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徒然とはいかない喫茶いしかわの日常  作者: 多部 好香


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455 if~相手のパラメータが見えちゃうゆかりさん~

 パラレル特殊能力系のifストーリーです。


 8千字オーバーなのでいつもなら2〜3回に分割するのですが、1回おまとめで載せます。


 後半はかなり艶系の話題になっているので、苦手なかたは自衛してくださいね。

「改めて、よろしくお願いします」

 そう言って爽やかなイケメン男が手を差し出してきた。つられて私も笑って答える。

「はい! こちらこそよろしくお願いします!」

 不詳、石川ゆかり。目の前に乱立される数字の情報にさてどうしたものかと考えた。


 小さい頃から、私は相手の情報が数値となって見えていた。判りやすくいうならばパラメータだろうか。加えて相手に対して求める数値や親密度なるものも見えたりしている。

 私がどうしようと悩んでいる理由の一つは彼のパラメータが原因だった。彼のパラメータは総じてすべてバカ高いのだ。とはいえ、これまでも数値の高い人たちは沢山見てきた。一般的な大人を遥かに超えるような子供にも会ったことはある。天才という言葉では説明がつかない程の数値だった。


 そんな今までに会った天才さんたちの数値をさらに上を行くのが和樹さんだった。

 ハイスペックなんて言葉では言い表せない。そんな人がこんな小さな喫茶店でアルバイトみたいな真似なんてするだろうか。他の仕事をした方がよほど儲かるのでは? なんて余計なお世話なことを思ってみたけれど理由を聞いて納得する。

 彼は料理を作るのが好きだが一人では食べる量に限界がある以上、作れる量にも限界がある……と。

 なるほど、能力と夢や趣味は別物なのか。でも、彼ほどのスペックならなんら問題なくすべてのことをこなせるに違いない。


 まぁ、それはそれで。気になる点は他にもあった。彼はどうやら相手に対する評価も自分と同等らしい。これはこと恋愛に対しても同様のようだ。

 女の人にはモテるだろうけど、早い話が面倒臭そうな男ということだ。


 けれど私の数値で考えるなら彼の恋愛対象にならないのは間違いない。

 ならば適当に仲良くしつつ良い先輩であればいい。その時の私はそれに対して何ら疑問も持たずに素直に受け入れた。




 月日は流れ、和樹さんが同僚になってから三ヶ月経った。嬉しいことに私と和樹さんはそこそこ仲良くなっている。もしかしたら私のパラメータが低すぎて逆に妹的に思えているのかもしれない。

 唯一予想外なことは周りが勝手に仲を勘ぐり炎上させてしまったことだ。勘弁してほしい。

 和樹さんが私を相手にしないのは数値で一目瞭然なのだ。ほら、恋愛ゲームでよくある親密度が高くても必須パラメータがクリアしていなければ告白されない、みたいな。

 たとえ私が和樹さんを好きだったとしてもパラメータが足りないのだから無意味だろう。


「ゆかりさん。オーダーお願いします!」

「はーい!」

「今日はお客さん多いですね」

「本当! 和樹さんが休みじゃなくて助かりました」

「はは……耳が痛いですね」

「ふふ。冗談ですよ。和樹さんがいなくたってしっかりと私が喫茶いしかわを守りますから」

「……そうですね。頼りにしてます。先輩」


 なぜか、和樹さんは複雑そうな顔をする。 何か変なことを言っただろうかと考えて。

(あ……もしかして)

「大丈夫ですよ。和樹さんがいてくれた方が私も何かと助かるから。頼りにしてますよ? しっかり者の後輩くん」

「っ、ありがとうございます」

 少しだけ冗談めかしておどけて言えば、和樹さんははにかんで笑ってみせる。ああやっぱり思った通りだ。

 和樹さんの反応は、私が何でも一人で解決しようとした時にしょぼくれるお兄ちゃんと同じだ。

 私のことを妹的な存在だと思っているなら頼られたいのだろう。そう思うとなんだか和樹さんが可愛く見えてくるのが不思議だ。


 それから数日後。私はあることに気がついた。

(あれ?)

 和樹さんの相手に対するバカ高い必須パラメータがやけに落ちているのだ。

(え、なんで? どういうこと?)

