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徒然とはいかない喫茶いしかわの日常  作者: 多部 好香


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447 バニーガールはSSR

 誤字報告いただきました。ありがとうございます。

 喫茶いしかわを辞めた和樹と再会し、それまで通りの仲の良い元同僚から仲の良いお友達になったと思っていたゆかりはある日の夜、怒涛の展開で結婚を前提としたお付き合いをすることとなった。

 

 その手を取ると幸せを前面に押し出さんばかりに嬉しそうな顔をされ、それからはちょっとスピードがありすぎる気はしつつも二人のペースで進んでいくうちに一緒の夜を望まれて、惚れた弱みがありつつも嬉しくて。


「か、かずき……さん?」

 彼の色気の凄まじさったらそれはもう抜群の破壊力で、艶声に頭がクラクラ。名前を呼ぶ声が上擦ってしまう。

「うん。なんなら呼び捨てでもいいけど」

 年上だしそれはムリ。和樹くんならすっごく頑張ればいけるかもと答えたら破顔された。


 そんなこんなで和樹と交際し始めたと思ったらあっさり結婚し、なんだかんだ細々と色々な出来事があって半年。




 和樹の妻になったゆかりはとあるアプリゲームにハマっていた。

 スマホを一回タップしてアプリを立ち上げる。


 アプリゲームの名前は『誘惑☆コーデ』。

 ゲームの内容は少女・少年・女性・男性・どちらの性でもない超人類と呼ばれる中性的な人物を着替えさせていき、好みのコーディネート(コーデ)を作り上げていくというものだ。

 自分そっくりのアバターを作るのもいいし、最初から用意されたアバターに手を加えるもよし。


 ゆかりは迷わずにそっくりのアバターを作ることにした。

 鼻筋の通ったイケメンフェイス、高身長でモデルのようにすらりとした体型の色男。そう、夫そっくりのアバターだ。


 プレイヤーの名前はゆかり。毎日無料ガチャを回し、入手した衣装を少年アバター『和樹君』に着せて目で楽しみ愛でる。

 衣装の種類は様々だ。洋装のタキシードもあれば異国の王子のような衣装、和服だって紋付き袴に着流しから胴着まで、なんでも揃っている。


 まだ最初の頃の無料チケットが残っているため有料ガチャには手を出していないが、それも時間の問題だろう。

 だって毎日プレイしてるから画面の中の和樹君に愛着を持ってるし格好いいんだもの。それに彼は何より愛する夫そっくりに作り上げたのだから。



「和樹さんもアプリゲームにハマってるの?」

 うん、と小さく笑う夫だけど何のゲームをしているかまではどうしても教えてくれない。

「も、ってことはゆかりさんも新しく始めたんだろう。そっちの内容は?」

 ぐっ、とゆかりは口を閉じた。


 だって毎日夫そっくりのしかも少年アバターの着せ替えごっこしてるなんて――倒錯しているというかとんでもない性癖だって思われない?

 押し黙った妻を見て和樹は口の端を上げて人の悪い笑みを浮かべた。


「見たいのならご自由にどうぞ。ただし後から必ず君のも見せるように」

 と言い残してテーブルに自身のスマホをこれ見よがしに置き、リビングから隣の部屋へと立ち去っていく。


 リビングに一人残されたゆかりはムムムと眉を寄せながら夫の携帯へと手を伸ばした。

 そして固まる。

 だって同じアプリゲーム『誘惑☆コーデ』がまさか夫の携帯にあるなんて思ってもいなかったので。


 少し震える指で彼のゲームを開く。

 そして見たものは――「か、和樹さんのえっち!」


 彼のアバターは、まぁるいおでこを出したヘアスタイル。くりんとしつつもタレ気味の瞳。チョコレートブラウンの髪色のロリ顔女性。

 そう、石川ゆかりそっくりのアバターである。


 それだけなら似た者夫婦だなあと納得するのだがアバターの衣装が問題だった。

 布地の少ない衣装から溢れ落ちそうな乳房に桃色の垂れ耳を二つ頭にピョコンと付けて両足には網タイツ。

 どこからどう見ても立派な(?)バニーガール。


 どうやらゴールド会員になると有料ガチャも特別になるらしい。

 衣装棚を開くとバニーガールの衣装が今まで目にしたことのないSSRであることが分かり「和樹さんの課金、エグい」とゆかりは虚ろな目をしてしまう。

 他にも防御力ゼロのひらひらスケスケ踊り子の衣装はあるし、ミニスカメイド衣装はあるわでえっち! としか言いようがない。


 和樹さんのエッチ! スケベ! 変態! でもでも、ほんの少しだけ嬉しい……かも。

 頬を桜色に染めたゆかりはなんとか怒った顔になろうとするけれどついつい笑ってしまう。


 だってこのゲームをしている時の和樹さんの気持ち私にも分かるから。たぶん私に会えない時の寂しさを埋めるためにしてたんだよね。

 エッチすぎる衣装はいくら私そっくりでもいけないと思うけど!



「ああ、やっぱり見たんだ」

 いつの間に戻ってきたのだろう。

 夢中で彼のスマホを触っていたゆかりは耳元に囁かれた夫の声にびくりと肩を震わせた。


「そんなに君が着せ替えが好きだなんて知らなかったな」

「違います! ……って和樹さん。その手に持ってるのもしかして……」

「俺はこの衣装着るからゆかりさんはこっちの衣装着てね」

「拒否権は?」

「ない」


 直接目にする衣装は大胆な布面積に桃色の垂れ耳。着替えたらたいへんエッチなバニーガールが誕生するに違いない。

 彼はタキシードでわたしはバニーガールってどういうことなの?

 疑問に思うが夫の黒い笑顔の圧力に負けて結局着てしまう。



 ◇ ◇ ◇



「これでいい?」

 恥ずかしそうな上目遣いでこちらを見てくる妻はもじもじと膝を擦り合わせていた。

 なんだその今にも食べてくださいと言いたげな態度は。いや喰らうから別に問題はないか。

 ふうーっと大きく溜め息を吐くとどんなお仕置きをしようかと思案する。


 自分は妻そっくりのアバターを作っていたのに何故か妻は少年姿の和樹を着せ替えして愛でていた。

 浮気かな? いや、少年ではなく今の自分の姿に和樹のような衣装、ウェイター姿をもしも着せていたらそう思ったのかもしれないが浮気と断定するには材料が少ないし微妙な線だろう。


「衣装はこれ以外にも揃えているから。今から頑張って君が育成しているアバターそっくりな子を作ろうね♡」

「え、や、作、るって……」

 思わず後ろに下がっていくゆかりだが着替える前にリビングから寝室へと移っていたので逃げ場がない。

 それに本心ではこうなるかなって、こんな展開を期待していたりしていたので下がったのは三歩だけ。


「でも、女の子かもしれませんよ♡」

 甘い声でそう答えると自ら後ろのベットに倒れ込む。


 食べられたいバニーガールは両手を広げるとタキシード姿の狼に喰われていった。

 子宝に恵まれてからは、万が一こんな衣装が見つかったら大変だから処分しましょうと言うゆかりさんに、わかりましたと答えつつトランクルーム借りて保管する和樹さんがいそう。

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