それはほんとうの、はじまり (第6話)空飛ぶ猟犬
<おー空でキャイキャイ鳴いてやがるなぁ。いつみても今にも落ちそうでかわいそうなもんだ。オレにはあんなひでぇことできねえなぁ>
ドローンの進路上にいる川島がエドの声を聞きつける。こうして交信する間にもドローンが猟犬を抱えて山の斜面に沿うように木立の少し上を飛んでいく。
一応理想としては翼面効果を得られるのならば僥倖だけれど、不規則な木立に対して外周のサイズが直径1m強のドローン程度では現実的ではない。
このやや山頂から下っていく航路もさらに川島の不安を掻き立てるのだろう。
さすがに一切障害物のない空中を時速20㎞で飛ぶと圧倒的な速さに感じる。
<100番(鷹士)よりみなさん、犬2号C2-D2間着地点です。幸い、緩傾斜で障害物もありません。微速降下。降下成功。機体は転倒気味ですが解放準備はできそうです。>
<99番より各員。犬2号バイタル正常、ワオワオはじまってる。うん。解放。続いて解放確認、エドは問題なし。GPS、無線とも正常。>
<100番(鷹士)よりみなさん、ドローンのほうは姿勢がよくありません、しばらく試行錯誤してみます。>
少なくともアランは無事目標地点付近についたみたいだ。
空中降下猟犬とは言うが、空中から投下するのはあまりに危険だし、当然のごとく諸申請や基準を満たさねば違法になる。
今回はドローンを地上に降下させたうえで、エドを固定していた装備を外したことで現地にて解放する手順である。
当然、障害物や降下地点次第では落ちてエアバッグその他緩衝材の世話になるシチュエーションもありえるので、それを避けられただけでもよかったとオカモトも息を乱しながら胸をなでおろす。
一方で野外の傾斜地に無理矢理降下したので当然だが、ドローンの状況はよくない。エドが目もくれず離れてくれたのが不幸中の幸いか。鷹士からは進行方向のカメラが上下反転に近い形で移す景色が見えていて、どうにも分が悪い。
当然、そういった報告も入るところなのだが、リーゼが通信管制で1:1対応をして通信対象の優先制御を行ってハンター相手には一時的にカットしている。今必要なのは猟犬の降下成功とドローンが再上昇不可能というところまでであり、その先の詳細は後回しでいい。
<17番より2番(川島)ほかへ。23番(相模)は北へ回り込んでください。目標ハア!D2!聞こえますか23番(相模)>
<ニジュ、ニ、23番(相模)だけど、追い付けないよ。ゼエ、遠いし速いゼエ>
<17番お前子犬だけでなくおじさんにもひでえなぁ。師匠の顔が見てみたいよ>様は作戦進行上不都合なのは明らかであり、それを急かすのは事ここに至っては自分も息が上がっていてオカモトには配慮できないのだろう。
ここで入れる茶化しはむしろ失敗への予防線や緊張を和らげる意味での川島なりの配慮なのかもしれない。
<17番です。23番(相模)距離速度了解。一応折り返しに備えてゆっくりでいいので移動続けてください。>
エドの降下位置はこれまでの進行状況からして獲物の前だろうということはこの瞬間の暗黙の了解だ。
<99番へ。空中から獲物の様子は見えましたか!>
<こちら99番。獲物の目視はなし。ドローン自体は再浮上まだ無理。犬2号進路は南西で定まるみたい。犬1号も頃合いだけどだけど解放する?>
<解放でお願いします!>
<ハルトシュタイナー、拘束解放します。犬1号解放、再追跡開始。次の緊急停止、エアの部分は強度的に2回目を万全に使えるかはわかりません。気を付けて>
<17番了解。犬1号停止位置近いです。位置関係からして犬は二
とも17番より西方面、標高が低い位置に向かってそうです。低い方に向かっています。谷の形からすると5番(本山)要注意でお願いします!>