 まさか和樹さんに必須パラメータを下げてまで恋している人ができたということだろうか。


 不謹慎ながら私ははしゃいでしまった。だって、あの! 鉄壁パラメータを誇る和樹さんが恋した人だ! 興味を持つなという方が難しい!

 言うなればリアルタイムで恋愛ドラマを見ているような気分だ。しかし相手は誰だろう? まさか本当にJKじゃないよね? 少女漫画ではよくある展開だけど現実に置き換えると犯罪だ。それになんとなくだけど和樹さんはそういう感じじゃない気がする。


「ゆかりさん、ランチセットできました!」

「はい! すぐに持っていきます!」

 和樹さんに呼ばれてハッとなる。いけない、ぼんやりしている場合じゃなかった。ここは今からランチタイムと言う名の戦場になるのだ。とはいえ、和樹さんのパラメーターの状況がまったく気にならないわけじゃなかった。


「和樹さん! ランチセットお願いします」

 いつもよく来るOLさんだろうか?

「ゆかりさん、ナポリタンも持っていきますね!」

「はーい」

 あるいは……あ! まさか人妻!? 不倫はどうだろう。やめておいた方がいいのでは……。


「お待たせしました。ナポリタンです」

「えー、和樹さんが持ってきたのー? ゆかりちゃんが良かったのになー」

「……だからですよ」

「え?」

「ごゆっくりどうぞ」

「あ……はい」


 不倫じゃないなら、やだっ! 大島のおばあちゃま!? 随分と年齢の壁が……そこまで考えてふと気がつく。和樹さんの数値が戻っていることに。

(あ、あれ? もしかして……気のせい!?)

 なんだ、せっかくイケメンの恋愛ドラマを間近で見守ることができると思ったのに。失礼ながら、がっかりしていると和樹さんがカウンターへ戻って来た。


「ゆかりさん、先にお昼どうぞ」

 和樹さんは貼り付けたような胡散臭い笑顔で笑っているが、常とは違う表情の暗さに気が付く。

(――あ……また、もう……本当にしょうがない人……)


「結構です」

「は?」

「そういう気遣いは目の下にクマさんを飼わなくなってからにしてくださいね?」

「……」

「あとは客足も落ち着くだろうし私一人でも大丈夫よ。ほーら、和樹さんはお昼に行ってついでにお昼寝もしちゃってください。これはポアロの先輩命令です」

「ゆかりさん……」


 ちょっとだけ背伸びをして、和樹さんに耳打ちする。

「実はランチ一個だけ取ってあるんです。今日のランチは和樹さんの好きなひじきと肉じゃがですから。特別ですよ」

 和樹さんほど上手くはないけれど、ぱちりとウィンクをしてみせる。すると、彼は口元に手を当てて肩を落とした。どうかしたのだろうかと首をかしげる。


「ゆかりさんってほんと凶悪ですよね」

「えー? こんなに優しい先輩、他にいないですよー?」

「だからですよ」

「?」

「お昼、お言葉に甘えて先にいただきますね」

「ふふ。行ってらっしゃい」

「っ……ほんと、はぁ」

 謎のため息をつく和樹さんの背中を見送りながら――私は目を瞠った。

(あ、れ? うそ……数値が……)

 零に、なっていた。




 あれから数日、和樹さんは本業に忙しいのか喫茶いしかわに顔を出すことはなかった。しかし、気になるのは和樹さんの数値のことだ。ありがたいことに、そう。ありがたいことだ。

 和樹さんの私に対する親密度は高くなっている。しかし、反面。私に求めるパラメーターは限りなく零になっていた。昼休憩のあと、なんども確認したけれど私の前だけ数値が零なのだ。


(私にもふもふみたいな癒しを感じてるとか?)

 いやいや、そんなばかな。であれば――考えられることは一つしかない。

(私……本当に妹的な目で見られてるんだ)

 ならば――やることは一つしかない! 私も和樹さんに兄に接するようにすればいいのだ。なんていい考えだろう。とはいえ、うちのお兄ちゃんと同様に接するのはいささか可笑しい。だって和樹さんはお兄ちゃんとは違うタイプの人だから。


