表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

うさぎのながいおてがみ

作者: 卯之 はな

大家族のうさぎのおかあさんは大忙しです。


こどもたちとおとうさんを起こしてから戦争がはじまります。


あさごはん おみおくり おそうじ おせんたく

ちいさな子のお昼ごはん かいだし ばんごはんのじゅんび

おむかえ おふろ ねかしつけ


そして、おとうさんのおしごとのグチをきく係。


そのほかにもうさぎのおかあさんにはやることがたくさんあります。


そのなかでこどもがおかあさんに甘えるときがあって、

相手をするのも一苦労です。


おかあさん、つかれているの


そう言うことはできず、

なんとなく日々をやりすごすようになってしまいました。



「いってきます!」


「いってらっしゃい!」


きょうは、うさぎのおかあさんの機嫌がいつもより良くかんじます。

おおきい子たちはいつもの学校で、

ちいさい子たちは近所に住むおともだちのうさぎのママが

お世話をしてくれるというのです。

「さいきん、げんきないよ? 息抜きでもしなさいよ」

そういって、気をつかってくれたのです。


めずらしくおうちが静まりかえっています。

まるでべつのおうちにいるようです。


家事もとっくにおえたので、ひとりでじゆうにすごせる時間なのですが


「ひとりって、どう過ごせばいいんだっけ?」


いつもなにかに追われて、ながされるまま生活していたために

じぶんの時間のつかいかたがわからないのでした。


とりあえず、ふだんはゆっくり飲めないコーヒーをいれてみたり、

読書をしたり、ひなたぼっこしてみました。


それでも、なにかもっとゆういぎな時間をすごせるのではないかと

かんがえはじめました。


「とりあえず、おそとに出かけてみましょう」


うさぎのおかあさんは、いつもよりすこし丁寧におめかしをしたら

さっそく外へでました。



けっきょく、おかいものでとおる商店がいにきてしまいました。


「なんだかいつもどおりね」


「あ! うさぎの奥さん!」


やおやさんの前を歩いていると、店主のぶたさんが声をかけてきました。

ぶたさんは とおりかかるみんなにいつもおおきな声で

その日仕入れたしんせんなおやさいをおしえてくれます。


きょうはだいこんをもって、


「きょうはだいこんがお得だよ! おゆうはんにどうだい?」


「ごめんなさい。 またあとで寄らせてもらうわね」


「そうかい そうかい! またあとでねぇ!」


「えぇ! また!」



うさぎのおかあさんもおおきな声にあわせて、

お別れのあいさつをいいました。



にぎやかな商店がいをふらふらと歩いていると、

いつのまにか むらのはじへと来てしまいました。


うさぎのおかあさんは、

ひきかえして、おうちでゆっくりするのがいいのかなとおもいましたが

落ちついた森をながめていると、ひさしぶりにむらを出て

外のふんいきを味わうのもいいかもと思いなおしました。


「とおくにいかなければ、だいじょうぶ」


ぴょん ぴょん

と こどものようにとびはねてもりの中へはいっていきました。



「なつかしい! この実!」


それは、ちいさいころかぞくと森でせいかつをしていたときに

よく食べていたものでした。

ひとくち口にふくむと、

むかしと変わらない味でいっそうなつかしくおもいました。


どんどんすすむと、

こんどは兄弟でよくあそんでいた川をみつけました。


「みんな川であそんで、それを見てしんぱいしたおかあさんに怒られたっけ」


きおくがふわっと浮かんできて、クスッと笑いました。


そのときです。 

しげみの中から何匹かのはなし声がきこえてきます。


うさぎのおかあさんは そぉっと音を立てずちかづいて、

はっぱのあいだから向こうがわをみました。

しゅんかん、うさぎのおかあさんは息をのみました。


数匹のきつねの姿です。


「それはいい案だ」

「さいきん、狩れるどうぶつが少なくておなかすいちゃったよ」

「そこにいけば、それぞれのかぞくぶんの食料にはなりそうだな」


「ここでさくせんを立ててから、この先のむらへいこう」


このさき…。 ここらへんにむらは、

うさぎのおかあさんが住んでいるところしかありません。


このままではきつねに食べられてしまう!


