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徒然とはいかない喫茶いしかわの日常  作者: 多部 好香


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42-3 RUSHカレーをつくろう(後編)

 ゆかりは、スパイスを慎重に計量していく。


 といっても、すべて十倍にするので、細かい調整がいらず逆に計りやすいくらいだった。

 粉になっていないものはスパイスミルを用いてガリガリと削っていく。じわりじわりとスパイスのツンとした香りが店内に満ちていく。

 すべての計量を終えると、それなりのボリュームになった。ラーメン鉢に山盛り、といったところか。すりきりだと少し溢れそうだ。さすが十倍。


 これを、大きめのボウルの中でよく混ぜ合わせる。

 それから、底の広いフライパンで丁寧に混ぜながらじっくり炒めた。レシピには一分程度と書いてあったが、なにせ量が十倍である。スパイス全体にしっかり火が通るよう、心持ち長めに炒めた。


 子供たちには分量の玉ねぎ十五個分とトマト二十個分をざく切りして冷凍したものを渡してある。

 手ですりおろすのはあまりにも大変なので、マスター夫妻と一緒にがんがんフードプロセッサにかけてもらう。

 それが終わったらニンニクと生姜をフードプロセッサにかけてもらう。

 すべて分量が十倍になっているので、予想以上に大変だ。


 大鍋をふたつ用意して、トマトはゆかりが、玉ねぎはマスターが十五分煮詰めてペーストにし、梢はニンニクと生姜を少量の油で三分弱炒めてペーストにする。

 トマトと玉ねぎはジリジリ焼け付くように鍋肌にこびりつくが、それもしっかりこそげとってペーストに混ぜこんでいく。

 その間に子供たちはりんごをフードプロセッサにかけていく。


 梢のペーストと子供たちのすりおろしりんご、ゆかりのトマトペーストをマスターの鍋に入れ、ハチミツ、ローリエ、塩、ブイヨン、水を入れて、少しずつ混ぜ合わせていく。

 混ぜ合わさったところでゆかりが炒めていたスパイスを加え、丁寧に混ぜていく。ペーストなので、混ぜ合わせるだけでもけっこう力と根気がいる作業だ。


 マスターが作業を進めている間に、梢と子供たちが洗い物をしてくれる。

 ゆかりはバターと小麦粉を計量する。ラードはお肉屋さんに注文した時点で計量済みだ。

 計量の間に梢が洗ってくれた大鍋を火にかけ、ラードとバターを焦げ付かないように溶かしていく。溶けたらそこに小麦粉を加え中火で四分ほど、ぷつぷつとあわ立つそれを丁寧にかき混ぜながら加熱を続けると、ミルクティーのような色になった。

 マスターの鍋の中身をその中に入れて、丁寧に混ぜ合わせる。


 ここで型に流し入れて冷蔵庫へ。

 といっても一介の喫茶店に和樹のシックスパックのようなキレッキレの型はないので、ラップを敷いたタッパーに小分けして流し入れる。


 空気が入らないようルーにピタリとラップを密着させて蓋をして、カレールーのタッパーをすべて冷蔵庫にしまうと、みんなやり遂げた顔をしていた。


 ここでドアベルを鳴らして店に入ってきたのは和樹。

「……僕、間に合わなかったんですね」

「……たった今、やりきったところです」

 すべてを察し、がっくりと肩をおとす和樹を宥めるのはカレールー作りよりも大変だった気がしたゆかりであった。



 ◇ ◇ ◇



 イベント当日。家族一丸となって朝から仕込みを始める。



 丁寧に洗ったニンジン五本、じゃがいも十五個、玉ねぎ十五個の皮をよってたかって剥いていくと、あっという間に皮がボウルいっぱいに溜まった。


 玉ねぎの薄切りと櫛切りは和樹とマスターが積極的に引き受けてくれた。

「泣いてお化粧崩れるの嫌でしょう?」

 というありがたい配慮からの申し出なので、全面的にお任せした。

 ニンジンを梢が乱切りし、じゃがいもをゆかりが八等分にしていく。

 子供たちはその間に、野菜の皮をだしパックに詰めていく。いわゆるベジブロスのスープストックを作るためだ。


 だしパック、ニンジン、じゃがいもを大鍋ふたつに分けて入れ、それぞれに分量の水を入れて火をつけ、沸騰してから十分ほど煮込むと、玉ねぎの皮の色のスープストックができた。


