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恋愛短編集:君に届く歌が歌えない。  作者: 甘宮るい
タイムオーバーシンデレラシンドローム
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タイムオーバーシンデレラシンドローム



 壊れたものはできるだけ早く治さないと治らなくなる。パンクした自転車を外に放置していたら手が付けられない状態になってしまった、というようなことを経験したことはないだろうか。とれかけたキーホルダーのその紐を早めに縫い直すもしくは取り換えておけばよかったのに、気が付けばとれてどこかに落としてきてしまったというようなことだ。

 心の傷にもどうやら期限があるらしい。

 王子様さえ見つけてしまえば自分のことをある程度、救済できると信じていた。そうすれば、どんなに生き辛い世界がきっと生きやすく輝いて見えると思っていた。

 そういえばパンドラの箱の話を誰からか聞いた時、希望はマイナスの感情だという話をしたような気がする。悲しみや憎しみの渦巻く残念な現在は希望すらなければ。そもそも希望というものがそれらをもっとややこしく逃れ難い感情にしているのではないだろうか。

 諦めかけている。

 というのが、今の私の心情を示す正しい表現だった。どうやら、私のこのどうしようもない傷の塊は膿んでもう手が付けられなくなっているらしい。瘡蓋の作り方も知らず、誰かがうまく治療をしてくれることもなく、自分でそのような処置をすることも自分から誰かにその患部を見せることすらできなかった。

 今更できるようになったとて、遅かった。


 素直極まりない人と人前ではしないような話をする関係になった。全ての私の発言に、行動に、何の裏もなく素直に反応を示す。分かりやすい人だった。

 その辺の人たちが忘れた純粋さを持っている代わりに、私とは別の意味で生き辛そうな人だった。エゴだった。その汚れを引き受けておけばこの綺麗なものは、そのままでいて、かつ私を癒してくれるだろうと思った。望んだ。

 死に救いを求めることができなくなった私はそれでも自分の救済を目的に呼吸をしていた。お互いにいい関係になると、推測した。

 ただ中を開ければそんなに簡単なものではなかった。そもそも患部が治せる状態じゃなかったのだ。それでもなお、どうにかしよう。それならせめて痛くないように、それが彼の考えだった。

 それはあまりにも単純すぎた。できればそうしているというのに。なおもその傷を痛いままにしているのは、そもそももう私自身だった。傷をつけたのは他人としても、それをそのままにし、その傷を抉っているのは私なのだと知っていた。

 そんな難解極まりない傷のことを、彼はどうにかしようとしてくれている。ただどうにかならない。私の日常に、この世界に、苦手なものが多すぎた。毎日のように振るってしまう理不尽に、なんとか耐え優しく患部を治療しようとしてくれる彼は、哀れだ。哀れで仕方ない。ここまでこれば可哀そうだ。

 早く手放すべきだと、急いでいる。焦っているものの、王子様として彼に希望を押し付けてしまった。希望は負の感情だ。

 この恋の終わりが透けて見えている。どうしようもなく諦め一人になりたい。もう放っておきたい。この傷はどうにもならない。私に残された猶予は何もなかった。


 病的な程、捻くれた感情をまた捏ねる私を彼はとても寂しそうにじっと見ていた。


お久しぶりです、何とか生きています。

一度完結させた短編シリーズですが、そういえば届けられない視点からの話しか書いていなかったかもしれないと思い、受け取れない側の話を書いてみました。

最近は長編の小説をオフラインでいろいろ書いていたのですが、やはり短編を書くのも楽しいですね。

私らしい綺麗さあるの短編をまたたまにあげられればと思います。


長くなりましたが、読んでいただきありがとうございます。よければ他のものもどうぞ。

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