102 サンタのしあわせ
物心がつくかつかないかくらい子供たちが幼かった頃のクリスマス。
今年こそは、今日だけはなんとしても! と必死で仕事を片付けた和樹は、念願叶って午後六時には自宅に辿り着いた。
「ただいま~」
「おかえりなさーいっ!」
玄関の扉を開けると、揚げ物やらコンソメやら、ぎゅうっと詰め込まれたいろんな美味しい匂いが我が家から溢れてくる。それを逃がさないように手早く扉を閉めると、リビングから飛び出してきた子供たちが、靴を脱ぐ前から元気よく両足に飛び付いてきた。可愛い子供たちが疲労を吸収してくれるような気がする。
右足の愛娘、左足の愛息子の頭をわしゃわしゃと撫でてやる。
「ただいま。出迎えありがとう。お父さん、靴脱いでお家に入りたいから、ちょっと離れてくれるかな?」
「はぁい」
鞄を脇に置き、靴を脱ぐ。
「おとーしゃ、おててあらう?」
「ああ。先にリビングで待ってなさい」
「あい!」
手をあげて返事をする子供たちが可愛い。
そこにひょこりと顔を見せたゆかりさんがにぱっと笑う。
「お帰りなさい。パーティーは今からですよ。今年は間に合いましたね」
ゆかりさんはしゃがんで子供たちと目線を合わせる。
「さあさあトナカイさん、準備してください。サンタさんの準備ができたらトナカイさんを呼びますから、お迎えに来てくださいね」
「はーい!」
子供たちはふたり揃って手をあげて、リビングに向かう。
さっさと手洗いうがいを済ませ、寝室に向かう。
ゆかりさんは既に赤いミニスカ姿になっていた。ささっと赤いケープを羽織り、帽子を身に付け、ミセスサンタになっていく。
「うふふ。和樹さんの衣装はこちらですよ」
ベッドの上には量販店のサンタコスチュームが広げられている。
着てみたら、袖も裾も丈が短くつんつるてんだった。
「うぁ……なんかごめんなさい。もっと大きいサイズ探せば良かったねぇ。」
困り眉で申し訳なさそうにするゆかりさん。
「いいですよ。家の中だけですし。それより子供たちが待ってます」
そうですね、とひとつ頷くと、ミセスサンタは寝室の扉を開く。
「トナカイさーん! お迎えお願いしまーす!」
「はーい!」
すぐに子供たちがとてとてとやってくる。玄関ではそれらしい模様の入った茶色いツナギを着ているだけだったが、今はトナカイ帽子をかぶっている。
ふたりはカラカラと音をさせながら、積み木の入ったトロッコを紐で引っ張っている。どうやらソリのつもりらしい。
寝室の入り口でにこっと笑うトナカイたちに魅了される。
「ああっ、可愛い! 可愛いぞ! うちに天使がいる!」
思わずしゃがんでぎゅっと抱きしめた。
子供たちはきゃあっと歓声をあげる。
「まあ! 私も仲間に入れてくださいな」
ゆかりさんはくすくすと笑いながら、僕ごと子供たちを抱きしめた。
「さ、そろそろパーティー会場に向かいましょう。トナカイさん、案内をお願いします」
「はーい!」
トナカイたちはカラコロとソリ(仮)をひきながらダイニングに向かう。サンタクロースとミセスサンタはその後ろに着いていく。
テーブルにはところ狭しと料理が並ぶ。クリスマス定番のチキンフライはもちろん、子供たちが食べやすいよう小さめの一口サイズの唐揚げやサラダもある。
冬至の日に食べたかぼちゃ入りのクリームシチューは真弓がとても気に入っていたのでまた作ったらしい。ただしクリスマスらしくポットパイになっている。真弓は新しいごちそうが出てきた! と思っているようでそわそわしている。中身に気付いたら大興奮するに違いない。
野菜スティックを生春巻の皮で包んだものや、エビチリ(これはさすがに幼児には出せないので大人だけだ)、エビマヨ、八宝菜もある。
子供たちの目の前のチキンライスはお子様ランチ風で、ゼリーの型で型抜きしたものがちょこんと置いてある。
クリスマスにお馴染みの甘いソーダの栓をポンと抜き、ワイングラス風の子供用コップに注ぐ。
大人は普通のグラスだが、同じ瓶のものを注ぐ。
「のみもの、おそろい」
「うん。同じもの、飲もうね」
大人と一緒が嬉しいらしい子供たちは満面の笑みで頷く。
「さあ、パーティーを始めましょう」
「そうですね。皆、グラスを持って」
溢さないように、子供たちに合わせて両手でグラスの脚を持つ。ゆかりさんは左手に自分のグラスを持ち、右手は進の手を上から包んで支えている。
「メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
◇ ◇ ◇
食後にゆかりさんお手製のブッシュ・ド・ノエルを食べると、子供たちはリビングでころりと横になってしまった。
「おなかパンパン。もうたべられないよー」
「おいちかったねぇ」
「ここで寝るのはまだ早いよ~? クリスマスプレゼントあるんだよ」
ぱぁっと笑顔になり興味津々でプレゼントの包みを見ている。
「はい、どうぞ。こっちが真弓ちゃんで、こっちが進くんだよ。メリークリスマス!」
「ありがとう!」
「あいがと!」
ふたりはにこにこと受け取り、ガサガサと包みを開けていく。
「わぁ、くまちゃん! かわいー!」
真弓がくまのぬいぐるみをぎゅうっと抱きしめる。
「くまちゃんといっしょにおねんねしていい?」
「いいよ」
「あー、わんたんのごほんだ!」
進には『わんタンといっしょ』というお気に入りの絵本の続刊、『わんタンのだいぼうけん』だ。
「わんたん! わんたん!」
絵本の表紙のわんタンをバシバシと叩いている。……ま、まぁ、いいか。
大はしゃぎの子供たちは、プレゼントを抱えてぴょんぴょん跳ねながら、クリスマスツリーの周りをぐるぐると回り続け、疲れて眠ってしまった。
ゆかりさんと僕は、子供部屋でぐっすり眠る様子を穏やかな表情で見つめながら、そっと頭を撫でる。
「おやすみなさい。いい夢みてね」
こんなほわほわクリスマスはなかなか難しいのかもしれませんが、たまにはいいよね。
わんタンの絵本はもちろん捏造です。
最初は僕の顔をお食べ的なキャラの何かないかなーと思ってたら、なぜか犬の探偵を思い出し。
あれこれしてたら、わんタンが降ってきました。
とりあえず思い付いたそれらしいタイトルにしただけで、絵本の内容もキャラデザもろくに考えてません。
わんタン……ワンタンを作ったり食べさせたりするお食べ系キャラなのか、あるいはわんこキャラなのか(笑)




