458-1 上司の妻は天使だった2(前編)
まだまだ新婚さんを満喫できる時期のお話。
どぅーもっす。
皆さんお馴染みの中川柚希です。
いやお馴染みなのか……? んー、まぁいっか!
現在私は三徹中☆(ウヘペロ)だって後輩がミスしたから昨日帰れるハズが帰れてねぇんだもん!
そゆことでみんなはピリピリしてるし、ミスした後輩はビクビクしてる。
でも私には家で待ってる人なんて居ないから会社の仮眠室に泊まればいいんだけどね。
問題は私の上司ーー石川さんだ。
めっっちゃイライラしてる。めっちゃ凄い。
性格がお気楽な私でさえも話しかけられないし、付き合いが長い長田さんでさえ必要最低限のことしか話しかけない。
あー……家で待ってる奥様いるもんね。ゆかりさん。可愛いからね。分かるよ石川さん。あんな人が家で待っててくれるって至福だよね至福の極みだよね!
でも仕事は今日でなんとか終わりそうだ。
終わりの兆しが見えてきたので私もスピードアップ! 三徹にはキツいぜ!でも石川さんも長田さんも私より徹夜してるクセに私より仕事早いぜ! なんなんあの人達!? サイボーグですか!? サイボーグなんですか!?
「……家に帰りたい……」
「……温かい風呂に入りたい……」
あ、間違えた。全然サイボーグなんかじゃねぇわ。普通の人間でしたわ。
「…………ゆかりに会いたい……ゆかりぃ……」
って、石川さんは干からびた声で三分に一回くらい言うんだ。やばいやばいやばい! 早くこの人を家に帰してあげて!
「ゆかり……うぅっ……」
ごめんなさい石川さん! 仕事ちゃんとするから! めっちゃ早く仕事終わらせるからその干からびた声でゆかりさん呼ぶのやめて! いくら私のタイプでないとはいえイケメンにそんな声出されるとさすがに良心が痛むから!
私は超特急で仕事終わらせた。
結果、私が干からびた。
「あー……死んだー…………」
仕事が終わり、私はデスクの上に突っ伏していた。コトン、と缶コーヒーが置かれる。
「ご苦労だったな」
石川さん……。
「まっずい珈琲あざーす」
「ほう。要らないんだな?」
「嘘です嘘です! 美味しい珈琲あざます!」
私は急いで缶コーヒーを飲み干した。
うん…………まっじぃ…………。
「三徹ごときで死なれてはこの仕事は務まらないぞ」
鋭い目線で言われた。
いやいや……三徹ごときって……
「……石川さんは何徹したんすか?」
「聞きたいか?」
「イエベツニ」
石川さんはニヤリと笑んで私と同じ珈琲を飲んだ。
「……やはり珈琲は喫茶いしかわに限るな。凄く不味い」
アンタも同じこと思ってんじゃねぇかッ!
……なんて、そんな事は口が裂けても言えない。石川さん相手にタメ口なんて私の首が飛んでまうからな。え? 先日のアレ? アレはアレだよ。不可抗力ってやつだ。
「早く家に帰って温かいご飯食いたい……」
「なんだ。お前自炊するのか?」
「いいえまったく!」
コンビニ飯ですよ! コンビニ飯をチンして食べるんですけど何か!?
「自炊くらいしろ。女だろうが」
カッチーン
~~~っっこの……言わせておけば!
私は上司をキッと睨み上げる。
「言っときますけどね石川さん! 女は絶対料理できなくちゃいけないなんて間違ってますよ! だってコンビニとかあるし! 最近はスーパーまで二十四時間営業! 料理できない女性のことを考えて日々社会も進化しているんです! すなわち! 私が変わらなくても世界が変わってくれるのです!」
「……自分が料理できないことへの言い訳にしか聞こえないんだが」
ええ! 言い訳ですよ! 文句あるかコノヤロー!
石川さんは長ーァいため息をついた。
え、なにその長い溜息。七秒くらいの溜息だったよ?
「……ったく」
石川さんはポケットから携帯を出すとどこかへ電話を掛けた。
「……あぁ、ゆかりさん?」
ゆかりさん! 私のマイエンジェル!
石川さんはゆかりさんに電話掛けてなにするつもりなんだ?
「今から帰るから。……うん、あ、申し訳ないんだけど、部下を二人ほど連れてくから。……そうそう。長田と中川」
え!?
「ご飯とお風呂の用意お願いしていい?……うん。僕も入る。じゃあね……うん、運転には気を付けるから。はいはい。はーい」
とんでもなく甘い声で通話を切った石川さん。なんで奥様相手にはそんな声出すのに私に対しては鬼みたいなのさ……いや、私相手にあんな声出されても気持ち悪いことこの上なし……つかなに? 家? 石川さんの家行けんの? マジで!?
「つーことだから今から行くぞ」
「マジすか。ゆかりさんの手料理食べれるんですか! ひゃっほーい!」
「お前だけドックフードでもいいんだぞ」
なにその仕打ち! パワハラだー!
「長田! お前も来い!」
「遠慮なく行かせて頂きます」
石川さんは愛車の鍵を持ちコートを羽織った。
「行くぞ中川」
「うぃーす!」
石川さんの家……どんなんだろう?