音を立てず ちゅういをはらいながらはなれて、

全速力でむらへともどりました。




うさぎのおかあさんは、走りながらおおごえで伝えます。


「みんな!! たいへんなの! もうすぐきつねの群れがやってきて

 むらがおそわれちゃう!

 かぞくを連れてにげて!!」


ひとこえかけただけで、けいこくはむら中にひろまりました。


わたしのこどもたち…!


かぜをきるように、おともだちのおうちへ向かいます。


「こどもたち!!!」


おうちのまえでさけぶと、ちいさいこどもたち全員がとび出てきました。

おともだちのうさぎが、


「よかった、間に合ったのね! いっしょににげるところだったのよ!」


「ごめんなさい、おそくなって」


「はやくにげましょう! また会えるかわからないけど…無事でね」


「ありがとう! またね!」


おともだちも、うさぎのおかあさんも、

じぶんたちのこどもを連れてとにかく走りました。


おおきい子たちと、うさぎのおとうさんを探したいところでしたが

とおくでひめいが聞こえると、


ここにいたらこの子たちもやられてしまう!


とにかく、むらをはなれるために こどもをひきつれて

ぜんりょくで逃げるのでした。



つかれても、いそがしくても、おなじ日々のくりかえしでも

わたしはしあわせだったのに

かぞくといられるだけで しあわせっていうことを忘れてた…




「おかあさん、もう だいじょうぶなの?」

「きつねは追ってこない?」


こどもたちにとっては、

つらい距離だったようでぜぇぜぇといきを切らせています。


「ここまでくれば平気よ。 みんな、だいじょうぶ?」


けがもなく、全員ついてこられたようです。


「おとうさんは?」

「おにいちゃんにおねえちゃん…」

「ぶじだよね!? おかあさん」

「ぶじに決まってるだろ!?」


こどもたちが不安を各々くちにします。


「しんぱいしなくても、かぞくだもの。 いつか会えるわ。

 それよりもあんぜんなところにうつらないと…」


うさぎのおかあさんは、つらいきもちを飲みこんで

次にどうするべきかをかんがえます。


「わたしが、つよいおかあさんでいなきゃいけない」


でかけた涙をぐっとこらえて、あるきはじめました。




一週間後。


こどもたちのにぎやかな声であさがはじまります。


「ごはんできたわよー!」


うさぎのおかあさんがこどもたちとうさぎのおとうさんに声をかけました。

こどもたちは夢中で朝ごはんを食べています。

それをおかあさんとおとうさんは ほほえましくみていました。

おとうさんがいいます。


「まえのむらのようにおだやかなところだね、ここは」


「ここで生きなさいっていうことなのよ。 

 かぞくみんな、ここで再会できたのも」


「そうだね。 きみも、よくこどもたちを守ってくれた」


「それはおたがいさま」


あのとき、うさぎのおとうさんはおとうさんでおおきい子たちを

連れてにげていました。

おたがいがおたがいの安否をしんぱいしていましたが、


それぞれに守るべきもの いま守れるものを判断できたために

かぞくが生きのこれたのです。


「そういえば、きみ、まいにち妹さんにおてがみを書いていただろう?

 そろそろ送ったらどうだい? きっとしんぱいしているよ」


「そうね。 あのこ、心配性だから」


こんなながい間、空けてしまうのははじめてでした。

今まであったことを書くには、

一通じゃすまないくらいの量になりそうです。


親じゃないときのわたしの時間は、

てがみを書くときくらいでいいかな


こどもたちがごはんをほおばっているのを幸せそうにながめながら

おもいました。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


おかあさんの苦悩と、日々のささやかなしあわせをテーマに書きました。

実は、「きつねのうさぎ」と関連があります。

ふたつのものがたりを見ていただければ、”すれちがい”を味わえるとおもいます。


もしよろしければ、ごらんください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 単体だと優しいお話でしたが、いつか妹側の事件を知るのかなあ……と思うと実に不穏です。 妹は姉の生存を知らないまま廃村を出るだろうし、姉の居場所を知らせる手紙は多分届かないよなー思うと、この…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