だから今更、君に期待なんてできない。
恋愛なんて人生の付属品だと、盲目に誰かに救われたいと願っていた私にある元彼は言った。代替え品を探しているクズと自分のことばかりなクズ同士、ソイツとはうまくやれた。
私はソイツの代替え品にはならなかったけど。
好きって言われると変なスイッチが入る。自分のどこが好きなのかと1から100まで問い詰めて、嫌いになってほしい。もしも自分が本当に誰かに必要とされる人間だったなら、これまでの人生の冷遇に言い訳がつかなくなる。
一緒に幸せになりたいなんて台詞を鼻で笑って、ただその気持ちくらいは利用した。
ただ救われたかった。救われないのを知っていた。どうにもできないのを知っていた。どうにもできないところまで来てしまった。
きっと根本的解決はこの先の何処にもない。
せめて最低なヤツとだけ一緒に居た。そのせいで最初のころよりもっと拗れていった。
きっと初めだったなら、いやせめて2回目とか。もっともっと前に出会っていたら、どうにかなった。
ならなかったかな。
人の言葉に良くも悪くも振り回される性格だった。殴られるよりも暴言を吐かれる方がつらかった。体が痛いのは平気だった。心が痛いのはもうだめだった。
心臓が握りつぶされるような罪の自覚、いつも変わらない君の態度。テーブルに置かれるグラスの音、テレビから流れる恋愛ものの映画の音。
核心に触れる話はいつもしない。
「明日は1限?」
「うん、そっちは?」
「俺は普通に仕事、だから今日は早めに解散かな」
時計の針の音。画面に集中する視線。
無理やりにこっちを向かせたら、どうなるんだろう。クズはクズらしくなれたらよかったのに。
「私、好きな人じゃなくて好きになってくれる人がいいと思うんだよね」
「ん? あぁ、大事にしてもらえるから?」
「ううん、一緒に居てあげるだけであっちは幸せでしょ? もし私が好きでだれかと付き合っても、幸せにしてあげられる自信ないしさぁ、そういう綺麗でかわいい女じゃないし」
「確かに、純粋って感じじゃないかもね」
「酷いなぁ」
「いやいや」
「まぁでもそうだよねー」
今すぐに記憶を消して、やり直しとか生まれ直しとかそういうのいいからさ。記憶を消して、縋りたかった。いや、もう一瞬でもいいのに。一瞬だけでもいいのに。
友達同士のこの距離は、絶対に縮まらない。すぐそこの手には絶対触れられない。
越えちゃいけない、一線。
「拗らせちゃったなぁ~」
こんな私じゃなかったらなぁ。
「……そのうちいい感じにいくんじゃね?」
そう言ってる君とは絶対にありえない、よね。
「私といると不幸になるよ~、クズだもん」
「うーん、俺は楽しいけどなあ」
そんな簡単じゃないんだよ。
「友達じゃん?」
「友達としていいやつだと思うよ」
あぁ、もうぐちゃぐちゃだ。
「俺これ見終わったら帰るけど、明日はどうする?」
「明日も見ようよ、なんでもいいからさ」
「何か見たい映画ない?」
映画じゃないよ、私が見てるのはさ。
「適当に探しとく~」
「おう」
綺麗なうちに、君に会いたかった。
もう今更、間に合ったりしないの。




