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徒然とはいかない喫茶いしかわの日常  作者: 多部 好香


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40 とある応援し隊員の思い出話・Case4

Case4・工務店の事務員・女性


 イケメンは何を持っていても(さま)になる。


 それは知っている。


 たとえ、『xxコーポレーション』とどこぞの企業のロゴが入っていたって、ご当地キャラだのゆるキャラだのがプリントされていたって(少々のがっかりはあるかもしれないが)超絶ハイパーイケメンが持っているだけで付加価値が付いて、それがボールペンだろうと、ハンカチだろうと、素敵なアイテムに見えるに違いない。


 でも……と、私はたった今、角を曲がって来た超ド級イケメンを思わず振り返る。


 あれは……どう?

 いや、いくら何でも、どう?

 あり得るのかな? うーん……判断に苦しむな。


 彼は、おそらく180センチ超えだろう自分の身長よりも絶対に大きく、スリムな自分よりも確実に横幅と厚みのある、郊外の会員制大型倉庫店舗で売っている巨大なクマのぬいぐるみを抱えていた。

 絶対に吊るしじゃない、オーダーメイドだろう超高級ブランドスーツの肩に軽々担いで、それが日常であるかのように、なんなら犬の散歩をしているかのように、堂々と、悠々と、涼し気に歩み去って行く。


 それ、どっから持ってきた?

 買ってきたの?

 車に乗せて来たの?

 自分のクマなの?

 大体、どうするつもり?

 どこに持って行くのよ!?


 沢山の疑問符が頭の中を駆け巡り、足を止めて、彼の後ろ姿を追っていたのは私だけじゃない。

 すでに日が落ち、街灯と通り過ぎる車のライトに照らされた薄暗い舗道を行きかう人々は皆、道を譲ったり、クマを避けたりしながらも、通り過ぎるモデルのような美しい男性と、どでかいクマをぽかんと振り返っている。


 と、彼は通りに面している一軒の喫茶店の前で足を止めた。

 昔ながらの喫茶店だ。


 私も時々ランチしたり、お茶したりする喫茶店で、ありふれた店なのに、実はコーヒーの味はどこよりも良く、ホットサンドなんかヘビロテだし、ナポリタンは自分へのご褒美メニューだ。疲れきったときには甘酒が沁みる。

 基本、マスターと、20代前半(にしか見えない)やや垂れた大きな目の可愛らしい看板娘で店を回している。


 が、既に20時過ぎ。

 灯りは落ち、どう見ても閉店している。


 それでも、クマは……じゃなかった、そのモデル並みイケメンは、CLOSEの看板なんか見えないのか、ドアの把手を引っ張って、ガチャガチャ言わせている。


 だーかーらー、もう、閉店してるってば!


 ?

 あれ?

 あれれ?


 店内の灯りが小さく灯り、入り口のドアが開いた。

 中から出て来たのは、あの可愛らしい女の子だ。

 エプロン姿で、手には箒を持っているので、後片付けをしていたのだろう。


 入り口を塞ぐ巨大なクマを見て、大きな目をますます大きく見開き、何やらクマと……違った、イケメンさんとやり合っている。

 おそらくだが「何ですか、そのクマ!」と文句を言っているようだ。


 対するクマ……じゃない、モデル男はへこへこ頭を下げて言い訳しているようだ。

 まさか「草むらに捨てられていて、可哀そうで拾ってきちゃいました」みたいなこと言ってるんじゃないだろうな。


 2人は数回押し問答を繰り返し、とうとう最後には女の子が折れた。

 入り口を大きく開けると、クマに……じゃなくて、美男子に入るように促している。

 おそらく、足を止めて、2人の動向を見守っている(私のような)野次馬の好奇な視線に気づいたのだろう。

 クマは嬉々として入ろうとする。


 入ろうと……して……入ろうと……している……入ろうとしているのに……入れない!

 ブフッと噴き出してしまう。

 一緒に2人の動向を見守っていた数人の通行人も、こらえきれなかったのだろう、笑っている。


 喫茶店の入り口が狭すぎて(クマの頭がデカすぎるともいう)、クマが通り抜けられないのだ。

 看板娘は(おそらく)青くなって、手にしていた箒を放り出し、クマの頭をぎゅうぎゅう店内へ押し込もうとし、モデル男は半分笑いながら「おっかしいなあ~」みたいな、自分は全然悪くないみたいな態度で、クマの下半身を持っている。

 しかし、看板娘の努力はとうとう報われる。


 すぽん!


 ……なんて音はしなかったけれど、さすがはぬいぐるみだ。

 その巨大な頭を変形させて、入り口を通り抜けた。あとはやっぱり力業で、大きなお腹周りもなんとか宥めすかし(つまり変形させながら)クマは無事に入店したのだった。


 看板娘は、その後に逃げるように慌てて店に入り、ハイパーイケメンは彼女の後を、クスクス笑いながらついて入る。

 ドアが閉まった……かと思ったら、再びモデル男が登場し、看板娘が放り投げた箒を優雅な仕草で拾って、ようやく店内へ。それを最後に、クマ騒動は収束する。


 喫茶いしかわの入り口は、固く閉ざされたのだった。


 よし! 明日のランチはここにしよう!

 巨大なクマが店内にいるかも!


 もしいなかったら、その後の顛末(と、あのイケメンにまつわる諸々の疑問)を看板娘に聞いてみよう!


 次回、クマの住み処が決まる!?(笑)

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― 新着の感想 ―
[一言] なんのかんので目立っていた2人なんですねえ(笑)
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