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徒然とはいかない喫茶いしかわの日常  作者: 多部 好香


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36-2 同窓会での報告(中編)

「そ、それからね、私……」

「石川!」

 ゆかりが少し頬を染めて口を開いたそのとき、遮るように誰かが名を呼んだ。振り返ると武内が立っていた。後ろにはギャラリーがいて、みんなにやにやとしている。


 え、さっそく告白するの?

 私は友人と顔を見合わせた。

「あ、武内くん。相変わらずイケメンだねえ」

 何も知らないゆかりはのほほんと笑う。


 武内はゆかりの言葉に照れたように笑い返す。

「石川も、きれいになったな」

「あはは。褒めても何も出ないよ」

 真剣に、熱を持った目で見つめる武内に、ゆかりは冗談でも言われたみたいに笑う。

「いや、冗談じゃなくて。……本当に、きれいになった」

「へ? あ、ありがとう」

 ゆかりは照れるよりも先に戸惑っているようだった。


「俺、高校の時、石川のこと好きだったんだぜ。……いや、今でも、かな。だから石川。俺と……つきあってくれないか?」

 決め顔で武内は言った。その直後にギャラリーが沸き立つ。ヒューヒューと冷やかして、なんだか断りづらい雰囲気だった。


 私は心配になってゆかりを見ると、彼女は垂れ目がちな目をぱちぱちさせ驚いていたが、はっとして頭を下げた。

「ごめんなさい」

 一気にその場がしんと静まりかえった。そして武内を中心に動揺が広がる。


「え? え? あ、あのな、石川。これは冗談じゃないんだぜ?」

「え? うん。わかってるけど」

「おまえ恋人、いないんだろ?」

 武内の端から決めつけている言い方に、ゆかりは怒った風でもなくうなずく。

「だったら……」

「恋人はいないけど、夫がいるから」

 そう言って、ゆかりは左手を見せた。その薬指には、シルバーのリングがはめられている。

「私、結婚したんだ」

「ええええええええええええ!?」

 クラスメート全員が驚愕した。


 当たり前だ。フラグクラッシャー石川(あだ名)の容赦ないフラグクラッシュぶりは有名だったからだ。

「なに!? あんた結婚したの!? ていうかできたの!? 結婚!?」

「相手はどんな人!?」

「恋愛結婚!? お見合い結婚!? ああもう、どっちにしろ詳しくよろしく!」

 私たち以外の女子達もゆかりに詰め寄る。武内が呆然と立ち尽くしているがそれどころではない。


「あ、う、うん。一応恋愛結婚だよ」

 へへへーと笑うゆかりは幸せそうだった。

 一応というのが気になったが、私もゆかりに詰め寄る。

「どんな人!?」

「優しい人だよ。あと、かっこよくて私にはもったいないくらい」

「イケメンなんだ! 写真ある?」

「ごめん、彼、写真が嫌いなんだ」

 イケメンなのに写真嫌いなのか。イケメンはみんなナルシストで写真大好きなものだと思っていた私は意外に思う。

「どっちから告白したの?」

 ゆかりを取り囲む一人がわくわくしたように聞いた。


 これまでのことを考えるとたぶんゆかりからなんだろうな、と思いつつも彼女を見ると、頬を染めて手をもじもじさせながら答えてくれた。

「えっと、彼から」

「え」

 意外すぎる答えに、私たちは一瞬固まる。

「え、え、え、ちなみにどんな感じで?」

「なんでみんなそんなに驚いてるの? えっと、好きですって」

 私たちの驚きに戸惑いながら、ゆかりは思い出すように天井を見上げた。

 シンプルな言葉だったが、なるほど、直球じゃないとこの子には伝わらないものね、と私たちは納得する。


「それで、ゆかりはなんて答えたの?」

「えーっと、あんまり覚えていないんだけど炎上するからやめてください、だったかなぁ?」

「は?」

 炎上って何だ。意味がわからない。

「ど、どういう意味?」

「え? ああ。彼、私が働いている喫茶店の常連さんだったんだけど、イケメンさんだから女性客の皆さんにすごく人気があってね。彼と話すだけでネットで炎上したことがあって」