 決意を新たにした時、バックヤードの扉が開く。

「おはようございます。ゆかりさん」

「あ、おはよ――って和樹さん!?」

 数日ぶりに喫茶いしかわへと現れた和樹さんは誰の目から見ても一目で判るほどに傷だらけだった。

 ちょっとした擦り傷は放置しているが、おそらく大きなけがであるところはガーゼや包帯が巻かれている。


「ちょっ、えぇ!? もう何してるんですか! 病院は!?」

「行ってきたので大丈夫です。着替えて準備を」

「いや、待って!? まさかその怪我でシフトに入るつもり!?」

「え? はい。何かおかしいですか?」


 いや、何かおかしいって……明らかに見るからに、どう言い訳しようが彼は怪我人だ。包帯だって巻いている。いやいやいや。ありえない。

 何かじゃなくて全部おかしいだろう。

「ダメです。許可できません!」

「許可って……」

「帰って安静にしてて!」

「いやです。ただでさえ久しぶりの喫茶いしかわなのに。ゆかりさんここ最近ずっとワンオペでしょ? だったら僕が」

 うん。その気持ちはありがたい。本当に。でもだからと言ってけが人をフロアに入れるのだけはダメ。他のお客さんにも誤魔化せない。


「私一人でも大丈夫ですから!」

「でもずっと一人は大変ですよね」

 それを言われるとどうしようもない。しかし

「はいそうです、判りました。ありがとうございます」

 というわけにはいかないのだ。そう、妹を心配する兄の気持ちは十分理解した。だからこそ、妹ならば止めるべきだ。


「和樹さんが心配してくれるのは嬉しいですけどやっぱり許可できません。もし心配ならマスターに相談しましょう? もう一人雇うのは難しいかもですけど、でも」

「……もう一人?」

「ええ、幸い和樹さん効果で売り上げも良いし、忙しい間だけシフトに入ってもらう人を募集するとかどうです? マスターに要相談で――」

 不意に、とんと肩を押された。私はまるで力が抜けたようにその場に座り込む。


「そいつがもし男だったらどうするんですか?」

「え?」

 至近距離に和樹さんの顔が来た。なぜだろうか、獰猛な野生動物を相手にしている気がする。

「どう、とは?」

 まさか、男女のあれやそれの意味だろうか。

(そこまで心配するなんて、やだ……本当にお兄ちゃんみたい)


「ぷっ、ふふ。もう、和樹さんってば」

「ゆかりさん! 僕は真剣に」

「大丈夫。心配しすぎだとは思うけど、そういうことから守ってくれるんでしょう?」

「……まぁ、それは……そうなりますね……っていうか、もうバレバレかもしれませんが僕の気持ち……」

「ふふ、任せてください! ちゃーんとわかってますから! もう、和樹さんの気持ちは……バレバレですよ?」

 そう。数値で見えてしまうのだから、彼が私に対して妹のように思ってくれているのはバレバレなのだ。



  ◇ ◇ ◇



  最近、和樹さんの機嫌がいい。見るからに上機嫌だ。以前の彼ならば多少のミスでも親の仇のように怒っていた。しかし今は多少のミスなら親の仇のように怒った後にフォローが入る。

 結果、親の仇のように怒られてはいるがフォローがあるだけで随分と違うものであり、彼の部下たちは上司に心の余裕ができたのだと喜んでいた。


 そんな部下たちの心をつゆ知らず、和樹は喫茶いしかわの常連幼児に相談していた。

「ちょっと聞きたいんだけど、僕はそんなに判りやすいかい?」

「……え?」

 誰が、判りやすいと? 思わず飛鳥は首を捻った。かしげるを通り越して捻っている。この男が判りやすければ苦労しない。

「うーん、真逆だと思うけど……」

「まぁ、そうなるか……僕も判りやすいつもりもないんだけど……はぁ。気が緩んでるのかな」

 気が緩む。まぁ、たしかにここの空気は気が緩みそうになる。それはおそらく。

「あら? 飛鳥ちゃんいらっしゃーい。今買い出しに行って来たんだけど焼き芋を売ってたの! 今、他にお客さんもいないし一緒に食べましょう!」

 気が緩む原因。それは間違いなく十中八九この看板娘のせいだろう。



  ◇ ◇ ◇



 最近、和樹さんの様子が変だ。やけにパーソナルスペースが狭い気がする。気のせい? と思ってみたけれど傍からみても狭いらしく聡美ちゃんから指摘されるほどだった。

 そういえば最近よくごはんを一緒に食べるようになった。前から送ってくれていたけど、最近は本業のお仕事があっても店に顔を出して送ってくれる。そうして考えると、たしかに距離がだいぶ近くなったものだと思えた。

 いや、妹ならばそれも当然かもしれない。


「ふふ」

「どうかしましたか?ゆかりさん」

「私と和樹さん、随分と仲良くなれたなって思えて」

「そうですね。僕としてはもっと仲良くなりたいと思ってますよ?」

「これ以上?」

「ええ、これ以上」

 これ以上とはどこまでだろう。親密度の数値がいまだ上がり続けている和樹さんからこれ以上と言われてもピンとこない。


(あ、れ?)

