243 食いしん坊調査報告書 いちごの山チョコ
△月▲日 雨
今日は朝からやけにゆかりさんの視線を感じる。熱視線と言えばロマンスでも始まりそうなものだが、そんな甘い予感なんて欠片も感じさせない凝視っぷりだ。
客足が途絶えた夕方、ようやくその理由は判明した。他ならぬゆかりさんの自供によって。
「今日の和樹さんを見てて何かを思い出すなぁって思ってたんですけど、やっとわかりました! いちごの山チョコ!」
もはや彼女と話していて笑顔が固まるのは日常茶飯事となっていた。いつもながら、その発想力にはある種の才能を感じなくもない。
ゴフッという音を横目で確認すると、たまたま一人で来ていた飛鳥ちゃんが盛大にむせていた。
「……いや、僕そこまで黒くないですよね?」
「大事なのは濃度じゃなく色の組み合わせですよ!」
その主張にうなずけるわけではないけれど、たしかに今日はピンク色のシャツを着ている。その上に黒い喫茶いしかわのエプロンを着けているのも、いちごの山チョコに見えた一因なんだろうか。
「さすがにこの年でピンクは似合いませんでしたか」
「いやいや、似合ってますよ! そりゃもう、びっくりするくらい似合ってます。ピンクの似合う男性選手権とかあったら余裕で優勝できますね」
「はぁ、ありがとうございます」
ピンクの似合う男性選手権ってなんだ。ゆかりさん的には褒めているんだろうけれど、いまいち嬉しくなくて笑顔が引きつりそうになった。容姿を褒められることには慣れているので、逆に珍しい経験だ。
口を押さえてうつむき、肩を震わせている飛鳥ちゃんに水を注ぎに行く。耳元で「楽しそうだね」と囁くと、ピタッと肩の震えが止まった。店内が寒くて震えていたわけではなさそうでよかった、うん。
「いちごの山チョコ、フォルムもかわいいですよねぇ。あっ、今度パフェのトッピングとかに使ってみませんか!」
ゆかりさんの思考回路を理解できる日は一生来ないような気がする。
「……考えておきます」
お約束の回答でお茶を濁す。つくづく日本語は便利だと思う。日本人でよかった。
閉店作業のとき、ゆかりさんが小さな声で「コンビニ寄ろう」と言っていたのは聞き逃さなかった。
いちごの山チョコ、買うのか……。
いちごの山チョコ、あのとんがったピンクと茶色い土台の三角錐風のチョコレートをイメージしてます。
似た名前つけようかなとも思いましたが、論争が起きるチョコレート菓子っぽい名前のほうがロングセラーの人気商品感出るかなぁと思いまして。




