喫茶いしかわ
地方都市の外れに店を構えた喫茶いしかわ。
いわゆる古民家カフェのような、ちょっとレトロな店構え。
実際、古民家だったから当たり前だけど。
普通のテーブル席やカウンター席の奥に、畳を敷いたお座敷があるのは、ちょっと喫茶店らしくないかもね。
ペット連れのお客さまもそこそこ多いので、数年前から白い丸テーブルと椅子のテラス席を3つ設置したお庭。
舗装などせず土のままにしているので、ちょっとしたドッグランみたいにワンちゃんが駆け回ることもある。
今日は私、石川ゆかりが早番担当。
ちゃきちゃきと食材や店内の支度を済ませ、ドアのプレートを“OPEN”にひっくり返す。
カランカラン。
「いらっしゃいませ!」
ほどなくやってきたのは、半月ごとに訪れる、営業で外回りのサラリーマンさん。カウンター席にドカリと座りながら注文する。
「モーニングBひとつ」
「かしこまりました」
水の入ったコップをコトリと置いて、用意に取りかかる。
チーズトーストとハム多めのサラダ、ブルーベリージャムをおとしたヨーグルト。
「お待たせしました」
よく厳しい表情をしているひとだけど、ひと口頬張るごとに表情がゆるむのが嬉しい。
食後を見計らって出す自慢のブレンドコーヒーを口にする頃にはすっかり穏やかな顔つきになるのだ。
気合いを入れ直すようにネクタイを直し会計を済ませると、来たときよりずっとイキイキと、颯爽と飛び出していく。
「ありがとうございました!」
お客さまの活力になっている、そんな自信がわいてくる。
「いらっしゃいませ!」
ドアベルを鳴らして入ってきたのは、病院帰りに寄ってくれる常連のおばあちゃま。笑顔がとっても可愛いの。
「こんにちは、ゆかりちゃん。いつものアレお願いね」
「はい! 豚汁ですね」
うん、とても喫茶店らしくないメニューだ。でもいいの。
ここは、普通の喫茶店メニューも豊富だが、それ以上に喫茶店らしくないメニューが好評なのだ。
豚汁しかり。
甘酒もレギュラーメニューだし、なんなら一番人気のドリンクは“出汁”だったりする。
ちなみに豚汁は、おばあちゃまの一言がきっかけでレギュラー入りした人気メニューだ。
ひとり暮らしでなかなか手の回らないお野菜もお肉もしっかり食べられると好評で、最近は幼い子供のママさんからの注文も増えた。
SNS映え? そんなの知~らない♪
この店を訪れるお客さまが喜んでくれれば、それでいい。
そんな、喫茶店なのに流行りとは無縁すぎる喫茶いしかわ。
今日も明日も明後日も、元気に営業中です!