 茹でたじゃがいもは型崩れ防止とコクをアップさせるべく素揚げし、そのフライパンで櫛切り玉ねぎを炒めていく。


 昨夜のうちに肉屋さんから届けられたブロック肉は二種類。

 豚肩ロース肉は存在感を出すべく厚めに切り、豚バラ肉は生姜焼き用くらいの厚さに切る。カレーに負けないよう、塩胡椒でしっかりめに下味をつけるのが美味しく仕上げるポイントのひとつだ。

 フライパンに豚バラを並べ、焼き色がつくようじっくりと火を通す。脂身が透き通り、たっぷりと脂が溶け出してきたら、バラ肉を片側に寄せてできたスペースで肩ロースを焼く。

 肉を取り出し、旨味たっぷりの豚の脂ですりおろしたニンニクと薄切り玉ねぎをこんがりキツネ色になるまで炒めると、ニンニクの香ばしい匂いが充満していく。


 元のレシピではここにスープストックなどを入れていくと書いてあるが、さすがに量が違いすぎるので、ここで寸胴ふたつに移した。

 スープストック、豚肉、ニンジン、素揚げしたじゃがいも、ローリエを入れて火をつけ、ひと煮立ちさせる。

 ここでカレールーを投入するのだが、そのままでは大きすぎて溶かすのが大変なので、包丁でザクザク刻んで入れていく。

 ちなみにここで和樹が「はぁ……僕も参加したかった」と愚痴をこぼしながらカレールーを刻んだのはもはやお約束である。


 あまりかき混ぜないようにしつつ十分ほどでルーが溶けたところでローリエを取り出して櫛切り玉ねぎを入れ、五分ほど煮込んだらすりおろしニンニク、バター、塩を入れ、さらに煮込む。


 カレーを煮込んでいる間に、梢がイチゴを細かく刻み、子供たちがだしパックに入れて果汁を絞る。余裕をみて三十個分絞ったが、少し余裕を持たせすぎたかもしれない。カレーの隠し味に使う果汁を量って、子供たちに入れてもらう。

 余った果汁と絞った後の果肉は、砂糖を少しと牛乳を混ぜて、頑張ってお手伝いしてくれた子供たちのお疲れさまドリンクにした。


 一本の缶ビールから、二つの寸胴に分量のビールを入れていく。

 わずかに残ったビールをじっと見てゴクリと喉を鳴らすマスター。

「泡が抜けたビールは美味しくありませんから、仕方ありませんね。もう調理は終わりますし、飲んでいいですよ」

 ため息まじりに梢が許可を出すと、マスターは労働の後のビールはいいよねぇと嬉しそうだ。


 最後の隠し味、塩辛の汁を入れてやさしく馴染ませるように混ぜる。実はこれを手に入れるのが意外と大変だった。なにせ量が多すぎたからだ。


 ここで長田が妻・(たまき)を連れて店を訪れた。

 はじめましてと挨拶を交わすと、環がさっと保冷パックを取り出した。

「こちら、お約束していたブルーチーズです」

「わあ、ありがとうございます!」

 差し出されたブルーチーズはそこそこ大きな塊だった。

 ひとまず店内にご案内し、マスターこだわりのコーヒーを提供して寛いでもらう。

 カレーに入れるのは50gほどあればいいので、分量のブルーチーズを切り取り、残りは冷蔵庫にしまう。

「手土産のかわりです。余りはご家庭でワインを飲むときにでも召し上がってください」

 そう環ににこやかに言われ、素直に受け取った。

 ブルーチーズを細かく刻んで片方の寸胴に混ぜると、わずかにまろやかな色になった。


 もう片方の寸胴に入れるキムチの汁は、時々利用している韓国焼肉店のオモニに相談して入手した。オモニも当然のように番組を見ており、カレーをご所望だったため、交渉はスムーズだった。キムチの汁は昨夜のうちに店に届けられている。

 冷蔵庫から取り出し、濾しながら寸胴に入れていく。汁の赤い色が、より辛さを誘うようだ。


 少しかために炊いたごはんも、準備万端だ。


「よしっ! RUSHカレー二種類、完成です!」

「やったーっ!」

 ゆかりが宣言すると、ほっとした顔をする大人たちと対象的に、子供たちは万歳しながら歓声を上げた。

 和樹さんがいろいろ振り回してくれた結果、作るだけで後編が終わってしまいました。

 イベントの様子は次回持ち越しです。

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