達と遊んでいて帰り際に気づいたのだ。お気に入りのうさぎがついたヘアピンをなくしてしまったことに。

 チャイムもなっているし早く帰らなきゃいけない。空が暗くなる前に帰らなければならない。だがヘアピンなしで家には帰れない。友達は帰ってしまったから誰にも手伝ってもらうこともできない。

 広い公園で小さなピンを探すのは思っていたよりも大変で泣きそうになった。


 ひと通り探しても見つからず涙が溢れて止まらない。諦めるしかないの? せっかくお父さんに買ってもらったのに? 様々な思いが飛び交ってどうしようもなくなった。


「どうしたの?」

 声でハッとして振り返れば石川がいた。どうしてここにと聞けばおつかいを頼まれたのだという。その手には袋が握られていた。で、どうしたの? と聞かれたので事と次第を話すと

「じゃあ僕も手伝う」

 と探してくれた。

「もう暗くなっちゃうから私帰るよ、もういいよ」

 と断ったら石川は探しながら言った。


「困ってる人は助けてあげるって約束なんだ」

 お母さんとの約束だと、彼は言った。

 しばらくして石川がヘアピンを見つけてくれた。花壇の花の中に紛れ込んでしまっていたみたい。


 帰ったらお母さんにどうしてチャイムが鳴っても帰ってこなかったの? と聞かれたのでヘアピンをなくして石川に探すのを手伝ってもらったことを話すと汗まみれの私を風呂に入れてどこかへ電話していた。


 電話に出た石川のお母さんはこう言ってたという。

「あの子にとって普通のことをしたまでですよ」

 と。


 理由は小一の授業参観でハッキリした。テーマはなりたいもの。石川のなりたいものは警察官。

 警察官が僕らが安全に暮らせるよう守ってくれているように僕も誰かを守れるように、助けることができるようになりたいという作文だった。

 素直にかっこいいなと思った。夢に向かって頑張れ! って応援したくなった。

 誰かのために頑張ろうする石川の優しいところが私は大好きだ。


 と、まぁこんな感じで優しい性格の持ち主なのである。普段はちょっと天然っぽいところがあるんだけどそこも含めて、ね。




 時は流れて今日は待ちに待った運動会。最高に楽しんで終わりたいところ。リレーや綱引き、障害物競走、騎馬戦などなど応援したりされたりで疲れたーってところでついにお昼休憩!


 運動会の楽しみといえばお昼もそのひとつ! 家族がいる所へ行き、おにぎりに唐揚げに冷えた麦茶! あ、きゅうりの浅漬けある! デザートにリンゴとこんにゃくゼリーを食べた。

 お腹を満たして幸せになったところで、私は補充してもらった水筒をもって立ち上がった。まだ時間には少し早いが、応援しっぱなしで友達とおしゃべりできなかったのでこの時間にするのが女子である。


 親友のまなみと待ち合わせしたのは近くに鉄棒がある小さな日影。すぐ近くには大きなくすのきがあってそこで昼食をとる人も多い。またそこはちょうどいい観客席でもあるので毎年早起きして場所取りする人もいる。


 さて日影に行くと既にまなみがいるけど、なぜかずっとくすのきの方を見ていた。まなみ! と声をかけるとすぐに振り向いてくれたので何を見ていたのか聞く。


「くすのきの方みてみ」

 言われるがままに見るが特別ものはなにもない。

「え、なに? 人がいるだけじゃん」

「くすのきの根本」

 根本を見るとそこには石川と石川のお母さんがいた。そこで石川の隣にいる人物に気付く。

 ポカンとしてしまった。気づいてしまったら他の人たちが景色に見えてしまった。


「分かった?」

「分かった」

 石川に瓜二つなあの人はきっと、いや確実にお父さんだ。

 え、なに? 俳優? モデル? めっちゃガタイがいいね?


 あんなにキュートなママとイケメンパパの元に産まれたら、そりゃイケメンになるわ!

