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『ごめんね』




 謝って許されるなら警察なんていらない。人間がそれだけ、許容範囲の大きい生物だったなら争いなんてなかった、かもしれない。

 ずっと、ずっと、もう何時間もそれを反芻して、それに答えている。


「ごめんね」

 どうでもいい、勝手にしろ、なんて類の言葉は傷になってずっと残るから言ってほしくなかった。怒ってもいい、それなら仲直りができた。そんなことを言うから、私は飛び出した。いくらいつも大事にされていても、その場の言葉でそこまで蔑ろにされたら、私だって何が正解かわからなくなってどうしようもできなくなる。

 あの時、ドアを開けた私は自暴自棄になっていた。

「ごめんね」

 そもそも、ちょっと連絡をきちんとしなかっただけであんなに怒鳴らないでほしい。伝えるのを御座なりにした私も悪いかもしれないけど、あんな怒り方はない。帰りにお土産を買って帰ろうと思って、人気のタルト屋さんの行列に並んでいただけなのに。

 だって、甘いお菓子が好きでしょ。いつも笑って食べるから、貴方と出会ってどんどん甘いものが好きになって、最近太っちゃったのに。

「ごめんね」

 謝ったってもう遅い。許してなんてあげない。私の事情を聴いてほしかった。残ったタルトはどうしちゃうの、いつ帰ってくるの。いつ食べるの。

「ごめんね」

 私と一緒に食べるはずなのに。だから今も、冷蔵庫の中の箱に二つ一緒に入っているよ。

「ごめんね」

 仲直りをしようよ。いつもみたいに。確かに、怒って家を飛び出した私が悪いから。私もごめんねって言いたいよ。私のごめんねだって聞いてほしいの、お願い。一緒にお風呂に入ってデザートを食べたいの。本当はわかっていたよ、心配させたから怒ったこと。

 なんでわからないんだ、って怒鳴られてそれでも悲しかったよ。

「ごめんね」

 涙目になって怒ってこないで。私もどうしていいかわからなくなった。

 だから家を飛び出して、よく夜中のコンビニの帰りに寄っていた公園のブランコで待っていたよ、私。

「ごめんね」

 ごめんね。ごめんね。だから、早く抱きしめて、帰ってきて、つまらないことでケンカしてそのままなんて、優しい貴方らしくない。

 喧嘩の後は私のことを慰めながら、長い私の話を聞いてくれたのに。今日は聞いてくれないの。我儘だから、もうウンザリしたのかな。

「ごめんね」

 彼の顔は、携帯がないと誰かわからないくらいにぐちゃぐちゃになっていた。酔っぱらった運転手が信号を無視して彼を轢いた。最後の私への連絡は、ごめんねだった。愛していると入力しようとしたのだろう、あいまでが入力されて携帯は奇跡的に歩道に投げ出されていたそうだ。

「ごめんね……」

 彼はずっと私に電話をかけていた。イヤホンをして走っていたから、車に気づけなかったのだろう。服装も部屋着の黒いジャージだったから、運転手は尚更気づかなかったのかもしれない。

 私が外に飛び出さなければ、こんなことにはならなかった。

「ごめんね、ごめんね、私も」

 仲直りがしたい、そんな気持ちが残っている。それなのに私の言葉はもう届かない。どんなにぼろぼろの彼の手を握っても届かない。こんなに好きでたまらない、こんなに愛おしくてたまらないのに。

 彼という存在をこんなに欲しているのに。

「愛してるよ」

 間違いを全部消して行けたなら、愛情を確かめなんてしなかったら。

「ごめんね、すき、ごめんね」

 ただいまって笑って一緒にタルトを食べて、キスをしたい。

 涙が止まらない、嗚咽が響く。愛してる、愛してる愛してる。抱きしめたい。安心したい。貴方がいないと、もう笑って甘い物なんて食べられない。もう笑って、眠れない。もう笑って、生きていけない。もう笑えない。

「かえってきて、ほしいの」

 届かないってわかっているのに、なんでこんなにいつもより素直になれるのかな。

「愛してる、ごめんね、大好き」

 世界で一番、愛してる。

 ごめんね、仲直りのキスできないね。ごめんね。


書いてきたら涙がでてきて、なんだかしんどくなりました。

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