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徒然とはいかない喫茶いしかわの日常  作者: 多部 好香


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338 ミイラになったミイラ取り

「あれ? 石川さんは?」

「あっ、長田さん! お疲れさまです!」

「石川さんなら奥様にって」

「給湯室でチョコ作ってます!」

「……は?」

「自宅に帰ったら間に合わないからって、買いに行かされました! 百貨店の一枚三千円のやつ! 三枚も! 最近のチョコレート事情怖ーい!」

「え」

「俺は生クリームとか、卵とか粉砂糖とか」

「……何やってるんだあの人」


 ぴちょん


 カッシャカッシャカッシャ

 ペロっ

 カッシャカッシャカッシャ

 ペロっ

 カッシャカッシャカッシャカッシャ


「石川さん」

「! ……なんだ、長田か」

「石川さん、今何しました?」

「え? 別に? なにもー?」

「部下が購入した材料を考慮すると、今お作りのトリュフは五十個は作れるはずですよね」

「…………」

「なのに、ボウルには精々十個分の量。生クリームも残っていない。まさか石川さんともあろう方が失敗したとも考えにくい」

「何が言いたい? 長田」

「四十個分のチョコレートベースは一体何処に行ったんでしょうね?」

「……感のいい奴は嫌いだよ」


「……………………石川さん」

「…………お前はチョコレート刑事かよ」


「スプーンを舐めてはボウルに舐めてはボウルに入れましたね! この魔術師め! そういう混入系の魔術は駄目だって言ったでしょ!?」

「うるせー! ただの味見だ! これ必要悪だから!」

「何が『これ必要悪だから(キリッ)』だ! 十個作るのに四十口分味見とか、アンタ馬鹿じゃないですか!? 目的が明らかに異物混入なのがバレバレです! メッ! 駄目! 捨てなさい!」

 なんで、過去にされて嫌なことをしようとする! 合法なふりしても駄目! 確信犯でしょ!

「ちがいますぅ~味見ですぅ! ゆかりさんに美味しい物食べてほしかっただけで、スプーンはたまたまですぅ~」

「こっの…! HACCPを素で暗記してそうな顔して!」


 なおHACCPとは 食品を製造する際に工程上の危害を起こす要因を分析し、それを最も効率よく管理できる部分を連続的に管理して安全を確保する管理手法である。 byウィキ


「とにかく偶然だし。わざとじゃないし! いやぁ夢中で作ってたからぜーんぜん気が付かなかった」

「あくまで白を切ると?」

「はぁ? 何お前、僕を疑うのか?」

 上司ぞ? われ上司ぞ? 白も何も、お前の勘違いだろ? てか、なんで一目見てトリュフの分量言い当ててるんだ? お前はチョコレート刑事かよ。

 長田をねめつけながら圧をかけてくる和樹。


「わかりました」

 長田は素早くボウルからベースを抜き、一つトリュフを作ると粉砂糖をふぁさ! とまぶし……叫んだ。

「乾さーん! その辺うろついてる乾さーん! トリュフ! トリュフたべませんかぁー!? 一枚三千円の板チョコ使ったトリュフですよーぉ! お酒とか色々(自主規制)たっぷり入ったトリュフですよぉー!」

「てめっ! なぁがぁたああぁぁぁああぁ!」


 一枚三千円!? 凄いな! たべる! いまいくからー!

 遠くからそんな声が聞こえる。


「ちょっ、マジくんな! やめて! 長田さんお願い! まじやめて!」

「知りませんよ。偶然なんでしょ? ならいいじゃないですか」

「ほんっと。やめて。ごめんなさい。出来心なんです。あ、乾とかマジ無理。乾きもっ、きもぢわるいぃぃ(以下自主規制)」

「気持ち悪いのはアンタだ!」


 給湯室のやりとりを廊下で聞いていたモ部下たちがひそひそとやりとりする。

「なぁ、なんでその辺に乾さんがうろついてんだ?」

「さぁ?」

「長田さんと居酒屋行くんだって。美味しい梅酒飲むんだってさ」

「チョコレート四十口には突っ込まないのが長田さんの優しさだよなぁ」


 チョコレート刑事・長田の活躍により、魔術師石川和樹は一応改心した!

 一時的にかもしれないが改心したのだ! 一応!


 たぶん長田さんの戦いはまだまだ終わらない。


 いつも通り長田さんが苦労してますが、私なりのギャグ全振り。

 あちこちツッコミどころしかないような気もしますが、たまにはこういうのもいいかなと。


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