汚れた正義-5 守るべきモノ
「タカノ様にそんな過去がありましたのね...」
タカノはミミの胸の中で語り終えて涙を流していた。
「ああ、失いたくない。
だけど、殺すのも辛い......でも、俺には守りたいモノがある。
ミミや娘達もそうだが、親友のシンに...
俺を慕って仲間になってくれた人たち。
毎日笑顔でいてくれる都の人々を....
無理には言わない。
俺を支えて欲しい、どんな事があっても俺のことを....」
「分かってますよ、タカノ様。
ミミは支えます、タカノ様傷ついた時は癒します....だから、今日は強がらなくてもいいです。
誰にも言いません。タカノ様の心を見守っています」
タカノはそれを聞いて、塞いでた感情を露わにした。
涙が止まらなくなり、寂しくて怖い気持ちを解き放った。
「ありがとう...ミミ」
今夜はもう少しばかりタカノはわがままをミミに聞いてもらうと思った....
ーーーーーー
「全くあの男は優しいんやから...」
「そうだよな。姉さん。タカ兄は優しいんだ」
シンとイズミは遠くからタカノの話を聞いていていた。
だんだんととタカノの声とミミの声が変わってきたことに気がついたイズミは目を凝らして窓の中を覗いた....
そして、
すぐにシンの目を隠した。
「もぉなんだよ。姉さん」
「子供が見るのはここまで。さ、さっさと部屋に戻りぃ」
「なんだよー俺もなんだかんだで、子供じゃねーよ」
シンはそう言って、
イズミの手を払い除けて自分の部屋に足を向けた。
それはタカノとイズミに対して気を使ったとシンなりには感じていたからだ....
シンが何処かに行ったにを確認した後も、
イズミはタカノを遠くから眺めていた。
今彼の腕の中では今彼が愛してる最愛の人がいるーー
「もしも、あの時....タカノが私を助けてくれてたら、もしかしたら、あっちに私はいたんかな?」
イズミは思わず、思ったことをボソッと呟いた。
「愛しいかった人が見えるところにいるのに遠いなんて....なんとも言えない気分」
イズミの中で、
愛されるミミを見て羨ましく感じていたが同時に別の思いもこみ上げてきていた。
彼にとって今一番大切なモノはミミ....
そして、彼の大切な人が産んだ娘のリン・メイ・マオの三人。親友のシン.....
そしてこの邸に住むタカノのを慕って集まった仲間たちがきっとタカノを幸せにしてくれると自信を持てた。
「幸せになってね。あたなは優しい人だから...私の分も人として幸せになって....」
イズミはそう言って頬に一筋の涙が流れていた。
あそこで抱かれて愛されてるのが自分自身だったらとふと感じたが、
それとは違う感情がこみ上げてきて、
タカノへの思いが彼の幸せを願う気持に変わっていた。
イズミは浮遊の術式を発動させて、空高く飛んでラシュト邸を去っていった。
今タカノは、
昔と違って頼れる仲間もいるし慕ってくれる仲間も多くいる。
彼らこそ今のタカノが守るべきモノだ。
どんなことがあっても、彼はこの幸せを守り抜く決意があるだろうーー
ーーーーー
「ウリュの企みは防げたか...とりあえず、皇女の暗殺の阻止はできたわけかぁー」
タカノは書類に目を通して、義禁庁の執務室内で大きな欠伸をしながら部下から上がってきた報告書に目を通して確認印を押していた。
「それにしても...たった15人で倍近い相手と大立ち回りをしてよく全員を生きたまま返すなんてなぁーすごいではないですか?」
そう、書記官を務めるタカノの部下はうんうんと頷いていた。
流石が我らの鬼の義禁大尉は素晴らしいという感じでタカノを羨望の眼差しで見つめていた。
「そうでもないさ。
守る為に悪人と言えど二人の若者を斬り捨てた...法の元に裁くこともなく」
「そうですかね...タカノ様は、15人の命を救いそして皇女殿下をお守りしたんですよもっと胸張ってもいいと思いますよ」
タカノはそれを聞いて、
次の書類に目を通しながらこう言った。
「すごいと言えど、ただの武官さ。ただ仕事をするだけだ....人を斬り捨てれば、それを背負うしかないさ。
英雄と言えど、向きを変えればただの人を殺してるだけ。綺麗な正義なんてないと感じる。
いくら称えられようが、汚れた正義かもしれない...」
タカノの言葉を聞いて
書記官は筆を止めてこう言った。
「汚れた正義でも。我々には守らなければならないモノがありますよ...
