170 同棲までのカウントダウン
短いですが、久々にマスターと梢さんの恋人期間のお話を。
「ねえ、梢さん、一緒に住もう」
まるで息をするかのように自然に零れたことば。そうしたら、こんな寂しい思いをする必要もない。一人の部屋に帰ってくることもない。石川はじっと彼女の返事を待った。
「そんなの……そんなの素敵すぎますね! そうしたら、今日みたいに石川さんとさよならしなくてもいいんですね。帰ってきたらおかえりって言えるし、ご飯も一緒に食べられる日が増えるし、何より朝から夜まで石川さんづくし! いいんですか? 私で」
「あなたがいいんです。梢さんじゃなきゃじゃなきゃ、僕は幸せになれない」
腕にこもる力は強くなる一方で、彼女が少し苦しそうに身じろいたのが分かったが、到底離してやる気にはならない。
そう、僕を幸せな男にしてくれるのは君だけだと、縋るように彼女を抱きしめる。
「そんなこと言ってもらえるなんて私は世界一の幸せ者ですねえ。それに、なんだかプロポーズみたい」
くすくすと腕の中で笑う彼女はそっと石川の背中に腕を回す。
「そう受け取ってくれていい。でも、それはなんというか。ちゃんとしたいんだ。今度もう一回ちゃんとさせて」
だって、本当はもっとかっこつけて言うはずだったんだ。ちゃんと君に似合う指輪も用意してさ。夜景の見えるレストランでとか、夕日が沈む海でとか。これでもいろいろと考えたんだといえば、そんなの恥ずかしいから、今ので十分ですと、彼女らしい答えが返ってきた。
そのあと、彼女を家まで送ってさよならをした。じゃあねと軽く抱き寄せる。
「石川さんとのさよならも、もう残すところあとわずかですね。最後のさよならは、どんな気持ちになるんでしょうかねえ」
なんて可愛く頬を染める彼女。
今度の休みには指輪を見にいこう。それから、二人で住むのだから必要な家具も揃えなければ。
「んもう、石川さんたら、気が早すぎますよ」
そんなふうに、くすくす笑う彼女に諌められるほどには今の自分は浮かれている。
ひとまず書きたいように書いてみたら、なんかもう「この親にして……」と言うしかないような着地をしてしまいましたね。うははは。
いちばんラブラブで盛り上がって燃え上がってる時期を想定してるので、「そこまで一緒にいたいか?」というレベルで仕上げてみました。




