そんな私は、煙草に火をつけた。
「結城さんのこと、好きなんだよね」
酒屋の喧騒が遠のいていく。鞄の中に手を突っ込んでかき回して、そしてゆっくりと煙草を取り出した。
火をつけた。向かいに座る友人が、ぎっとこっちを睨むように見る。
「そっか、付き合いたいってこと?」
吐き出した煙が昇っていく。当たり前に今まで煙草は控えていた。
「え、うん。付き合いたい」
慌てたような表情のまま、そう言われる。
「私ね、君のそういう身勝手なところは嫌い。あと、値踏みするようなところとか」
「あ、え、俺とは付き合いたくないってこと?」
「ううん。まだそんな話までしてない」
煙草をまた咥えると、目の前の彼の表情が曇った。あえて、煙草を咥えたまま続ける。
きっとこの絵はすごく残念なものになってしまっているのだろう。万人受けするような普通の服、薄付きのメイク。こういうのは私の悪いところと言えるだろう。
「私は煙草を吸うし、1日1箱。フリーターのまま就職する気もない。ついでに親との仲もそこまでよくないよ」
この人から見える範囲の私とは違う私の話だ。
「坂口くんの嫌なところを直してほしいって話じゃなくってさ」
「あぁ、うん」
「そういうの知らないで恋愛できないでしょ、私のそういうとこは好きになれる?」
奥の席で盛り上がる客に掻き消されそうなほど曖昧な返答に、居ても経っても居られなくなって1万円をテーブルに残して、私は速足で店を後にした。
好きという単語に馬鹿真面目になって私は何をしているのだろう。普通に良い人だったのに。趣味だって合っていた。
「バカみたい」
それでも、きっとあの好きと私の中の好きは違うのだ。あの好きはきっと私のすべてが好きという事ではない。私の見せていた部分が好きというだけだ。
嫌いな部分を受け入れられるほどの好きでもない。そんな部分を受け入れられるほど、私も好きにはなれない。
水たまりで遊ぶような恋はしたくない。深海に沈むような、一度限りの人生に見合う恋がしたい。
そうでなければ、きっといらない。
お久しぶりです。当分オフラインでの創作活動に籠っていましたが久しぶりに短くて苦い話を書いてみました。お口に合うと嬉しいです。




