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徒然とはいかない喫茶いしかわの日常  作者: 多部 好香


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409 男のロマンは禁断の

 和樹さんとゆかりさんの視点がコロコロなので、ちょっと読みにくいかもしれません。

 女性らしさの象徴といえば、何を思うだろう?


「柔らかそう」

 いや、柔らかさは折り紙付きなのだが。

 アレは男にとっては浪漫。


 ここ一ヶ月、会社への缶詰と長期出張を強いられた。

 部下達に檄を入れ、仕事にのめり込む。


 の、結果?


 多大なストレスを溜め込み、帰路についていた。

 早く会いたくて仕方ない人を求め、ふらふらと歩く。


 玄関を開けた瞬間、彼女がいた。

「お帰りなさい!」

 そこで、僕は事切れた。



 ◇ ◇ ◇



「また、お仕事大変だったんですね」

 目の下に隈を飼い慣らし、満身創痍で帰ってきた旦那様は、家に入った途端倒れ込んだ。


 今や、胸に顔を埋めて爆睡。

 幼子のように幸せそうに眠られては、怒るに怒れない。

 心音を聞くように胸元に耳を押し当て、背中に回る腕。

 すやすやと聞こえる寝息に、笑みを溢す。


 そのうち、玄関先にやって来たブランは、彼のそばで丸くなる。

「みんなで一緒に寝ちゃおうか!」

 床で寝れば、翌朝は身体が痛いだろう。

 それでも、眼下で幸せそうに眠る男を、起こそうという気にはなれない。


「おやすみなさい」

 額にキスをして、目蓋を閉じる。



 ◇ ◇ ◇



 さて、翌朝のこと。

 目を覚ませば、我が家の廊下。


「まさか、ここで」

 優秀たる頭脳は、素早く状況を把握した。

 玄関先で事切れたまま、妻を巻き込み眠ったらしい。


 だがしかし、自分の身体は痛みもない。

 それもそのはず。

 妻を抱き枕よろしく抱き締めて、和樹専用の超最高級枕に顔を沈めていたのだから。


 罪悪感には苛まれつつ、和樹は彼女を抱き上げる。

 寝室のベッドに最愛の妻の身体を横たえると、烏も驚く行水で部屋に戻り、鍛え抜かれた身体を惜し気もなく晒す。


 ぐっすり眠ったお陰もあり、頭も冴える。

 可愛らしいパジャマのボタンに手を掛けて、ズボンをするりと脱がせた。

 あっという間に下着姿にさせられたものの、熟睡中の彼女は目を覚さない。


「ブラ、邪魔だな」

 キャミソールの下、双丘を包む布一枚すら邪魔だと、和樹は脱がせる一択。

 しかし、ホックがある訳もない。

 どこからともなくハサミを持ち出し、寝室にジョキンと、不穏な音が響いた。


「おやすみ」

 再び、彼女の胸に顔を埋めて、和樹は夢の中へと旅立った。

 己が手で育てた至極の柔らかさを誇る双丘は、彼の顔を包み込む。

 心臓の音を子守歌に、彼は幸せを噛みしめる。


 ブランも自分の寝床に潜り込み、二人と一匹は幸せな二度寝。



 ◇ ◇ ◇



 それから数時間後、彼女が目を覚ました。

 心地良い重さと圧迫感に、寝ていた場所が変わったことを知る。


「お帰りなさい。和樹さん」

 場所が変わっても胸に顔を埋めて眠る夫は、幾ばくか隈から解放されていた。


 さても、一つ自分の違和感に気付いた。

 胸にかかる心地良い重みはさておき、胸を守っているはずの布がない。

 よくよく見れば、身体を包んでいた布もない。

 彼に至っては、ボクサーパンツ一枚という暴挙に出ていた。


 名探偵の頭脳などなくても、あっさりと結論は出た。

 ヒントは、ベッド下に放置された布。


「和樹さん!」

「ん~?」

 眠さが彼の中で圧倒的勝利を収めているらしく、まともな返事は望めない。


「私のブラとパジャマをどうしたんですか!?」

 ガッツリ固定されているため、身動きもままならない。

「邪魔だから取った」

 んー、と唸りながら眠りの世界。

 ゆかりは今一度布の山を見てみれば、いちばん上は真っ二つに切られたブラジャーの成れの果て。


「和樹さん! ブラを切ったらいけません!」

 これは今怒らねば、と常習犯を起こしにかかる。

「邪魔」

「邪魔じゃありません! 寝てる人の服を脱がすのもダメ!」

「邪魔だから要らない」

 これは話にならないと、ゆかりは脱出を試みる。が、無論、動けるはずがない。


「ぐぬぬぬ! 馬鹿力!」

「ねえ、ゆかり」

 胸元で話されれば、体に広がる音。

「夫婦なのに恥ずかしい?」

「あ、当たり前です!」



 ◇ ◇ ◇



 今でも初々しい妻に、和樹は笑みを溢す。

「身体の隅々まで見てるし、触ってるのに?」

 段々覚醒してきた彼は、優雅に指先でくすぐる。

「朝からそんなこと言ったらいけません!」

 赤くなる妻を見ながら、優雅な朝。と言っても、お日様はとうに高く登っている。


「朝ごはん、僕が作るよ」

「本当!?」

 美味しいものにはめっぽう弱い妻は、いとも簡単に食い付いた。


「朝ごはん食べて買い物に行こう。二人で家のことをやったら、お昼寝しよう」

 平穏な日々を望んでも良いだろう?

 ほんの一瞬かもしれない時間。


「いきましょう! そうと決まったら準備です!」

 ベッドから飛び降りる前に、彼女を捕まえて、耳元で囁いた。


「お昼寝するときは、この枕で」

 なんせ、僕だけの最高級枕。

 休日の贅沢を噛みしめさせて?


 枕、第二弾……で、いいのかな?


 私なりにおバカ全開にした結果、おっぱい枕を採用。

(残念ながら私はする側もされる側も試したことはないのですが・笑)


 これ、リアルにするなら年齢によってだいぶ感触変わるはずなんですけどさすがにそこまで書く気はないので、和樹さんの至福のひとときという一言で済ませちゃいます。


 まあ和樹さんならそんなこと無関係に

「はぁ……ゆかりさんのおっぱい枕サイコー」

 って思ってそうだけど。


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