 ふとした距離の近さ。するりと手を握られる。どうして、という疑問の前に柔らかに笑う和樹さんにドギマギした。

 これは、はたして兄妹の距離感でいいのかしら。所謂、これは……恋人つなぎと言うやつで。一瞬だけあらぬ方向に考えがよぎる。和樹さんは本当に私を妹的に見ているのだろうか。

(……いや、ないない。だって和樹さんが他の人と話をするときは必須パラメーターはそのままだし)


 ただし、私の時だと相変わらず数値は零になる。早い話が、そう言う対象にすらならないからパラメータは変動しない場所にまで落ちてしまったのだろう。

 だから、勘違いするな。石川ゆかり。しっかりしなさい――もし勘違いなんてしてみろ。あとあと泣くのは私なんだから。


「今日は何食べましょうか」

「ここ最近ずっと外食ばっかりですよね。しかも私和樹さんにおごられてばっかりだし。不公平だと思います」

「何回かゆかりさんにも奢ってもらいましたよ」

「う○い棒やチ○ルチョコは奢る換算には入りません! もう……あ、そうだ! お鍋しませんか?」

「鍋?」

「はい! スーパーでお買い物して家でお鍋しましょう!」

「……ゆかりさんの家で?」

「はい」

「……それは、お誘いということで?」

 お誘い? まぁ、有体に、たしかに食事のお誘いだ。

「そうですね。お誘いです」

「――なるほど。じゃあお酒でも買っていきましょうか」

「お鍋自体はどうします? 寄せ鍋? チゲ鍋? 水炊き? すき焼き……はちょっとお肉が高いから豚しゃぶもありますよねぇ、何が良いかなぁ」


 断然に、色気より食い気の自分に少しだけ笑いが出る。こんな距離感が私と和樹さんらしい。私と彼ではあまりにも違いすぎて、恋だの愛だのは烏滸がましいじゃないか。

「ゆかりさん」

 すっと、なぞる様に首筋が撫でられる。

「え、あ……は、い」

「すっぽん鍋にしませんか?」

「はい?」




 結論から言おう。只今朝の六時を少し過ぎた頃。隣りではすやすやと眠る男が一人。お互い裸だ。色々と呆けた頭で私は起き上がり、頭を抱える。

 すっぽん鍋の行方は、と言うと綺麗に片付いている。すっぽん鍋は美味しかった。グロかったけど、美味しかった。状況を考えるに『あの』後に片づけてくれたということかもしれない。いや、そうじゃないと小さいオッサンが片づけてくれたことになるのであまり考えたくはなかった。

(自分で考えといてなんだけど、小さいオッサンってなに?)

 完全に私の頭は混乱を極めているのだろう。


 兎にも角にも、改めて自分の体を見る。裸だ。何もつけていない。

 昨日のことは覚えている。別にお互いが裸になって一緒の布団に入ってぐうぐうと寝たわけじゃない。珍しく缶チューハイ一本で酔っ払った私は和樹さんに言われるがまま服を脱いで、そのまま覆いかぶさられた。

 どくどくと、今現在心臓が謎の動きの速さをしている。このまま鼓動が早いままだと死ぬんじゃないかと思えるほどに。

 すやすやと私の隣で眠っている男は起きる気配を一切見せなかった。


 ここでようやく私は最大の間違いをおかしていることに気が付いた。

 和樹さんとの昨日の会話。


「お誘いですか?」「お誘いですね」

 私の意訳「食事のお誘いですね」

 和樹さんの意訳「エッチのお誘いですか?」


 という絶望感漂う勘違い劇に気が付いて。


 ぎゅうっと胃が伸縮する。やめて、嘘でしょ。私――処女のくせに和樹さんを誘ったド淫乱な女だと思われてしまった可能性が高いということだ。

(というかちょっとまって、私昨日お風呂入った? 入ってないよね? ということは汗水垂らして働いた体でっ、あああああああああああっ!)