 逆にあの夫婦の元に産まれてイケメンにならないわけないじゃん? そうじゃなかったら私はまずDNA鑑定するよ。


「いいなぁ石川、私もあの二人の元に産まれたかった」

「いやあんたそれはやめなさい一理あるけど」

「お姉ちゃんも可愛いとは思ってたけどさぁ」

 石川のお父さんにくっつくように座るポニーテールとぱっちりおめめをしたあの子は石川の姉である。めっちゃ可愛い。もはや人形なんだけど。将来は女優かアイドルかな。


 よく見ると私たちと同じように、石川一家を遠巻きにみるギャラリーが結構いてびっくりした。そりゃあんなイケメンがいたら見ちゃうよねぇ。


 あんなとんでもイケメンだけど、今まで噂にもなってなかったってことは、芸能人じゃないのかもしれない。


 てかお父さんここから見ても娘にデレッッッデレだな。これは「娘さんをください」したお婿さん潰しそうなタイプだわ。てかお婿さんから引き下がりそう。うん間違いない。


「どうしようまなみ……なんかハートのエフェクトみたいなの見える……」

「眼科行きなよ」

 ううっ、親友が塩対応すぎる。


『そろそろ午後の部を開始します。生徒は自分の席に戻ってください』


 休憩の終わりを告げるアナウンスが響いた。インパクトが凄かったけど、係の仕事である道具の準備をしているうちに少しずつ忘れていった。


 さて午後の部にはPTAによるリレーが存在する。つまりは保護者による徒競走。私の両親は運動が苦手なので出たくないと嘆いているがPTAの役員が人数が足りないんですよぅとか言いながら誘ってくる。実は足りているのだが会場を盛り上げるために事情がない限りほぼ半強制的に出させられるのだ。なので毎年じゃんけんで負けた方が行くことになっている。ほぼ毎年お父さんだけど。



 玉転がしが終わって保護者の入場が近づくと会場が少しざわつき始めていた。どうしたんだろうと疑問に思ったものの、ぴこーんと勘付いた。そうか、そういうことか。


 ピストルのパァン! という音とともに保護者達が入場してくる。リレーというのはチームが多いほど盛り上がるもの。点数には入らないので赤白関係なく適当にチームが構成されている。

 合計四チーム。今年は一チーム十二人で適当にエントリー順である。私のお父さんはどうやらCチームの十一番目みたいだ。

 あらら、お父さんアンカーの前なんだ。お父さん運動音痴だから体は普通の、ごく一般的なデブでもガリでもない体だけど遅いんだよねぇ。こりゃCチームに面目ない……ごめんなさいアンカーの人……と、お父さんの後ろをみると。

 まぁなんということでしょう。あの国宝級イケメン石川パパではございませんか。ハハッ。

 なんかもういろいろ悲しいし申し訳ないし可哀想な気持ちでいっぱいだけど省略。察してね。もう見てらんないや。


『位置について……よーい』

 パン!


 途端に応援の声が学校を包んだ。中にはパパ頑張れー! とかママ行けー! だとか。そうだよ、声を出して応援しなくてもせめて見てあげなきゃね。

 早いもので遂にお父さんにバトンが渡った。今、Cチームは三位だ。頑張れお父さん!


 結構粘ったけど抜かされてしまった。コーナーのところでだいぶ離されてしまったみたい。石川のお父さんの手にバトンが渡る。頑張ったねお父さん。お疲れ様! なんて応援してたら石川のお父さんがものすごいスピードで走っていた。


「めっちゃ早い!」

「かっこいい!」

「誰のパパなの!?」


 走ってる姿までイケメンとかどういうことなんですか。てか顔が! 顔が! 怖いようなかっこいいような! 笑ってるの? ねぇ笑ってるの? 笑顔のはずなのに今にも人を殺しそうな顔だよ!

 あっという間に三位に追いついてぐんぐんスピードを上げたかと思うとどんどん抜かしていき、そして一位でゴールした。ここまでの十数秒で一発逆転。ハイスペックイケメンパネェ!


 会場は一人の快進撃によって熱気に包まれた。かくいう私もそのひとり。その後の競技も最後まで熱気を残したまま終わり、ある意味伝説となった運動会は幕を閉じたのだった。


 愛する家族にイイトコロを見せたすぎて全部かっ攫った和樹さん。そういうところですよ。

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[一言] 運動会の主役は子供たちですよ!w
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