458-2 上司の妻は天使だった2(中編)
スポーツカーのクセに乗り心地のよい運転を堪能していざ石川さんの自宅へ!
「……って……めっちゃ高ぁーい!」
なにこの高層マンション! エントランスも豪華過ぎるだろ! 私なんてちょっとセキュリティのいい1LDKだぞ!
あれかな……石川さんくらいの地位になるとこんなマンション住めるのかな。
「なにしてる中川。行くぞ」
「はーい」
エレベーターで上がり、廊下を通って黒い扉の前へ。
石川さんはピンポンを押す。
ん? 何故ピンポン? 鍵開けないのか?
私が不思議そうな顔をしていたので、長田さんが説明をくれた。
「チャイムを押してゆかりさんに相手が石川さんかどうか確認させてるんだ。海外の治安の悪い地域だと女性は人質に取られやすいからな」
なるほど。
奥様の防犯対策というわけか。
少しして、扉が開いた。中から出てきたのはあの時の愛らしいゆかりさんと………白い犬。
犬……? 石川さん犬飼ってたのか!
「和樹さん長田さん中川さんお帰りなさい!」
グハッッ……!
な、なななななな……なんですかその笑顔はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ! 撃ち抜かれちゃったんですけどぉぉぉぉぉお!
「ゆかりさん……僕は良いとして長田と中川にはお帰りは違うでしょう……」
「あれ? そうでした?」
天然可愛い! 天然なんて女が単にそう演じてるだけだろ! とか思ってた過去の私を殴りに行きたい!
「ごはんもお風呂もどっちもできてますよ~皆さんどうします?」
あれかな? 新妻の「ご飯とお風呂どっちにする?」っていう究極の質問を今私はされてるのかな?
そりゃあ勿論。
「私はゆかりさんにします!」
「へ?」
「ゆかりさん。コイツは無視していいから」
石川さん私に辛辣!
「長田さんはどちらにします?」
「私は石川さんに合わせます」
長田さんは私を完全に無視する方向でいっている。二人の上司が手厳しい!
「ただいま」
「「お邪魔します」」
広い家に上がると白い犬もテコテコついてきた。可愛い。
「このわんちゃんのお名前なんて言うんです?」
「ブランだ。抱っこするなよ。お前の臭い匂いが移る」
「そ、そんな臭くないですよ!」
…………多分。
「ふふっ。和樹さんと中川さんは仲良しですね~」
なんてゆかりさんに呑気に言われたけど、私と石川さんが仲良し? 寒気がするわ!
「違う!」
「違いますよ!」
「ほら、仲良し!」
迂闊にもタイミングバッチリだったせいで、ゆかりさんにひまわりのような笑顔で言われてしまった。……うぬん……ゆかりさんには敵わない気がしてきたぞ!
「大福君は元気ですか?」
長田さんがゆかりさんに聞いた。大福?
「元気ですよ~。今日はうちで預ってる日なので、後で遊んであげてくださいね!」
大福? また犬かな?
リビングに通される。リビングひっろ~!
白を基調としたリビングは整頓されており、ゴミ一つない。ゆかりさんが掃除ちゃんとしてるからだな。
「先に風呂に入るよ。長田と中川はその後入れ」
「はい」
「うーす。……上司の残り湯……」
「なんか言ったか?」
「イエ」
「あっごめんなさい和樹さん! 私もまだ入ってなくて……」
ゆかりさんがすまなそうに石川さんに言うと、石川さんは柔らかく微笑んだ。
「飯の支度で忙しかったもんね。ごめんね。先入ってきていいから」
なんだろう……この対応の差は。
私も同じ女であるはず……あれ? おかしいな。
「じゃあ中川さん。良かったら私と入りませんか?」
え?
「は?」
私と石川さんの目が点になる。つか石川さんの目が点……おもしろー。
「マジでか! ゆかりさんとお風呂ー!」
「ちょ、やめてゆかり! そいつは変態だよ!」
変態じゃねぇよ!?
「何言ってるんですか! 和樹さんの方がエッチでしょ!」
「んなっ」
………ほう。
「ほほーう…」
そーなんですねー石川さーん?
