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徒然とはいかない喫茶いしかわの日常  作者: 多部 好香


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10 ウィークエンドシトロン

 私が取り込む洗濯物を、おしゃべりしながらも一生懸命畳んでいる子供たち。すっかりお手伝いが板についている。


「きのうお店にね、お母さんをみながら、かわいいな告白しようかなっていってるおにいさんがいたの」

「えっ……それ、お父さんにいった?」

「ううん、まだ。きのうはお父さん帰って来なかったもん」

「そっか。お父さんにはそれ、内緒にしておいてね」

「うん。お父さん、お母さんが大好きすぎるから怒っちゃうかもしれないもんね」

「きっとゴキゲンナナメになっちゃうよ」

 諭すように話す子供に、夫の姿が重なる。


「ねえ、お母さんは、お父さん好き?」

「ええ、好きよ」

「いっぱい好き?」

「ふふっ。ええ、いっぱい好きね」

「お母さんって、いっつもしあわせそう」

「うん。とってもしあわせそう」

「そうね、とっても幸せよ。大好きなお仕事が続けられて、素敵なお客さまにたくさん会えて。おうちには大好きなあなたたちがいて、大好きな旦那様がいて。あったかいおうちであなたたちと一緒に和樹さんの帰りを待てるんだもの。……あ!」


 テーブルに置いてあった私のスマートフォンが光る。届いたメッセージは素っ気なく『今夜は早めに帰れると思う』のみ。

 しかし『了解』と返信すると、すぐに既読が付いた。


「さ、ケーキ作るわよ」

「今日、お父さん帰ってくるの?」

「え、お父さん帰ってくるの? やったーっ!」

「じゃあ、僕レモン買ってくるよ。そこの洗濯物は帰ってから続きするから」


 そう言って進は財布を持った。真弓は桜色のエプロンを持ってきてお手伝いをする気満々である。

 私もエプロンをつけてキッチンに向かう。



 私の夫は多忙な人だ。出張だなんだとなかなか家に帰れないこともあるし、食事も某十秒で済む物なんてザラにあると聞いている。帰って来ない日はどうやら徹夜も当たり前、みたいなことをしているらしい。でも仕事は家庭に持ち込まない。


 そんな夫に妻ができることは数少ない。いつでも笑顔で「いってらっしゃい」と見送り、「おかえりなさい」と抱き締めて迎える。もちろん夫の大好物の和食、そして二人の約束のウィークエンドシトロンを作って。



『和樹さん、知っていますか? ウィークエンドシトロンって週末に大切な人たちと食べるケーキなんです。私、ウィークエンドシトロンを作って待ってます。だから、和樹さんはちゃんと私のところに帰って来てくださいね』

 新婚の頃にこんなメールを送ったのがきっかけで、たまに作るようになったケーキだ。

 なかなか帰宅できなかった夫に早く会えますように、ふたりでお家で笑って過ごす時間ができますようにという、ちょっとしたおまじないのつもりだった。

 今ではアプリコットのジャムを使うなどアレンジレシピもそれなりに持っている。


 でも今日はオーソドックスなやつを。パウンドケーキの型で作ってもいいけれど、今回はマフィン型で作ることにして、いつもより多めに拵えよう。


 真弓は粉をふるったり、レモンの皮をすりおろしたり汁を絞ったりとケーキ作りのお手伝いをしてくれる。

 買い物から帰って来た進は、宣言通り洗濯物を片付けてくれた。

 そしてケーキが焼き上がるまでの約40分。子供たちは飽きることなくオーブンの中を見つめている。

 私は夕食の支度にとりかかる。


 サバ缶を使った冷や汁。

 ミョウガとエビのかき揚げ。

 しし唐辛子の素揚げ。

 かつおだしを効かせたあんをたっぷりかける揚げだし豆腐。

 モロヘイヤを茹でて叩いて粘りを出してポン酢を和えたもの。


 ごはんはもうすぐ炊けるし、冷や汁が味噌味だからお味噌汁はやめてもいいかな。お出汁は……よし、揚げだし豆腐のあんにたっぷり使ってる。もしおかずが足りなければ作りおきをいくつか出せばいいわよね。


 焼けたケーキをオーブンから出して粗熱をとっている間に帰宅した夫を迎えて抱き締めると、ぎゅっと抱き締め返され、私の肩口に埋まった頭からはお風呂に浸かったときのような「あ~~~っ」という声が漏れる。背中をぽんぽん叩きながら、ついくすくすと笑ってしまう。

「すっかりおじさんの反応じゃないですかぁ」

「……年齢は立派におじさんの仲間入りしてますからね」

 ぼそりと返してくる夫に、子供たちが言葉をかける。

「大丈夫! お父さんカッコいいから!」

「そうだよ、大丈夫!」

 力説する子供たちのお腹がきゅるりと鳴る。


「ふふっ。じゃあ、お夕飯にしましょうか」

「賛成!」

「ほら、和樹さんはスーツ脱いできてください」

「はい」

「今日は早く帰れるっていうから揚げ物にしたんですよ。ついさっき出来たばかりですから、熱々のうちに食べましょうね」


 子供たちが冷蔵庫に入れてあった冷や汁やモロヘイヤの和え物などを食卓に並べてくれる。

 私は、揚げだし豆腐を仕上げてから子供たちに任せ、油をきったかき揚げや素揚げを大皿に盛り付けて、テーブルの真ん中にドンと置く。


 ごはんを食べ終わる頃には粗熱のとれているケーキの、仕上げのアイシングは、皆でやろう。

 そして明日、皆で美味しいねと言いながら笑顔の週末を迎えるのだ。

 週末に合わせて、週末にちなんだ(?)お話をあげてみました。


 というか、明日から8月ですよ。なんてこったい。


 今年の7月はしっかり雨の降る梅雨でした。冷夏とまではいわないけれど最高30℃程度で済んでいたので、体感はわりと過ごしやすかった。

 で、昨日見かけた「猛暑といわれている今夏の予想気温」を見てみると……これ、昨年の実績より5℃くらい低い?


 ちなみに我が家周辺は気温の上がりやすい地域です。

 昨年の7月はほとんどが猛暑日認定され、この時期は連日最高気温40度越えだったという気が遠くなる事実がずしりと。

 それを考えると、地域差を考慮しても地元は最高37℃前後ですみそうに見える予想に少しほっとしてるのです。

 ここを越えると外出時の体感が全然違いますから。


 新型コロナの猛威に加え「むちゃくちゃ暑いのに昨年と比較して冷夏」なんてトンデモ結論が出てしまいそうな怖さがあります。


 今年はマスクもしなきゃですし。

 まさか熱中症に加えマスク焼けまで気にすることになろうとは。


 新型コロナも罹患者がじわじわ増えていますね。市役所情報だと我が家の半径500mでは聞かないけど3km圏内だとぽつり、ぽつり、くらい。

 あくまでも私の感覚ですが、出かけるたびに黒ひげのナイフを1本ずつ樽に刺しにいく気分になっています。

 できる対策はするけど、当たりどころが悪ければかかるときはかかると腹を括って出ていくというか。


 熱中症も水分補給も三密も、気負いすぎない程度に気を付けてます。

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