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徒然とはいかない喫茶いしかわの日常  作者: 多部 好香


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276 今日の温泉の素は

 新婚さんの頃のやりとり。ちょっと色っぽい話も出るので、苦手な方は自衛してくださいね。

「ゆかりさん、今日は何の日だか知っていますか?」

 夕飯が終わり、リビングでテレビを見ていたゆかりの元に和樹が満面の笑みを携えてやってきた。

「今日は……何の日でしょう? 世間は先日のいい夫婦の日に便乗して結婚ラッシュですけれど」

 テレビをつければ芸能人の誰それが結婚だ! 入籍だ! というおめでたいニュースばかりだ。ゆかりはその日、仕事で忙しかった和樹とは電話越しに日々の感謝を伝えることしかできなかったためちょっぴり寂しかったが、ようやく昨日帰って来た和樹に真っ先に花束を渡され、わたし世界一幸せな奥さんだなぁなんて思っていた。


「十一月二十六日……いい……にろ……」

「にじゃなくて?」

「つー……ふたつ……ふ……ろ……? あー!」

「わかりましたか?」

「いい風呂の日ですね!」

 ゆかりがポンと手を叩くのと同時に、和樹は後ろ手に隠していた洗面器を目の前に置いた。

「ふふふ、ゆかりさんが喜びそうだと思って温泉のもとを買ってきました」

 洗面器の中にはカラフルな温泉のもとの入ったパッケージがいくつも入っていた。その数ざっと見繕って一ダースほど。

「わぁ~っ! たくさんですねぇ」

「ひのきの湯、バラの湯……他にもいろいろあるけどどれがいい?」

「えーっ、どうしましょう! 迷うけど美容に良さそうな桃エキス入りの乳白の湯、かな?」

「じゃあそれで」


 二人はお風呂場に向かうと、すでに湯の張っている浴槽に温泉のもとを入れた。水を吸い込んだ固形物はすぐに発泡し、湯はみるみるうちに白くなっていく。

「香りもすごくいい……極楽ですね」

「ゆかりさん、まだ入ってない」

「えへへ。和樹さんお先にどうぞ。お着替え準備しておきますね」

 ゆかりが和樹の寝巻きを取りに踵を返したのを和樹はすぐに静止した。

「ストップゆかりさん、着替えは洗面所の棚に置いてる分を使えばいいから。それよりも……」

「それよりも?」

「僕が一人でのこのこ風呂に入ると思います? 当然、ゆかりさんも一緒に入るんですよ」


 ◇ ◇ ◇


 それからあれよあれよと言う間に衣類を脱がされ、気付けばゆかりは和樹と肩を並べて湯船に浸かっていた。一般家庭より大きめの浴槽だが、二人で入るには狭く距離も近い。乳白色のお湯が素肌を隠してくれているものの、一緒にお風呂は照れるなとゆかりは顔を赤らめた。和樹はといえばゆかりの体を引き寄せ満足そうに笑みを浮かべている。

「きゃん! お腹触っちゃダメです!」

「何で? こんなにすべすべでツルツルなのに」

 ゆかりを足の上に乗せ、背中から抱き締めるように抱え込む。和樹にとっては至福の時だ。

「今年は食欲の秋が充実しすぎてたから、ちょっぴりぽよぽよになっちゃったんですよぉ……恥ずかしい」

 そう言われてゆかりの腹を再び探ると確かに肉付きがよくなった気がしなくもない。しかしそんなのは些細な問題だ。

「僕は……ぽっちゃりなゆかりさんも好きだけどな」

「ええ! 私は嫌ですよ……いつまでも細いゆかりのままでいたい……!」

「んーじゃあ良いダイエット方法を教えてあげましょうか?」

「本当ですか!?」

 ゆかりはキラキラした目で和樹を見上げた。和樹の伝授してくれるダイエット方法だ。期待せずにはいられない。


「それはね、ゆかりさん……」

「……それは?」

 ゆかりがごくりと唾を飲み込む音が浴室に響く。和樹は振り向いているゆかりの額に和樹はそっと口づけた。そして耳元でそっと囁く。

「……ベッドの中で教えてあげる」

 それは二人が想いを通わせる時にしか出さない心地よいテノールボイス。思い出されるシチュエーションはただ一つだ。

「も、もしかして……」

「実際いい運動になるんですよ。ついでに励みましょう」

 ちゃっかり爆弾発言をされた気がするし、何だか体も熱い。きっとその『運動』の後にはたくさん汗をかいて再びお風呂に入ることになるんだろう。翌朝使う温泉のもとを何にしようかと現実逃避気味なことを考えながら、ゆかりは風呂から上がったあとのことに思いを馳せるのだった。


