422 if~こういうの嫌いだと思ってました~
予約投稿1日間違えてたので手動投稿です。
ifシリーズです。
両片思いの冬、ゆかりさんから迫ってみたら。
テーブルに置いていた携帯から通知を知らせるアラームが鳴り、開いた通信アプリには疎遠になっていた学生時代の友人の名が表示されていた。
『久しぶりー! ねえ、ゆかり。タダで美味しいご飯食べたくない?』
『二年振りくらい? 久しぶりだね。それって花純がご馳走してくれるってこと?』
『違うよー女性無料の婚活パーティーに行かない? ってお・さ・そ・い』
返信すると一分ぐらいだろうか。
既読が付いて有名アニメキャラクターのスタンプが画面上で踊り、ふふっとゆかりは唇を綻ばせた。
『うーん。私はいいかな』
『えーっ! もうゆかりしか頼める人いないの』
その後、断っても断っても食い下がってくる友人を宥めたり、違う話題を振って気を逸らすこと一時間。
どうにか断ることが出来た私は携帯をテーブルに戻すと座っていたソファーに寝転がった。
「うわーん、疲れたよ~っ。どうせなら婚活よりも豚カツ食べたい……ってお兄ちゃんのダジャレみたいなこと言ってるし」
もうやだあ、とクッションに顔を埋めた私が顔を上げるとお気に入りのぬいぐるみはそっぽを向いているという塩対応。
お互い年齢考えるといい人見つけるなら今が最後のチャンスでしょ! とか大きなお世話だし、と友人の返信を思い出して、またクッションに顔を突っ伏して。
そのままの状態でいたら遠くから雲が大きく動く音とゴロゴロ、と雷の音が聞こえてきて、大降りになりそうだと思いながら目を閉じた。
予定していた午後のウィンドウショッピングは諦めてこのまま眠ってしまおうか。
眠りにつく前、目蓋の裏に浮かぶのは彼のやわらかな笑顔と私が仕事で失敗した時に肩に置かれた手の優しい温もり。
喫茶いしかわのエプロンではなくグレーのスーツを纏っている時の彼の雰囲気は、ずっと硬質にはなったけれど、本質は何も変わっていなかった。
もしも婚活パーティーに参加したとしてもきっと自分は上手くいかない。
だって忘れようと思っていた好きな人にまた逢えて、友人でもいいから隣にいたいと思っているのだから。
窓を叩く雨音は予想していたよりも弱々しい。
遠く彼方から聞こえる雷鳴を子守唄代わりにして微睡みへと沈んでいった。
◇ ◇ ◇
年明けの繁華街は空いていて、この分なら今から行く店も予約しなくても大丈夫だったかもしれない。
最近の厳しい冷え込みもあり自宅でゆっくり過ごす者も多いのだろう。
せめて首もとだけでも強化しようとマフラーをぐるぐると巻き直していると、連れ立って歩く友人と目が合った。
「ゆかりさん。寒そうな顔してる」
「だって冬真っ只中だし本当に寒いんですもん。そういう和樹さんは全然寒くなさそう」
長身の彼を横目で見ると「いや、僕も寒いと思ってるけど」と肩を竦めて笑っている。
同僚だった時よりも砕けた言葉遣いで話すようになったのは少し前から。近い距離と親しげなスキンシップも友人だからでお互い許容していた。
「えーっ。彼女と別れたの!?」
二、三メートル先の前の歩道から甲高い女性の声が聞こえてきて、反射的につい眉を顰めてしまう。
和樹さんの顔を見ると苦笑いしていた。
私に道を変えるか、と目で聞いてきたのをいいよ、と小さく首を縦に振り返して合図する。
ドラッグストアから左に曲がり、回り道をする前に見えたのは真冬なのにミニスカートと大胆に攻めた服装の女の子が「じゃあ、これから二人で休・憩していくー?」と連れの彼の腕にするりと手を掛けている光景だった。
「まだそんなに日も暮れてないのに大胆というか積極的ですよね」
何となくふう、と溜め息を吐くと息が白い。
目にしたミニスカートといい息の白さも相まって、見ていただけでも寒いと指を擦り合わせていると捕まった。
和樹さんのコートのポケットに私の右手がすっぽり包まれている。
温かいよりも気恥ずかしさが勝って「和樹さんも人恋しくなったんですか?」とつい余計な一言を言ってしまう。
「も、ということは君も人恋しいって意味?」
「おモテになる和樹さんの場合、人恋しいよりも人肌恋しいの間違いかもしれませんけどね」
自分で言っておきながら知的な眼鏡美人の女性と抱き合っている彼を想像して、お腹の下辺りがズンと重くなっていく。
「残念ながらそんな相手いませんよ。それにこの歳になって一夜の遊びも面倒だしリスクが高すぎる」
顔立ちの整ったいわゆる美形の和樹さんが言うと説得力がありすぎるというか、もしかしたら今まで女性絡みで相当面倒な目にあってきたのかもしれない。
ふと通信アプリで話が来た婚活パーティーが頭を過り、彼のポケットから手を脱出させていった。
「居酒屋で飲んだ後、和樹さん。時間あります?」
「あるけどどうして?」
先程の彼女がしていたのを真似てスルッと彼の腕に掴まり、むにっと胸を押し当てたりなんかしてみたり。
「二人きりになれる場所に行きませんか」
自分も和樹さんを通りすぎて行った面倒な女の一人になってみたら、嫌われたり敬遠されたりするのかしら。たぶんこれ、完璧に軽蔑されたよね。だって和樹さん、さっきの女の子の行動に苦々しい顔してたし。
そう考え始めたら彼の顔を見るのが怖くなる私はどこまでも浅はかでどうしようもない。
「僕の家に行く前に君の家に寄ってお泊りの準備する?」
「えっ!?」
恐る恐る顔を上げると目元を赤くした和樹さんの手が私の手袋を外していく。
浅黒い指と私の指が絡まっていき、これって恋人繋ぎと思い、訳が分からぬまま自分からもぎゅっと指を絡めた。
「うん。寄ってください」
彼と友人になってからブランくんとは何度か顔を合わせて仲良しになってるからその点は問題なかった。
問題はつまり和樹さんと私のこれから過ごす時間についてだけで。
「あのね。和樹さんはこういうの嫌いで断られると思ってた」
和樹さんのマンションの部屋で入れてくれた梅昆布茶をひとくち飲んだ私はまだ頭が働かないまま、真正面に座る彼へと問いかけた。
「確かにああいう子は苦手だけど、好きな子に言われたら別。あの時僕がどれほど舞い上がってたの分からなかった?」
とびきり甘い瞳に見つめられ、とろりとした艶声に捕まった私はただただ赤面することしかできずにいた。
ゆかりさんはいっぱいいっぱいだし和樹さんは脳内がとんでもないことになってるし(苦笑)
この場合、何年経とうがこの話を蒸し返す和樹さんが存在すると思う。




