200-2 和樹さん的牽制術(中編)
飛鳥ちゃん視点です。
あれから二ヶ月。
SNSでのゆかりお姉ちゃんへの心ない書き込みと、喫茶いしかわの和樹さん目当ての女性客がめきめきと減り……いつもの平和な喫茶いしかわに戻った。
ゆかりお姉ちゃんの心労も少しずつ回復して、今ではドアベルが鳴っても強ばらなくなった。和樹さんとも今まで通りにこやかに接している。
……んだけど。
「ゆかりさん、今日終わったら食事に行きませんか? 良いお店見つけたんです」
「……和樹さん、昨日もご飯したじゃないですか、今日は帰ってゆっくり休みましょう?」
「ゆかりさんと一緒にいた方が休まるんですよ」
「っ、もう!」
どうしてこうなったのか。和樹さん、吹っ切れたか何か? えっ、いいの? というくらい、二人の距離は二ヶ月前と比べて更に近くなっていた。
さらに。
「今日ゆかりん、カズキさんとご飯行くにケーキ一個」
「ええ~、昨日も行ったんならさすがに行かなくね? 私は行かないに賭けるわ」
「ていうかさ~ほんとにいつくっつくワケ?」
「それな」
「まじ」
パッタリと来なくなった“カズキファン過激派”の影に隠れていた“イケメンと看板娘の仲を応援する派”の女子高生が喫茶いしかわに来店することが増えた。
彼女たちは基本的に静かにお茶して帰っていくが、和樹さんだけでなくゆかりお姉ちゃんとの仲も良好で、新しい女子高生のお客さんで仲良しの子たちができたのよ! と本当に嬉しそうに報告してくれたゆかりお姉ちゃんの笑顔を見ることができたのは良かったと思ってる。
ただ。
「ねえねえ本当に二人付き合ってないの?」
「ご飯行ったげなよゆかり~ん」
「も、もう! お付き合いはしてません! ご飯も今日は行かないの!」
「ええ~なんでえ~!?」
「な・ん・で・も!」
「ゆかりさん、そんなに照れなくてもいいんですよ?」
「照れてません! 和樹さんまでやめて!」
今度は必要以上? に、二人の仲を後押ししたりからかったりする発言が増え、心労とまではいかなくてもゆかりお姉ちゃんの悩みは消えるどころか増えてしまったようだった。
とはいえ真っ赤になって慌ててる姿に、二ヶ月前のような沈んだ雰囲気は一切見られない。
「飛鳥ちゃんにも心配かけたね」
「えぇ? なんのこと~?」
「はは、ゆかりさんを気遣ってくれていたじゃないか」
え? そんな話は直接和樹さんにした覚えはないんだけどなぁ。本当にどこからどこまで聞いてたのこの人……こっわ……。
「ま、まあ、えんじょう? なくなってよかったよね」
「ああ、さすがに目に余るものだったからね」
……こっわ! 今の和樹さんの目はちょっと夢に出そうだった。今日はお母さんに一緒に寝てって甘えようかな。
「それより、今日はご飯行かないんだね?」
「聞いてたのかい? いやだなあ」
「聞こえてたの!」
「ふふ、まあいいさ。僕の隈が酷すぎて見ていられないから今日はダメだって」
「え?」
「ちゃんとお休みしてしっかり隈が消えたら行きましょうって」
本当に優しいんだ、こんな僕にも。
そう呟いた和樹さんの目は女子高生たちと楽しそうに話すゆかりお姉ちゃんを見つめていて。
優しいんだと言ったゆかりお姉ちゃんに負けじと優しい眼差しで、なんだか……見てるこっちが恥ずかしいんだってば! そんなに愛しさダダ漏れさせて、告白もしてないって、本当にいいのかな。ふたりの左手にチラリと視線を移す。
まあでも、SNS炎上の一部始終を知っている聡美さんや遥さんも“二人が幸せになれるなら”と応援する側に回っていて。そこに関しては私も同意だった。
「和樹さん」
「うん? なんだい?」
「ゆかりお姉ちゃんを泣かせたら、絶対許さないからね」
「……ああ」




