127 ボクはキミのイヌ
愛妻の日デートのチラ出しです。
デート中、次の予約まで少し時間ができたので、目についたペットショップに入ってみた。
「あ、これとか白いわんこなブランくんに似合いそうですねぇ。青空みたいな爽やかカラー」
「どれどれ」
和樹はゆかりの手からひょいとスカイブルーの首輪を取り上げると、そのまますいっと自分の首元に押し当てる。
「あっ、ちょっと和樹さん」
「どうです、ゆかりさん。僕にも似合うかな?」
まんざらでもない顔でそんなこと聞かないでほしい。ゆかりは心底からそう思って溜め息をついた。
ゆかりはじっとりとした目つきで言い放つ。
「それはブランくんのでしょう?」
「……」
笑顔のまま固まる和樹。
「それにまあ……」
困った人だなぁという顔を隠さず、ゆかりはキャメル色のつややかな本革の首輪を手に取る。
「和樹さんにはそういう軽い感じのものより、こっちの本革の……」
シュバッと音がしそうな素早さで本革の首輪をゆかりの手から奪い取ると、和樹はそのままさっさとレジに向かってしまう。
「……え?」
一瞬状況が飲み込めずにいたゆかりの耳に店員の声が届く。
「こちら二点で七千八百円になります」
「一万円で」
「えっ、ちょっと……それふたつとも買うの!?」
ゆかりは慌ててレジに向かうが、和樹はすでに品物を受け取っていた。
「ねえ、ブランくんにはひとつでいいんじゃない? なんでふたつも買ったの?」
軽く袖を引いて、唇を尖らせながら小さな声で問い詰めるが、和樹はにんまりしてゆかりの腕をとり、大股で店を出る。
「そろそろ予約していたアフタヌーンティーの時間ですから、急ぎましょうね」
「は、はい」
そのままうやむやにされてしまった。
後日。
長田が軽く驚いた顔で和樹に声をかける。
「あれ? 石川さん、ずいぶんご機嫌ですね。何かいいことでも?」
「まあな」
ある日を境に、和樹の左腕の手首には、有名ブランドの腕時計とキャメル色の本革のバンドが着けられるようになった。
そして、時々にまにましながら本革のバンドを見ている和樹の姿がちょくちょく目撃されていた。
会社内で和樹の愛用品であるともっぱらの噂になったころ、ようやくゆかりの耳にも長田の妻、環を経由してその噂が届く。
青くなりながらその話を聞いたゆかりは、「あ……あれは和樹さんにとってミサンガみたいなものなのよ!」と慌てて言い訳する姿が数名に目撃された。
首輪を与えられて嬉しいわんこと無自覚な凄腕狂犬ブリーダーの図。
いや、与えられてないから! ってツッコミが意味をなすことはあるのだろうか?(苦笑)