 ◇ ◇ ◇


「ん……」

 ゆかりは気だるい身体を動かし、手を伸ばして掴んだ服を上から羽織る。

 掴んだ服は先程まで和樹が着ていたTシャツだった。普段和樹の肩にあるはずの場所はゆかりの二の腕真ん中あたりまで落ちている。やや短いとはいえ太ももの半分くらいまであって大事なところは隠れるし、怒られることはないだろう(むしろ喜ばれそうだ)からいいか、とベッドに腰掛けてふう、と一息。

 和樹が部屋に戻ってきた。下だけ穿いていて、水のペットボトルとコップを手にしている。コップに半分ほど水を注ぎ、ペットボトルをサイドテーブルに置くと、コップのひとつをゆかりに渡す。

「はい」

「ありがとうございます」

 自分の発した声が少し掠れていて、やや表情が渋くなるものの、そのまま両手でコップを持ち、一口ずつ水を飲んだ。和樹は喉を鳴らしながら一気に飲んでいる。ゆかりが飲み終えたコップは和樹がサイドテーブルに戻してくれた。その様子をぼーっと見ていたゆかりが、ポツリ。

「和樹さんって……」

「ん? なに?」

「和樹さんって、実はけっこうエッチですよね」

「くすっ。どうしたのいきなり」

 和樹はベッドに腰掛けるゆかりの足元にドカリと座り込む。


「……わたしね、和樹さんは女の子に興味がないと思ってたんです」

「ふうん、どうして?」

 俯き加減のゆかりを優しく見上げる和樹。

「うちの店でね、和樹さん、いろんな女性にアプローチされてたじゃないですか。女子高生とかお色気お姉さんとか有閑マダムとか。どんな女の人が来ても全然興味ない感じで態度が変わらなかったから。だから、和樹さんとその……こういう関係になって、けっこう求められてることに驚いたといいますか……ぅぅ」

 恥ずかしそうに語るゆかりが可愛いなぁと表情を緩めながら、和樹は右手をゆかりの膝の裏から回し入れ、両足を抱え込む。ゆかりが愛おしくてたまらないことを伝えるかのように膝に頬を寄せた。

「はは。そりゃあ、僕だって健康な成人男性ですから。好きな相手には触れたいです。好きな女の子の身体にはすごく興味があります」

「うう……もっとナイスバディなお姉さんとかいるじゃないですか。私じゃ満足させられないというか、物足りなくないですか?」

「まさか! 物足りないどころか、もっともっと欲しくなります。ゆかりさんのあんな表情や、こんな声や、そんな反応も、知っているのは僕だけだと思うとたまらない。無上の喜びですよ。でも、もっと見たい、触れたい、聞きたい、知りたいと思う」

 和樹は抱え込むゆかりの膝を指先でついっと撫でる。ぴくりと反応するのが可愛くて、また表情が緩む。


「まあ、ゆかりさんが可愛すぎてムラムラきて、抱きたくてたまらなくなるのも事実です。だから性欲処理のため、というのも少なからずあるのは否定しません。でも僕はね、ゆかりさんが僕と肌を重ねて気持ちよさそうに、嬉しそうに、幸せそうにしているのを見るのが一番満足できるんです」

「でも、だからって、あんな……あんな……あんなにじっくりいろいろしなくても……」

 ふしゅうぅと湯気が立ちそうなほど赤くなっているゆかりを見ていると、和樹はちょっとだけ意地悪を言って困らせたくなってしまう。

「ん? 何? それってもしかして、してほしいってリクエストされてるのかな?」

「えぇ? そんなこと言ってないです! ひゃん! ぁ……や……」


 あっという間に和樹の手つきに翻弄されるゆかりにさらなる快感をもたらすべく、和樹は愛の∞番勝負を仕掛けるのであった。


 いい風呂の日……は半月も先の話ですが、立冬は過ぎてるから大幅フライングでもいいかなぁと。

 寒くなると湯船のありがたみが沁みますよね。


 和樹さんに下心がないわけがない! というお話でございました。

 愛の∞番勝負てなんやねん(笑)


 和樹さんが取りそろえた入浴剤はすべて、ゆかりさんが目を輝かせて選んでくれそうな美容系の効能がメインにくるラインナップです。

 逆にゆかりさんが取りそろえるなら、簡単に旅行気分を味わえる有名温泉地シリーズとか疲れを取り血行を良くするとか肩こりをほぐすみたいな効能を前面に押し出した入浴剤にするでしょうね。


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