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徒然とはいかない喫茶いしかわの日常  作者: 多部 好香


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39 朝チュンからの決意

 タイトル通り朝チュン話です。そういうお話が苦手な方はリターンしてくださいね。


 途中で一度、モブ氏視点に変わります。

 チュンチュン……いかにもな朝を演出するように雀の鳴く声が聞こえる。

 お味噌汁の香りがする。おかしいな。お味噌汁はまだ準備してないはずなのに。

 ゆかりは目をこすり、薄らと目を開く。


「ゆかりさん、お目覚めですか? おはようございます」

「……おあようごだいばす」

 喉がカラカラで、声が掠れていた。

 身を起こそうとすると、腰のだるさが響く。わずかに顔をしかめると、背中に手を添えて起こされ、これ飲んでくださいとぬるめの白湯を渡された。こくり、こくりと飲み干して、ふうと息をつくと湯呑みを取り上げられる。


「朝ごはん、食べませんか? 作りましたから」

「えっ!?」

「あ、冷蔵庫の中身、勝手に使わせてもらいました」

「あ、はい、遠慮なくどうぞ! むしろ朝ごはんの支度、全部お任せしちゃってすみません」

「いえ、昨夜は僕の我が儘でゆかりさんに無理をさせすぎてしまったので、このくらいは」

「そ、そう……ですか」

 ゆかりは全身を快感でドロドロに溶かされた感覚を思い出していた。和樹は和樹で自分に最大の快感をもたらすゆかりの可愛らしい反応のすべての記憶を反芻していた。

 お互いに気恥ずかしくなり、妙な沈黙がおりる。


 ちらりと座卓に目を向けると、焼き鮭、ほうれん草のおひたし、納豆、だし巻き卵、浅漬け、とうふとわかめの味噌汁、炊きたてごはんがところ狭しと並んでいた。

 これぞ! という和朝食のラインナップだ。

「わ、すごい」

「ほとんどゆかりさんが準備してくれていたものですから」

「いや、でも……」

 チラリと目を向けた先には食パン。もっと手軽にトーストで済ませることだってできたのだ。


「そ、そういえば! 朝ごはん、和樹さんは和食派なんですね」

「あ……はい、実はそうなんです」

「前に、“完璧な洋朝食作って優雅に召し上がってそうです”って言ったことありますけど、大ハズレですね。アハハハ……」

「そ、そうですね。アハハ……」

 また沈黙に包まれる。き、気まずい。


「……食べましょうか」

「そうですね」

「いただきます」

 タイミングぴったりに手を合わせて食べ始めた。


 朝食のあまりの美味しさにテンションが上がったゆかりが「やーん、これおいしーっ! しあわせーっ!」と連発したおかげで、妙な空気は緩まり、いつもの雰囲気に戻りつつあった。



 ゆかりが和樹に至れり尽くせりで労られること約2時間、玄関のチャイムが鳴った。

 なんだろう? 荷物が届く予定などはなかったはずだけど。



 ◇ ◇ ◇



 昨日の午後この部屋に引っ越して、今日は挨拶回りだ。

 隣と上下の部屋くらいでいいだろうか。


 お隣さんへのご挨拶……妙な緊張感がある。

 というのも昨夜、おそらく一晩中お楽しみだったのが聞こえていたからだ。

 隣、可愛い女の子だったら想像しちゃって気まずいかもな。


 ドキドキしながらチャイムを鳴らす。

「はーい」

 カチャリとドアを開けて出てきたのは、予想以上に可愛らしい女の子だった。わりと清純でおっとりした雰囲気の女の子。

 うわ、すっげえタイプなんだけど……この子が、昨夜の声の主、なんだよなぁ? まさかご都合主義万歳なエロい女子だったりして。

 ほんのり恥ずかしそうにしているのは、昨夜の声が聞かれてることに気付いたからか? まさか彼女も俺みたいなのがタイプだったりするのだろうか? まさかなぁ。


 俺は当たり障りなく引っ越しのご挨拶をしながら、頭の中をフル回転させていた。

 れ、連絡先くらい、聞いてもいいよな。お隣さんだもんな!


 彼女との距離を詰めようとしたその時、彼女の背後からのそりと人影が現れた。

 あ……元気な彼氏! くそ、俺よりタッパあるしイケメンだし。見た目すっげーチャラそうなんだけど……彼女素直そうだし、もしかして彼氏に騙されてたりしないよな?

「……なに? どうしたの?」

 勝手に値踏みするこちらをうろんな目で見る彼氏に、にこにこ説明する彼女。

「お隣さんが引っ越しのご挨拶に来られたんですよ」

「へえ……それはそれは。どうも、よろしくお願いします」

 なんだ? にこやかに挨拶されてるはずなのに殺気と寒気しか感じねえ! と、とにかくやべえ!


 自分の顔から血の気が引いていくのを感じる。

 精一杯の愛想笑いをして、そそくさとその場を立ち去った。



 ◇ ◇ ◇



 玄関のドアが閉まったところでゆかりの笑顔が崩れた。

 以前のお隣さんが遠方に引っ越したのは知っていたが、昨日のうちに入居している人がいるのは知らなかった。隣の部屋には誰もいないと思ってたのに……まさか昨夜の、聞かれてなかったわよね?

 もし聞かれていたらと思うと、どんどん湧き出るような顔の赤みと熱が引いていかない。

 目をぎゅっと瞑り、頬に手を当ててそこから熱を逃がそうと必死になってしまう。


 一方和樹は、眉間のシワを深くしていた。

 隣の住人が男だと? 聞いてないぞ! まさか昨夜のゆかりさんの可愛い声は聞かれていないだろうな。閨の声を聞いていいのは僕ひとりだ。他の男に聞かせたかもしれないと思うと、聞いたかもしれない男も許せないが、迂闊に聞かせてしまったかもしれない自分も許せなかった。腸が煮えくり返る。


 ゆかりさんの安全のためにも、僕の心の平穏のためにも、一日も早く僕の家で同棲を始めなければ!


 決意を新たに、拳を握りしめた。

 和樹さんの願望がミッションになった瞬間、でした。


 えー、かなり(色々な意味で)攻めたつもりですが、いかがでしたか。

 こんなことあったら、何がなんでも自分の元に引き込む気になるだろうなと。

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