89-1 SS4 わたしの権利
本日は、SSを三本投稿します。
こちらは、新婚甘々時代のおはなしです。
カタンと物音がする。
「ふぇ……?」
ゆるりと目を開くと、まだ薄暗いが隣にあるはずのぬくもりが消えていた。
もしやと慌てて玄関に向かうと、スーツ姿の夫がいた。
「和樹さん!」
「ゆかりさん……ごめん、起こしちゃったね」
「そんなこと……! 出るときは起こしてくださいねっていつも言ってるのに」
「ははは。でもゆかりさんも明日は早番で早起きでしょう?」
「そうですけど。でも、ちゃんと“いってらっしゃい”したいんです。一生懸命頑張る旦那さまに“いってらっしゃい”と“おかえりなさい”を言う権利、私から奪うつもりなんですか?」
和樹はぐっと詰まった。
ちょっと拗ねた口調でゆかりにこんなことを言われてしまうともう、和樹のトキメキは止まらない。
キューピッドがいたら、和樹のハートに一斉射撃しているだろうという勢いで、可愛い、いとおしいという想いが増している。
「あー……えっと、行ってきます。僕の可愛い可愛い最愛の奥さん」
ぎゅっと抱きしめて、かみしめるように言葉をかけると、見上げて満面の笑みを返してくれる。
「はい! 行ってらっしゃい。私の素敵な旦那様」
(はぁ~~~~~~~~っ、行きたくねぇ~~~~~~~~~っ!)