もっと汚れた悪から守るべきモノを守れるのはその汚れた正義しかないと思います。
大尉一人に全てを持たせるつもりはありませんよ。我々義禁庁の将兵は皆同じ仲間ではありませんか」
タカノは書記官の言葉を聞いて書類に印鑑を押してこう言った。
「ありがとう。その通りだな」
廊下から走ってくる足跡が聞こえて、タカノは印鑑を机に置いて立ち上がった。
扉をすごい勢いで開けたのは、シュンテイだった。
息が上がって肩を上下して息をする彼は....
「旦那てーへんだ。一刻前に西市のシャオロンの酒問屋に押し込み強盗が入りましたぁ!今調べをつけてる、あの盗賊団の仕業かと思われます....
そんで、そこの長女が誘拐されたみたいで!」
タカノは、大きく伸びをしてこう言った。
「真っ昼間に押し込みとはないい度胸だな。
さて、現場に調べに行くぞ!誘拐されたなら、急ぎ仕事だ!」
タカノはそう言って、
書記官の肩を叩いてこう言った。
「皆を招集しろ。西市に緊急配備だ。城衛よりも先に捕らえる!」
書記官はニッコリとした笑みを浮かべて、
「了解です!」
と言って部屋を走って出ていった。
「さて、シュンテイその酒問屋へ案内してくれ」
「へい。了解でっせ」
「さて、正義のヒーローの時間だ。
汚れてようが、守るべき人がいるしな....行くぞ!」
タカノはそう言って部屋を出ていった。
義禁庁の門をでた瞬間にタカノの後ろから、
禁軍の旗を持った兵士達が走ってでてきた。
「大尉!当番班、総員45名集合完結!」
そう、
下士官がタカノにそう報告を終えた。
タカノは部下から受け取った、指揮用の長い十手を受け取ってそれを回して前に振った。
「久々に使うなこの十手...まーいい。全隊、駆け足。進め!」
タカノがそういうと、おうと声が聞こえたのちタカノが走り出すとともに義禁の兵士達も隊列を組みながら走り始めた。
焔帝国の都、この世界で最大の大都市を守る義禁庁。
義禁大尉のタカノは今日も汚れていようが守るべきものを守るため傷つきながらも進み続けていたーーー
大切な人を奪われた記憶は心の奥底で残り続けている。
だからこそ、今ある仲間や家族を奪われないようにしようとタカノは感じていた....
走りながら、
緊急クエストを受けたのであろう、アルスとエミリも隊列に加わる、
アイコンタクトを取ってきてタカノは無言で頷いた。
シンも走って入ってくるーーー
「タカ兄!真っ昼間に戦支度してどこいくのさ?」
西市への近道は、ラシュト邸の前を通る。
門の前には手を振るリン・メイ・マオとミミがいた。
タカノは一瞬だけだったが手を振り返したーーー
西市では、武装した10何人かの黒装束に身を包む強盗団が城衛の兵士と剣で火花を散らしていた...
タカノは走りながら、大声でこう叫んだ。
「義禁である!都の平穏を乱す不届き者は何処の賊だ!神妙にお縄につけ!!」
こうして、
タカノの日常は過ぎていくーーー
タカノ「やっとこの章終わったなー」
ミミ「そうですわねぇー(傷ついてるタカノ様カッコいいぃー!)」
シン「姉御の心の声漏れてる(笑)」
ミミ「え、何か言いましたか?」
シン「いやいやなんでもないよ。それよりもタカ兄の守るって思いはここから来てたんだ」
タカノ「そうだな。自分で言うのもなんだが、みんな俺に取っては大切な人さ」
ミミ「あっ....タカノ様ぁ....」
シン「姉御がオーバーヒートしちゃったよ...相変わらずベタ惚れにも程があるよ」
タカノ「まーこの回は以上でおしまい。次回の回もお楽しみに!」