 ちょっとここでは言えないトコロにたくさん唇を寄せられていた気がする!


 声にならない叫び声がこみ上げてくる。けれど隣で寝ている和樹さんを起こすわけにもいかないのでぐっと黙り込んだ。

(というか、そもそものお話……兄妹でエッチなんてするの? …………いや、しないしないしない。私お兄ちゃんとそう言う関係になるとか考えただけでも鳥肌立つし……)


 私は恐る恐るベッドで眠る和樹さんの数値を見る。けれど――

「……あれ?」

 何も変動していなかった。いや、心なしか親密度だけは爆上げされているような気はしたけれど。敢えてそこは見ないふりをする。


 というか、勘違いはどこからだろう。

(バレバレですか? バレバレですよ……よく考えたら……和樹さんから何がバレバレなのかなんて聞いてない……)

 これでもかと言うぐらいに必死に悩む。考える。だから私は気が付かなかった。眠っていたはずの和樹さんが起きて、私に手を伸ばしたことを。




 よくよく考えれば判ることだった。けれど石川ゆかりは気が付かない。石川ゆかりは見ようともしない。蓋をして、考えないふりをして、視線をそらして、良き妹であろうと演じる。

 しかしいくら考えないでいようとも限界は訪れる訳で、どうやっても無理がたたるわけで。だから石川ゆかりは考えた。どうすれば良いのかを。

 その結果が――


「大変申し訳ありませんでした!」

 私は土下座をする。もうおでこをベッドに擦り付けて見事に華麗なる土下座を決めている。

「あ、あの……ゆかりさん? 何で僕は起き抜けに彼女から土下座をされてるんですか?」

 彼女、という言葉に嫌な汗が流れる。ああ、やっぱり、そういうことだよね。いくらなんでもごまかしようがない。バレバレですか? バレバレですよ。


 問→何がバレバレなんでしょうか?

 答え→僕が貴方を好きなことです。


 明快に、判りやすい答えだ。なのに私は『知らないふり』をして『見ないふり』をした。だらだらと、嫌な汗が流れる。


「――正直に言います。私、和樹さんとはそんなつもりはなかったんです」

「……は?」

 空気が一瞬にして冷えた。まぁ、うん。そうなるよね。そうなる。

「その、私……和樹さんが私のことを妹みたいに見てくれてるって思ってて……甘えちゃったのも悪いんです」

「……妹」


 和樹さんは、ふっとため息を吐いて私を見る。それから、予想外にもにこりと笑って。

 その瞬間、ぐんっと腕を引っ張られた。

「え――ひんっ!」

 ころりと見事に自分のベッドに転がされる。状況シチュエーション、それは女に覆いかぶさる悪い顔をした男。


「ゆかりさん、二十代ですよね?」

「え? あ、はい、そうです」

「僕はあなたより年上ですか? 年下ですか?」

「……としうえです」

「僕の性別は?」

「男」

「貴方の性別は?」

「女」

「――いい歳した男女が兄妹? ゆかりさん。頭大丈夫ですか?」

 言いたいことはごもっとも。私は何も言い返せない。


「ねぇ、ゆかりさん。昨日僕に抱かれながら何を言っていたか覚えてないでしょう」

「え?」

「僕のことをずっと好きだと言い続けてたんですよ」

 にこりと、笑う。笑って、私に口づけた。体はベッドに縫い付けられたまま、私は碌に抵抗もできない。

 誰が、誰を好きだと? 私が、彼を好きだと言ってたの? ずっと? うそ。嘘だ……だって私は――

 私は、その瞬間に昨日の夜を思い出す。

「っ!」

「その顔、思い出しましたか?」

「……あ、ぁ」

「ねぇ、ゆかりさん。僕を好きだと言ったその口で――まだ兄妹的な感情だと言えますか?」

 彼はにたりと笑って見せて。昨日の夜に思考をすべて奪われた。


 本編のふたりならフラグクラッシュ側に全力ダッシュな展開なのですが、この世界線は和樹さんがウッキウキな方向へ疾走しました。


 ゆかりさん、ステータスしか見えない能力で良かったんだか悪かったんだか(苦笑)

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