108 もちざんまい
ぺたっ。ぺたっ。うぃん。
餅つき機が滑らかな餅を作り出す。
年末の商店街のイベントでこどもたちが臼と杵でついたもちは、あっという間に底をついてしまった。
もちが大好きだがまだ幼かったこどもたちが食べやすいように、白玉団子程度の小さな一口サイズのもちを量産すべく、五年ほど前に購入した餅つき機は今年も大活躍だ。
「ゆかりちゃん、今年もだろう? 家に届けておくよ」
にやりと笑った米屋の手には、ずっしりと重量を感じさせるもち米の袋。
これも年末恒例のやりとりだ。
滑らかでつややかな、文字通りのもち肌を惜しげもなく見せる白い餅の塊に、こどもたちの目はキラキラと輝く。
手慣れた梢さんとゆかりさんが、ぽんぽんともちを丸めていく。
こどもたちは、次はどれにしようと調味料の前で唸っている。
焼いて醤油をつけたり、海苔を巻いて磯辺焼きにしたり、大根おろしを絡めたり、砂糖醤油で甘じょっぱさを楽しんだり。きな粉餅も食べたし、そこに黒蜜をかけて安倍川餅にして食べたし。
汁粉にも入れていたし、なんなら元旦一発目は雑煮にして食べた。
こどもたちはトマトソースと溶けるチーズでピザ風に食べることにしたらしく、いそいそとオーブントースターやアルミ箔を用意している。
もし余ってしまって少しかたくなった翌日の餅があったとしても、おそらくはあられになるか、チーズと一緒に春巻きの皮で包んで揚げて食べるのだろう。
美味しいけどカロリー爆弾だからと悩ましげな表情で揚げ物に箸をのばすゆかりさんを何度目にしたことか。
ひととおり作業を終えたゆかりが和樹の元にやってくる。和樹は、ぽすんと隣に座ったゆかりをそっと抱き締めて頭をぽんぽんと撫でる。
「お疲れさま。美味しそうに仕上がったね」
「ええ。おかげさまで。……がんばってつくったおせちよりも、おもちのほうが好評なのは、ちょっと残念ですけどね」
苦笑しながら頭を和樹に預けるゆかり。
「ふふっ。仕方ありませんよ。だってあの子たちは、“おもちベタベタ事件”の当事者ですから」
思わずたまらず、ゆかりは吹き出した。
「プッ……そうでした。あれは凄かったですねぇ」
◇ ◇ ◇
あれはまだ、真弓がようやくつかまり立ちができるようになった頃。
間が悪く、ちょっと目を離した隙に起こっていた。
リビングに戻ってきたゆかりと和樹は入り口でばったり。それと同時に子供から目を離してしまっていることに気付き、慌ててリビングに駆け込んだ。
「真弓ちゃん!?」
「うゅ?」
振り返った真弓は、手も顔も、もちだらけでべたべたになっていた。
「……っ! きゃあぁっ!」
「いかん!」
慌ててもちを取り上げ、もちに手を伸ばして泣きわめく真弓をもちから引き剥がし、ざぶざぶと洗った。
◇ ◇ ◇
懐かしい話にゆかりが目を細める。
「真弓ちゃん、まさかもちまみれになるほどおもちが好きだとは思ってなかったし、大きくなってもこれほど大好物のままだとは思ってませんでしたね。進も似たようなものだし」
「ゆかりさんの食いしん坊が遺伝したんじゃありませんか?」
「むうっ。そういう和樹さんだって、とっても食いしん坊じゃないですかぁ。私だけのせいじゃないと思いますよ?」
「仕方ありませんね。そういうことにしておいてあげます」
くすくすと笑いながら小声で会話する。
そこにひょこりと顔を出す真弓。
「お父さんもお母さんも、おもち食べないの? 全部食べちゃうよ?」
「ああ、すぐ行くよ」
「おもち食べすぎておせちが入らない、なんてことにはならないでね。まだまだたっぷりあるんだから」
「はぁい」
積み上げそうなほどたくさん並んでいるおもちと、その横におせちの重箱。田作り、なますなどの伝統的な和のおせち料理だけでなく、ローストビーフのような洋風おせちの品も入っている。
チーン! と音がしたオーブントースターの中には、ピザトースト風のおもち料理。それと入れ替わるように、ココット型におもちを入れ、その上に市販のミートソースと溶けるチーズをかけたものが網の上に並んでいく。タイマーをセットして満足げな進が、食卓に戻ってきた。
「みんな揃ったね。それでは」
「「「「明けましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします!」」」」
おもちの食べ方は、アレンジレシピも含めて、わりと定番のものを書いたつもりですが、いかがでしょう。
子供の頃、我が家は石川家とは逆にそこまでおもちが好きな人がおらず、でも親戚が年始の挨拶ついでに持ってきた大量のもちを消費する必要がありまして。
そこで試してみた結果、和風洋風中華風といろいろできあがりました。
中華風は、おこげみたいにしてあんかけで食べたり、麻婆豆腐っぽくしたり、とてもお腹にたまるメニューが多かったので、本文には載せませんでした。
ちゃんとしたメニューまでいかなくても、ごま油を塗って、醤油やラー油と合わせるのも美味しいですけどね。




