361 五つのお約束
それは、深夜のお約束。
一つ、コンビニに立ち寄ること
二つ、飲み物を買ってレジ袋に入れてもらうこと
三つ、家まで何度か後ろを振り返りながら帰ること
四つ、道の端を歩き、肩掛けの荷物は車道側に持たない
五つ、歩きスマホや音楽プレイヤーは使用しない
一つ、コンビニには防犯カメラが設置されています。貴女が深夜何時に来店し帰っていったのか、記録が残ります。また、不審人物が貴女の後をつけていた場合はその人物も記録に残るでしょう。
二つ、飲み物をレジ袋に入れて振り回すだけで武器になります。いざというとき、当たりどころが良ければ(いや悪ければ?)人を撲殺することも可能です。深夜に人を襲うような人間に容赦は要りません。正当防衛です。殺す気でいきなさい。
三つ、後ろからつけてくる人物には何度か振り返ることで牽制になります。相手が警戒しているところに、無理に襲いかかることはリスクが高いのです。よほど事情がある犯罪者でない限り躊躇するため、犯罪回避の可能性をアップできます。
四つ、ひったくり対策としてのお約束です。
できれば利き手にレジ袋、逆の手にバッグを持つと良いでしょう。殴るなら利き手の方が威力があります。最悪はバッグを振り回して殴り付けることも可能です。
力の限りで抵抗し、相手が怯んだ隙を見て全力で逃げましょう。大声を上げるのも有効です。
五つ、歩きスマホや通話、音楽プレイヤーはついつい見入ったり聞き入ったりしてしまうため、周囲への注意力が散漫になります。
不安だったり、寂しくても家につくまで我慢しましょう。
「以上の五つ。約束できますか?」
「はぁい。あとは帰宅したら、必ず和樹さんに帰宅確認の連絡を入れる。ですね」
「はい、良くできました。返事はできなくても確認はしますから、必ず連絡すること」
いいですね、と再度の念を押す。
和樹は職務上どうしたって常にゆかりといられるわけではない。彼女の帰りが遅い日、いつでも迎えに行けるわけでもない。
彼女が深夜に帰宅することもあるだろう。
その時に危険を回避する方法をひとつでも多く知っておいてほしい。
「深夜には出歩かないのが一番なんですよ」
「分かってますよぉ! もう、心配性なんだから……タクシーがあれば使いますから、心配要らないですよ!」
今夜の女子会帰り、日付が変わってから徒歩で帰宅したくせに何をいうのやら、と思いながらジト目でゆかりを見つめる。
「ほんと、気をつけて」
「……はい。気を付けますね」
過保護というなかれ。世の中は優しさと善意だけでできているわけではないのだ。
ため息を一つ。
しつこいくらいに再三の念を押され、和樹の腕でぎゅうぎゅうと抱き締められたら、ゆかりはあきらめて抱き枕に徹することにした。
この五つ、ひったくりその他の警戒策として挙げられるものをざっと並べたものです。
まあ最近は有料になってしまったレジ袋のところはちょっと、各々でアレンジが必要かもしれませんけれど。
私個人としては、女性向けのカバンには蓋とかファスナーがついてるものがとても少ないことに閉口しています。
財布とか奥のほうに入れたとしても上がパッカーンな鞄があまりにも多くて。
中心のところだけボタンで留めるとか、そういう鞄はそこそこありましたけれど、結局パッカーン側だし。
パッと見の印象が良くても自分が使うならと考えると選べない鞄が多かったんですよね。あくまでも私基準ですが。
通学・通勤に満員電車を利用するしかなかったので、なおさらです。
身体の向きを変えるのも大変なのに中身をガサゴソ漁られても何もできないとか、そもそも乗り降りの際の人の流れで鞄があらぬ所にいきそうになるとか、そんな状態が当たり前だったので、怖くて怖くてファスナーで閉じることすらできない鞄は選べませんでした。
そういう感覚の方は少なかったようなので、気にする方が……なのかもしれませんけれど。




