174 やわらかハンバーグ
こどもたちが、物心つくかつかないかくらいの頃のおはなし。
ちょんちょん。進が皿の上の一番鮮やかなものにスプーンで触れる。
「進くん、今日はやめておく?」
「まゆみがたべる~!」
ひょい、と進のプレートに真弓のスプーンが現れる。そして進が食べるのを戸惑っていた人参を、なんの躊躇いもなく真弓が食べる。
「あっ……」
悲しそうな顔をした進の視線が下を向く。その瞳には悔しそうに涙が浮かんでいた。
「ご飯できましたよ~」
「は~い!」
こども用の椅子に腰をかけた進と真弓の目の前に、プレートとお味噌汁を置く。
「あっ! はんばーぐ!」
「まゆみねぇ、おかあさんのハンバーグだいすき!」
ニコニコと手を合わせて大きな声で「いただきます」と言った二人は美味しそうにハンバーグを頬張る。
「いつもとちがうね!」
「うふふん。今日のハンバーグはねぇ、お豆腐のハンバーグなんだよ」
「おとうふっ! おいしいよね~。だいすきっ!」
二人はあっという間にハンバーグを完食した。満足そうな進にゆかりは笑いかけた。
「進くん、人参食べられたね」
「えっ、にんじんいなかったよ?」
「おっほん。実はこのハンバーグの中には人参さんがいたんです。だから、進くんはこれも食べられるんじゃないかな?」
そこにいるのは付け合せの人参のグラッセ。真弓のプレートには残っていない。
「ぼくたべる」
スプーンですくい、口元に運ぶ。ぎゅうっと目をつぶり、大袈裟なくらいに大きな口を開けた進のもとに人参が消える。しばらくの沈黙が続く。
「……おいしい、かも」
「進くん、頑張ったね!」
「すすむ、すごい!」
ニコニコと笑い合う姉弟のプレートには仲良くパセリだけが残されていた。ふたりは似たもの姉弟である。
好き嫌いなのか食わず嫌いだったのかわかりませんが、進くんがにんじん好きになるきっかけです。
お豆腐入りだからちょっと違うのよ~と言いつつにんじんを潜ませました。
刻んだりすりつぶしたり、あの手この手でいろいろ食べさせた結果、こどもたちは好き嫌いなくなりました。
「さすが、ゆかりさんの食いしん坊遺伝子は強いですね」
「えっ、和樹さん人のこと言えないくらい食いしん坊なのに、自覚ないんですか?」
今まさにお子さんの好き嫌いと格闘中の皆さん、がんばってね!