「中川さん聞いてくださいよ!」
はいはい聞きますよー。
「えっまっ」
「和樹さんね、私とお風呂入る時いっつもエッチなことしてくるんです!」
「そーなんですかー」
だってよ石川さーん?
あ、石川さんめっちゃ赤くなってる! めっちゃ悔しそうに私見てる! やべぇよ! 思わぬ所で上司の恥ずかしい所見つけちゃったよ!
長田さんは両耳塞いでる……こりゃ石川さんに加勢することはないな。よしっ。
「じゃあゆかりさん。こんな変態さんは放っておいて私と入りましょうか」
「はい!」
今の石川さんの顔を読者様に見せることができないのが私は残念でなりません。
風呂から上がってホカホカの私。
ちなみに服はゆかりさんから貸してもらった。超いい匂いする!
「いい湯だったか?」
石川さんがジト目私を見てきた。まだ根に持ってんのか。
「はい。……石川さんて」
「あん?」
ガン飛ばしてくんなよ怖ぇよ……。
「きょにゅー好きなんすね」
「は?」
ゆかりさんおっぱいでかかったな……。
お風呂でぷかぷか浮いていた二つの球体を思い出す。何気なしに私も自分の身体を見るけど…………うん。ないね。
「お前がただ単に貧乳だからだろ」
うぐっ! 曲げようのない事実が突き刺さる!
「それに俺は愛する妻がたまたま巨乳だっただけだが?」
うわムカつく! いつかその無駄に整った顔に岩塩ぶつけてやりたい。
「和樹さーん。長田さんと一緒にお風呂入ってきてくださーい! その方が効率いいし裸の付き合いも大切ですよー!」
キッチンでゆかりさんが言った。
は、裸の付き合いって……未だにあるのか?
「なんでお前はゆかりと風呂入れたのに俺は男と……」
「しょーがないでしょー。石川さん変態だからゆかりさんに嫌がられたんだし」
上司の痛いところを突けば、石川さんは苦虫をかみ潰したかのような顔をして風呂場に消えていった。それに続くように長田さんも入っていった。
石川さんと長田さんから風呂から上がると、テーブルにはいっぱいの手料理が並んでいた。
白米に豆腐とワカメの味噌汁。ナスの揚げ浸しと白身魚の南蛮漬け。ホウレンソウのおひたし、数種類の野菜の漬物。
うっひょ~めっちゃ良い匂い~! 石川さんはいつもこんな料理を食べてるのか……うっらやっましーっ!
「ゆかりさんの手料理はいつ見ても愛を感じます」
と長田さんが言った。
たしかに……石川さんの好きな和食で、食材もなんだかんだと石川さんの好物ばかり。愛妻弁当でも和食が多くて冷食なんて見たことない。
これだけ見るとゆかりさんて最高の嫁じゃん!
「だって和樹さんのこと大好きですから!」
なんてキラキラした笑顔で言うもんだから……あ、石川さん顔赤い。そして惚気られた。
「~っ……ほら、食べるぞ!」
「照れ隠しですねそうですね」
「中川はドックフードな」
「サーセン」
四人で美味しく最後まで食べました!
ご飯を食べ終わって長田さんは大福と遊んでいる。大福は猫だった。真っ白な猫のオス。
長田さんが猫じゃらしで大福と遊んでる。長田さんすっげー猫じゃらし振り回しとる。……なんかシュールだな。
石川さんはゆかりさんとイチャコラしてる。イチャコラって言い方古い? ごめんね。私、ホラ……若く……ないからさ……うっ(泣)
イチャイチャするのは寝室でやってくれないだろうか。私と長田さんが帰った後で。
「ゆかり~ぃ」
「もう~今日の和樹さんは甘えたさんですね」
……うわー………甘い。
なんで私は上司と奥様のイチャイチャを見てなきゃいけないんだ? 私そんな物好きじゃねぇぞ?
長田さんは大福に夢中だし、石川さんはゆかりさんに夢中。……うん、誰か私を構って。
ワンッ!
下を見るとさっきの犬…ブラン君がキラキラした目で私を見上げていた。
そーかそーか。お前が私を構ってくれるのか。そうだよなそうだよな。お前のご主人は奥様と遊んでるもんな。よしよし私がお前と遊んでやろう。
「遊ぶかブラン!」
「アン!」




