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徒然とはいかない喫茶いしかわの日常  作者: 多部 好香


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35 まいごに笑顔を

「ゆかり」

 お客さまがひけたすきにとダスターをかけていると、下の方から声がする。

 予想通りわらしくんだった。目線を合わせて屈む。

「あら、こんにちは、わらしくん。今日はどうしたの?」

「あのね、寒いところ、ある?」

「……?」

 意味がよくわからず、首を傾げる。

「こっち」

 手を引かれ、テラス席に出る。


 テラス席の中でも木陰になっているところに、白い着物でぐったりした女の子と、それを心配そうに見ている男の子が座っていた。

「まあ!」

「ゆきんこ、暑いところ苦手」

 ゆきんこ? ……雪ん子ね! 状況はよくわからないが、涼しいところに連れていけばいいことだけはわかった。

「畳の部屋に連れていきましょう。クーラー少し強くするから。雪ん子ちゃんは、自分で歩ける?」

「よい、わしが運ぶ」

 一緒にいた男の子が雪ん子ちゃんを俵のように抱えた。


 慌てて店の中に入り、畳の部屋に案内する。部屋を閉めきってクーラーを少し強くした。

「みんな、ここにいてね」

 店に戻り、お冷やを入れたグラスを3つと、氷だけを入れた大きめのグラス1つ、それから手ぬぐいを巻いた保冷剤をトレイに乗せて彼らのところに運ぶ。

「はい、どうぞ。これで少しは涼めると思うわ」

 入り口のカウベルの音が聞こえた。

「あっ、お店に戻らなきゃ。お話は後で聞かせてね。いらっしゃいませ~!」

 声をかけながら、慌てて店に戻った。


 30分ほどすると、町内会の会合からマスターが戻ってきた。

 軽く事情を話し、防寒対策にカーディガンを羽織ってから彼らの元に戻る。

 雪ん子ちゃんは、先ほどよりは元気そうだ。

「回復したみたいで良かったわ。私はゆかり。石川ゆかり。あなたたちは?」

「雪ん子でいい」

「ヒルコ」

「雪ん子ちゃんと、ヒルコくんね。わらしくんも、何か食べたいものとか、ある?」

「ふむ。暑いからな、冷たいものがよいと思うぞ」

 ヒルコくんの意見に、わらしくんもこくこくと首を縦に振る。

「そうね。じゃあ、アイスクリームを持ってくるわ。少し待ってて」


 業務用バニラアイスを、小鉢に入れて、木のスプーンを添えて。商品には添えるミントの葉は、今回はつけない。

 それぞれの前に小鉢を置く。

 「さあ召し上がれ」

 皆、美味しそうに食べてくれた。良かった。

「他に私がしなきゃいけないことや、欲しいものができたら言ってね」

 わらしくんに一言伝えてお店に戻る。


 後から聞いたところによると、隣町のお稲荷様のところに遊びに行こうとして迷子になった雪ん子ちゃんをヒルコくんが発見し、どうしようかと頭を悩ませていたところにわらしくんが通りがかり、ここに連れてきたそうだ。


「じゃあ、お稲荷様のお迎えがくるのかしら?」

「うん」

「だけど暗くなってから」

「わかった。それまでこの部屋使ってね」


「ゆかり、あのね」

 わらしくんが、手を引いてくる。

「なあに?」

「あの、きいろくてまるいの食べてみたい」

「きいろくてまるいの? もしかして、これ?」

 近くに置いてあったメニュー表をひっぱり、オムライスを指す。

「うん!」

「わかった。作ってくるから、少し待っててね。あ、ふたりはオムライス食べる?」

「ふむ。人間の食べ物も食べてみたい」

「わたしも」

 にこりと笑い、かしこまりました、と告げて店に戻った。


 ケチャップライスが仕上がったタイミングで子供たちが店に入ってきた。

「お母さんただいま!」

「ただいまぁ……外あっついよぉ」

「お帰りなさい、ふたりとも」

 暑さでほっぺが真っ赤に火照ったふたりに麦茶を渡して水分補給させる。


 ふたりが麦茶を飲み干すまでの間に、卵を焼き上げ、ケチャップライスに乗せる。

「ふたりにお手伝いをお願いしてもいいかしら?」

「うん、なに?」

 子供が使える小さめのおぼんに、小さめに作ったオムライスひとつとスプーンとケチャップを乗せて真弓に渡す。進には小さめオムライスがふたつ乗ったおぼんを渡す。声を潜めて伝える。

「これを座敷に。わらしくんとお友達がいるの」

 ぱちぱちと瞬きして、笑顔で「わかった!」と返してきた。

「よろしくね」

 ゆかりも笑顔で送り出した。



 ◇ ◇ ◇



「おまちどうさまです。オムライスです」

 座敷に持っていくと、わらしくんと、男の子と女の子。

 わらしくんに二人を紹介されながら、三人の前にオムライスとスプーンを置く。

 さっそくスプーンを掴んで食べようとする3人を制する。

「ちょっと待って! 仕上げのケチャップがまだなの」

「けちゃっぷ?」

「そう。これをこうして……」

 不思議そうな女の子のオムライスの真ん中にハートを書くと、女の子はぱちくりと大きく瞬いた。


「ふふっ。こうやって、好きな絵や文字を書くんだよ」

「ふむ、なるほど。では雪ん子、お前、わしの名前を書くがよい」

「僕の名前も」

 両側からアプローチされてる雪ん子ちゃん、モテモテですねぇ。


 おろおろしている雪ん子ちゃんにケチャップを渡し、どうするのか見守っていると。

「わかった。名前書く」

 ケチャップを動かして描いてゆく。


 うん。確かに名前は書いている。ちゃんと、ふたりとも。

 でもね。

 私が書いたハートマークの左側に「ヒルコ」右側に「わらし」って……なんか違うものが出来上がってるんだけど。

 オムライスは三人の口に合ったらしく、ご機嫌に食べた感想を話しながら食べている。

 名前書かれたふたりが満更でもなさそうだから、いいのかな、これで。意味わかってないんだろうな。

 私は思考を放棄した。



 夜……と言っても日が暮れて早い時分に、お稲荷様が三人を迎えに来た。

 こちらお土産にどうぞとお母さんが包みを渡す。

 お稲荷様には好物のいなり寿司を、三人には葛まんじゅうをひとつずつ渡していた。

 こどもたちは嬉しそうにそわそわして、お互いの顔を見てはにっこりしている。

 お稲荷様は、「うむ」と満足そうににんまりとして「では、さらばじゃ」と言い残して去っていった。


 ヒルコくんと雪ん子ちゃんも、そのうちまた会えるかな。会えるといいな。

 久々にわらしくん登場です。

 いしかわさんのところはマラソンの給水ポイント扱いになってる気がする(笑)


 次回から、しばらく過去話。

 ゆかりさんと和樹さんの結婚にまつわる顛末を楽しんでいただこうかなと。

 2~3話×3セット程度でおさめるつもりです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おー、わらしくんだ! 彼は彼で、地域交流の担い手、てことですね! [気になる点] わらしくん界隈で、喫茶いしかわはどんな位置付けなんでしょうね?
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