1-4 聞こえなくても(中編3)
イケメンアイドルグループのライブ円盤上映会か。それはちょっと面白そう。
その場にいた常連さんたちもたいそう乗り気で、あれよと言う間に日程が決まり参加者が増えていく。
せっかくだからライブ会場らしく楽しみたい女子中学生ふたりは、ペンライトやサイリウムなどをいくつも持ち込むつもりらしい。
えっと、上映会をするならいくつか必要なものあるよね。プレーヤーとか。ペンライトを使うなら部屋は暗くするだろうから、町内会でこどもたちを集めてヒーローアニメ映画を見せるときに使ってたスクリーンとかプロジェクターとか借りたほうがいいのかしら。
うーん。私もマスターも配線とか苦手だし、あとで和樹さんに相談してみようかな。
◇ ◇ ◇
明日は午後から鑑賞会の日。
でもその前に。わらしくんから言付けを受け取った隣町の神社にいなり寿司の差し入れをしなくては。
ということで、おだしや醤油の香りをぷんぷんと家中に撒き散らしながら、湯通しした油揚げの味付けを終えたところだ。
中身は、お手伝いを名乗り出た子供たちが準備してくれている。甘めの酢飯にたっぷり胡麻をふったもの。ひじきと空豆のまぜごはん。ゆかりと大葉を刻んだものとじゃこのまぜごはん。山椒のきいたしぐれ煮のまぜごはん。具材の偏りがないように丁寧にしゃもじを動かしている。
元々はこんなに大量のいなり寿司を作る予定はなかったのだが、ちょっとぼんやりしていて、自宅用なのに喫茶店の仕入れの感覚でネットスーパーの注文数を間違えてしまったのだ。
こんなに大量に作るのに同じ味ばかりではつまらないし、せっかくだから明日の鑑賞会に持っていけるようにと中身を数種類考えた。
油揚げもご飯も準備できたので、子供たちと一緒に中身を油揚げで包んでいく。黙々と作業を続けると、いなり寿司が作業台いっぱいになった。
小さめの朱塗りの重箱にいなり寿司を詰める。
「よし! これは明日、隣町の神社に届けるぶん。ふたりとも、よろしくね」
「はーい」
子供たちは楽しそうに返事をしながら黒い大きな五段重ねのお重を持ってきて、一段一段に中身の違ういなり寿司を詰めていった。お重に入らなかったぶんは、我が家の夕ごはんである。
ちなみに最後の一段には筑前煮が入る予定。明日の朝ごはんにするので、野菜などの下拵えは済んでいるが仕上げは明日の朝だ。和樹さんのごはんが進むおかずなので、鑑賞会の準備を手伝ってくれる和樹さんへのお礼の気持ちもかねて。
重箱とダイニングテーブルの準備を子供たちに任せて、夕ごはんの仕上げだ。今日食べてしまうつもりの作りおきおかずも多いので、味噌汁だけ。いつもはわりと具だくさんなのだが、今日はシンプルに。白味噌を溶いて、小口切りの青ネギを浮かべるだけにする。
「ごはんの用意できたけど、お父さんまだ帰ってこないね」
ちらりと時計を確認する。
「今朝聞いた予定だと、あと30分くらいかかるかしら。あまり遅くまで待って冷めちゃうのも困るし、先に食べちゃいましょ!」
「そうだね。あっ、待って待って!」
真弓ちゃんがパタパタと慌てて持ってきたのはスマホだった。おかずがずらりと並ぶ食卓をパシャリと1枚。
「“早く帰ってこないと全部食べちゃうゾ♪”と。これでよし」
「くくくっ。お父さんの大好物は冷蔵庫にとってあるくせに」
「うふふ。早く帰ってきてくれるといいね。さ、食べましょ」
「いただきます」
お父さんは、予定から大幅に遅刻(?)して、こどもたちの就寝時間ギリギリに帰ってきた。
間に合った、顔が見られたと息をつきながら喜びを噛み締めるお父さんが子供たちを抱きしめて顔を寄せると「お父さんやだ! ヒゲ痛い!」と全力で逃げられてへこんでいたのがちょっと可愛くて笑ってしまった。
私は渋めのお茶を飲みながら晩ごはんと晩酌に付き合い、明日の準備の打ち合わせを軽くした。