「あ、そ、そう。……あれ? ということはゆかり、一回その告白を断ったの?」

「あー……私、そのとき冗談だと思っちゃって」

「いや、なんでだよ!」

 私たちはいっせいにツッコんだ。高校時代から一切変わっていないことが判明して、脱力する。


「そ、それでどうなったの?」

 一人が持ち直して、続きを促す。

「え? あ、うん。そしたら何でかその日からお店に来るたびに好きですって言われるようになっちゃって」

(やけくそになっちゃったのかな)

(たぶんそうだよ)

 ひそひそとささやく声が聞こえる。


「ゆかりはそれでどうしたの。今結婚してるんだから、受けたんだよね?」

「いやー、それも全部冗談だと思ってたから……怒ったりその冗談に乗ったり」

「好きでもないやつに冗談で告白するやつなんかいないからね!?」

「う、うん。あとで彼にもそう言われた……。で、でも悪いのは私だけじゃないよ? 冗談だと思ってる私に訂正してこなかったんだから!」

「え、そうなの? なんで?」

「え。……え、っと……」

 急に口が重くなったゆかりに、首をかしげる。彼女は考えるようにしばらく視線をさまよわせた。


「彼ね、最初に好きですって言ってきた頃は、長期海外出張が決まってたから、そのときはつきあうつもりはなかったみたい」

「えー、そうなの? 気持ちを伝えるだけ?」

「う、うん」

「でも結果的には結婚してるよね?」

「うん。長期出張が終わって、こっちに戻ってきたの。改めて喫茶店の常連さんになって、よくコーヒーを飲みに来てくれたんだ」

 ほうほう。

 私たちはすっかり同窓会のことは忘れてゆかりの馴れ初めに聞き入っている。


「それでそれで? 告白してくれたんでしょ?」

「うん、好きですって」

「それであんたはどう返したのよ」

「懐かしいですねって」

「は?」

「よくそうやって冗談言ってましたよねーって」

「だから冗談で告白なんかしないっつーの!!」

 私たちはゆかりに再びツッコんだ。


 なんだろう。全然関係が前に進んでない。なんで結婚できたんだ、この子。ていうか心が折れない旦那のほうもすごい。

「そ、それで?」

 なんか続きを促すのも疲れてきた。

 だが、この状態でどうやって結婚までいったのか気になる。

「彼が来るたび告白されて」

「うん」

「私は冗談だと思って受け流して」

「……うん」

「そしたらある日、また告白されていつものように受け流してたんだけど……私の気持ちを聞きたいって」

「え? やっとそんなこと聞いてきたの?」

 これは旦那のほうも問題があるのでは。そう思う私たちに、ゆかりが慌ててフォローを入れる。


「彼の仕事忙しくて。何でか告白すると仕事に行かなきゃならなくなることがよくあって」

 そういえば、高校のときにゆかりに思いを寄せていた男子も、間が悪かったような。

 これもフラグクラッシュ的なものなのだろうか。それともゆかりに何か憑いてるんだろうか。


「で? それも冗談と思ったんでしょ?」

「え? なんでわかるの?」

 ゆかりは驚き、私たちはため息をついた。

「そりゃ、この話の流れからしたらね。ほら、続き続き」

「……私も好きですよ、って軽く流したら……じゃあ結婚してくださいって」

「おお!?」

「つきあっていない状態でプロポーズだと!?」

「いや、もうここまで来たらこれしかないんじゃない?」

「だね。さすがにプロポーズを冗談だとは思わないでしょ」


 そんなことを話す私たちの前で、ゆかりは気まずそうに目を泳がせた。

「……あんた、まさか」

「………………」

 ゆかりの沈黙は肯定だった。


「あんたの旦那、すごいわ。私だったらもう次の女にいってるよ……」

「だ、だって、すごいかっこいい人なんだよ? 何でもそつなくこなせちゃうんだよ? 絶世の美女でも落とせそうな人なんだよ? そんな人が私なんか選ぶわけないって思って……」

「どんだけイケメンなのよ、あんたの旦那。でもフィルターかかってない? そんな完璧な人、いる?」

「確かにねぇ」


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