89-3 SS6 if~たとえばふたりが幼なじみだったら~
本日のSS3本目。
石川ゆかり、3歳。
「ゆかりねー、かじゅきくんとけっこんすゆー」
「ほんと? うれしいなあ。じゃあこれ、婚約指輪ね。こないだのお祭りで買ってあげたやつ。あ、食べちゃダメだよ」
ゆかりの無邪気な一言に、和樹はそれはもう嬉しそうに、にこにこと、指輪を模した飴を渡してくる。
「こんにゃく?」
コテリと首を傾げるゆかりの手をそっと包みながら、和樹は穏やかに説明する。
「婚約。結婚しますっていうお約束の指輪だよ」
そして十年後。
(……なんて、あんな話、和樹さんはもう忘れてるんだろうなあ)
ボックスから取り出した飴玉の指輪を、ゆかりは寂しそうに眺める。そっと左手の薬指を通そうとするが、第一関節までしか入らなかった。懐かしさと苦いものを飲み込むような表情を薬指に向けるゆかり。
「……もう、入らないや」
さらに十年後。
「これ」
和樹からスッと差し出された紙には、なにかの枠線と、ぐるぐるまきのクレヨンの線。どう見ても幼児の落書きだが、はて?
コテリと首を傾げると、和樹は自分の手で隠していた紙の左上をあらわにする。そこには婚姻届の三文字。
「ゆかりさんが三歳のとき下書きしてくれた婚姻届だよ」
にっこり。和樹は笑みを深めた。
「さ、こっちの紙に、清書してくださいね」
これはあくまでもパラレルです。
が、こんなお誂えむきで言質がとれてるシチュエーションがそこにあるなら、和樹さんならやりかねないなと。




